第272回セミナー報告「ゴムのはなし
-身近にある不思議な材料-」2026年07月
2026年 07月 22日科学技術者フォーラム2026年07月度(第272回)セミナー報告
「ゴムのはなし
-身近にある不思議な材料-」
日時:2026年07月18日(土) 14:00~16:40
会場:品川区立総合区民センター(きゅりあん)4F第1特別講習室 + ZOOMオンライン
参加者:25名(会場22名、Web 3名)
講演者:上智大学理工学部物質生命理工学科研究員
ゴム技術フォーラム運営委員
マテリアルライフ学会常任理事 滝澤 俊樹 氏(元 ブリヂストン)
<講演要旨>
1.ゴムの歴史
・コロンブスがハイチ島からゴムを持ち帰った(1496年)ことにより、ゴムの歴史が始まった。
・ゴムへの硫黄配合(加硫)の発見で弾性・強度が向上し、実用化の契機となった。(1839年)
・木綿の足袋にゴムを貼付けた地下足袋はタイヤと同じ技術で、ブリヂストンの嚆矢となった。
・カーボンブラック(煤)の配合の発見でゴムが強靭化(1904年)
・自動車の大量生産に合わせてタイヤ生産が拡大していった。
2.ゴム産業について
・ゴム消費はタイヤが80%を超えるが、ゴム消費全体で天然ゴムは45%を占める。
・合成ゴムはナフサを原料としている。
3.ゴム材料について
・ゴムの弾性は、変形させる温度で結晶を生成せず、結合軸まわりの回転エネルギーレベルが低いことにより、もたらされている。
・ゴムが縮んでいる状態はエントロピー(無秩序さの度合い)が大きい状態で、ゴムが伸びるとエントロピーが小さくなり、熱を発する。
・ゴムを加硫させることにより、弾性、強度、耐久性などの性能が得られる。
4.天然ゴム
・天然ゴムは商用利用されている唯一の植物由来の素材である。
・天然ゴムは中南米原産だが、ブラジルでは風土病の影響でゴムの栽培は行われていない。
・東南アジアではタイ、インドネシア、ベトナムで多く生産されており、マレーシアでは現在はゴムからパームヤシに変わりつつある。アフリカのコートジボアールでの生産も多い。
・ゴムの木は植えてから約5年目から樹液採取、樹齢20年で3日ごとに樹液採取する。
・ゴムの木は挿し木で増やすので、病気蔓延で全滅する危険性がある。
5.合成ゴム
・合成ゴムは現在でも天然ゴムを手本にしている。
・溶液重合スチレンブタジエンゴム(SBR)は低燃費タイヤからF1タイヤまで幅広く使用
・ポリブタジエンゴム(BR)は屈曲疲労性や耐摩耗性に優れたタイヤに必要不可欠
6.カーボンブラック
・タイヤが黒いのはカーボンブラック(煤)を配合しているため。
・ゴムにカーボンブラック(煤)を配合する理由は、ゴム分子がカーボンブラックと反応して、補強構造を形成して、ゴムが強固になる。
7.加硫
・ゴムを加硫させる理由は、硫黄架橋によりゴムの弾性を強化するため。
・硫黄結合は切断して再結合・再架橋することが出来る特異な架橋構造を持つ。
8.タイヤ材料技術
・空気入りタイヤは、接地面のゴムと側面のゴムではゴム種、カーボンブラック種・量、加硫剤などの配合割合を変えている。
9.タイヤ業界のサーキュラーエコノミー
・廃タイヤは焼却処理が多く、製鉄所は脱硫設備が完備しておりカーボンブラックはコークスの代替材料となるので重宝されている。現在は製紙工場での廃タイヤの利用が多い。
・ゴムの再生は硫黄やカーボンブラックが配合されているため、かなり困難である。タイヤ面の張替えるリトレッド技術は実用化されている。航空機のタイヤはリトレッドタイヤであり、バス、トラックのタイヤもリトレッドタイヤが普及している。
・天然ゴムの代替材料として、グワユールやタンポポが検討されている。
<質疑応答>
(1)ゴムを圧縮した状態から力を除くと元に戻らないことがあるがどのようなことか?
⇒戻らないのはゴムの架橋剤の配合状態に依る。適正に配合されれば完全に元に戻る。ただし、温度の影響はある。
(2)タイヤのバースト事故が多いようであるが状況は?
⇒バーストの原因は空気圧不足である。現在のタイヤは高速走行でも問題ない。バーストは補強材とゴムの間の接着トラブル場所で生じるが、100℃程度の条件で耐久試験を行ない、十分に安全性を確認している。
(3)昔輸送中赤道直下を通過したことによって、ポータブルVTRに使ったサーボ用ゴムベルトに異常があった。現在の技術ではどうなのか?
⇒天然ゴムは熱に弱い。現在ではポリブタジエンゴムあるいはクロロプレンゴムを使用し、さらに安定剤を加えて耐熱性に優れたものを使用している。
(4)オールシーズンタイヤが使用されることが多いが、スタッドレスタイヤに比べて性能はどうか?
⇒最近、住友ゴムでシンクロウェザーというオールシーズンタイヤが発売された。これは天候に合わせてゴムの硬さが変わるものである。ただ全体のバランスを考えるので、燃費は良くない。海外では融雪剤を多く撒くので、スタッドレスタイヤでなく、オールシーズンタイヤを使用することが多い。ある程度スリップしても構わないという考えである。日本では融雪剤をあまり使用しないので、スタッドレスタイヤを使用することが多い。
<所感>
大変、興味深いお話をお聞きすることができました。
身近な材料であるゴムについて今まで話を一度も聞いたことがなかったので大変勉強になりました。
今でも天然ゴムの比重が大きいことや、合成ゴムは天然ゴムに如何に性能面で近づけることができるかが目標になっているという話は大きな驚きでした。
ゴムに硫黄を加える必要があることは知っていましたが、硫黄を加える(加硫)ことにより、ゴムの分子同士が硫黄で橋渡し(架橋)され、優れた弾力性と耐久性を持つようになること、「架橋」の意味も理解できました。
ゴムは大変身近な材料でありながら知らないことが実に多かったことを改めて認識することができ、ゴムに関する認識を全く新たにすることができたことに対して、深く感謝申し上げます。
【角野章之】