第268回セミナー報告「屋外で使う木材はなぜ灰色になるのか?
-木材の耐候性を考える-」2025年10月
2025年 10月 20日科学技術者フォーラム2025年10月度(第268回)セミナー報告
「屋外で使う木材はなぜ灰色になるのか? -木材の耐候性を考える-」
日時:2025年10月11日(土) 14:00~16:45
会場:品川区立総合区民会館(きゅりあん)5F第1講習室 + ZOOMオンライン
参加者:33名(会場31名、Web 2名)
講演者:日本大学生物資源科学部森林学科特任教授 木口 実 氏
木材塗装研究会会長、(公社)日本木材保存協会副会長
<講演要旨>
1.木材のエクステリア(屋外での)利用
(1)木質バイオマスは樹木の光合成から得られる。(CO2+H2O ⇒ O2+糖質C6H12O6
(2)世界の木質バイオマス資源の蓄積量
総陸地面積の31%(40.6億ha)うち天然林93%、人工林7%
世界の森林資源蓄積量 2020年:5,570億㎥
森林内総炭素蓄積量:6,000億トン(地上部44%+泥鰌有機物45%)
(3)日本の森林資源: 55億㎥ ⇒ 年間6,000万㎥増加している。
日本では樹齢50年を超える人工林が50%を占め、樹齢50~60年の森林が一番多い。
樹齢50年以上の樹木を伐採しなければ植林できない状況にある。
樹齢50年以上の樹木を伐採・活用するため木材の新たな需要開拓が必要である。
何もしないと樹木は枯れてしまい、貯蔵した炭素はCO2として大気中に放出される。
日本の森林率は69%でフィンランドやスウェーデンとほぼ同じ規模である。
しかし、日本は木材の伐採量は北欧諸国の半分以下である。
日本は豊富な森林資源を持つのにうまく利用できていない。
(4)非住宅市場の開拓による森林資源の需要拡大が必要。
少子化で新規住宅着工戸数は減少している。
中高層ビルやエクステリア部材などこれまで木材が使用されていない非住宅分野や化石資源代替利用分野での森林資源の需要拡大が必要である。
・住友林業が創業350周年となる2041年を目標に高さ350mの木造超高層ビル建築を計画
・ヒートアイランド対策として屋上緑化よりも木材による被覆の方が断熱効果は高いので、木材によるヒートアイランド対策需要発掘が必要。
・米国では支柱に木材を使用したガードレール(レールは鉄製)などの道路用部材として木材が普及しているが、日本では外観重視のためレールに木材を使用しており、設置費用が高額のため日本では普及していない。
・木材をコンクリートパネルに代わるパネル材として使うCLT(Cross Laminated Timber)の利用による用途拡大。
(5)屋外における木材の劣化
木材劣化は気象変化(変色、干割れ、浸食)、生物劣化(腐朽、蟻害)からなる。
日当り、雨掛かりが多いと木材は数ヶ月で灰色化するが、表層(1mm以内)の変化に留まる。
木材の主要化学成分であるセルロース(40~50%)、ヘミセルロース(20~25%)、リグニン(20~25%)のうち、芳香核構造からなるリグニンが光に弱く、紫外線によって分解される。
一方で、セルロースは光に対する耐性が大きい。
紫外線が強いと木材は黄変し、暗色化し、可視光だけだと白っぽくなる。
このため窓越しの光は紫外線がガラスで吸収されるので、窓際の床材は白っぽくなる。
木材が灰色化する原因は、光変色し、分解した着色成分が雨水で溶出することで木材が淡色化して、そこにカビが生えることで灰色化する。さらに雨水や砂塵で浸食されることにより木材の表面が凹凸化する。
木材の耐候性を向上させるには、木材表面の紫外線劣化を防ぐための着色や遮光、木材表面の水の侵入を防ぐには庇や軒の利用や撥水剤の使用が必要である。
2.エクステリア木材の保護技術
(1)木材塗料には、木目が見えない着色(エナメル)仕上げ、木目を見せる半透明仕上げがあり、防カビ剤や防藻剤、撥水剤などの有効成分を含み屋外における木材の半透明仕上げを目的とした塗料を木材保護塗料と規定している。
木材保護塗料には、塗膜を形成する造膜形と塗膜を形成しない含浸形がある。
木目がよく見えるほど、木材素地が光劣化し易い傾向がある。
(2)木材保護塗料の塗り替え
木材保護塗料塗り替えの目安は、造膜形は5~7年、半透明造膜形は3~5年、半透明含浸形は2~3年とされている。
(3)耐候性を延ばす対策
木材が粗挽き面の方が塗料浸透が深くて、塗布量も増えるため、耐候性が延びる。
塗装耐用年数を伸ばすための前処理として、銅アミン錯体を含む保存薬剤の注入処理がある。
セルロースナノファイバー(CNF)含有フィルムは酸素をほとんど透過させないと言われており、これを配合したシーラー(下塗り剤)を塗装後にトップコートとして木材保護塗料を塗装すると耐候性が大きく向上する。
(4)灰色塗装
屋外の木材は灰色化するので、初めから灰色塗装を施すことにより再塗装の必要がなくなる。
ex.新木場の木材会館ビル
(5)木材保護塗料の塗装ポイント
・塗装耐候性は木材表面を太陽光から守れるかで決まる。
太陽光の遮蔽効果の高い塗料ほど耐候性大、クリア塗装では1~2年が限度
・含浸形保護塗料の耐候性は木材表面の塗料塗布量で決まる。
乾燥した木材への塗装(含水率20%以下)、表面の粗化による塗料塗布量の確保
<質疑応答>
・ セルロースナノファイバーのガスバリア性の説明があったが、水蒸気のバリア性はどうか?⇒水蒸気に関してもバリア性はある程度あるのではないか。
・ 木材のエクステリア利用での変色は日光と水によるものだが、アルカリや酸による変色の影響はどうか?
⇒アルカリや酸による変色は、木材に含まれる化学成分との反応によるものである。
・プラスチックの添加剤と木材の塗料との本質的な違いは何か?
⇒プラスチックは組成がほぼ一定である場合が多いが、木材は天然物であるため樹種や各固体により様々な化学構造であるため、個々で組成が変わることが大きい。
このため木材の塗装ではメンテナンスが欠かせない。
・日本の伝統的建築物の塗装には朱が使われることが多いが、朱は塗料としてはどうなのか?
⇒朱は高価であり一般的な建築用途には向かない。日本家屋では黒塀など黒煙による黒塗装がある。
・塗料は半製品であり、実際に塗装に使って初めて製品と言える。大工の仕事も昔は鉋で削る作業などは当たり前の作業だったが、今では加工された部材を組み立てるだけになっており、塗装技術も例外ではなく、最近は塗装技術の劣化も激しい。
塗料の耐候性は、塗装技術の良し悪しで、塗装の耐用年数は全く異なるというのが実情である。
<所感>
大変、興味深いお話をお聞きすることができました。
特に私自身の認識としては、森林資源は保護対象であり、木材の伐採は間伐材の伐採程度に留めるべきものと考えていました。
しかし樹齢50年以上(老木ではCO2の固定より放出の方が多い)の樹木を伐採しなければ、新たな植林を行なえない状況にあるとの話は衝撃的でした。
少子化等に伴う木造住宅需要の減少により木材需要が減少しているため、木材の新たな需要開拓を行ない、ある意味で人工林を新陳代謝してゆく必要があるということを認識したことは大変有意義でした。
あまり知らない分野であったにも関わらず、このたびの講話で認識を全く新たにすることができたことに対して、深く感謝申し上げます。
【角野章之】