第264回 セミナー 報告「近年の自然災害を振り返る~災害多発の時代にどのように生き抜くか?災害科学の役割と今後~」2025年4月
2025年 05月 03日科学技術者フォーラム2025年4月度(第264回)セミナー報告
「近年の自然災害を振り返る~災害多発の時代にどのように生き抜くか?災害科学の役割と今後~」
日時:2025年4月26日(土)15:00~17:30
会場:会場(品川区立総合区民会館)+ ZOOMオンライン
参加:42名(会場33名+WEB9名)
演者:東北大学副学長(社会連携・校友会・基金担当)
災害科学国際研究所 津波工学教授、工学博士 今村文彦先生
【講演要旨】
1.近年の主な自然災害
(ア)東日本大震災から14年が経ち、被災地での復旧・復興、さらには福島原子力発電所の廃炉や、様々な対応を実施しているが、課題は非常に多い。しかし、日本にとって災害からの復興や福島での廃炉や除染の実施は必須である。今回は多発する自然災害(被害)と複合災害がテーマ。その中での災害科学の役割と今後についてお話をしたい。
(イ)災害は、ハザードの規模だけではなく、我々がどこにいるのか、どのような事前準備と直後での対応をしているのかによって被害が大きく変わる。日本は多彩な自然災害が発生し、地震・噴火(一部津波)や風水害が交互に発生するので、国民の自然災害への関心は非常に高い。だが、意識や備えは十分ではない。
2.地震について
(ア)マグニチュード8クラスが予想される南海トラフ地震は、プレートの境界エネルギが解放することで発生する地震である。繰り返し発生するので、被害想定等を比較的予測しやすく、防災指針を出しやすい。
(イ)一方で、マグニチュード9規模の東日本大震災は約千年に一度の事象で、プレート境界地震である。この規模、特に津波規模は予測できなかった。また一方、2024年の能登半島地震は連続した直下型地震である。日本にはこれら2つのタイプの地震があり、プレート境界型は、概ね100年に1度、直下型はプレート境界型より低頻度といわれる。因みに、関東は3つのプレートが重なり合っており、世界的にも激甚災害が発生するリスクが高いといえる。このような場合には、耐震化等の事前防災力や対応を向上すれば被害は軽減は可能である。
3.リスクについて
(ア)リスクを3つに分類すれば、事前の備えや知恵を出しやすいと考える。
①《同じ地域での繰り返されるリスク》:
「備えあれば憂いなし」であるが、備えは継続させる必要がある。本件はコントロールできるリスクである。
②《他の地域でのリスク》:
他地域からの情報を連携し、共有しながら、今の対応や対策を強化することにより、災害発生時の被害を軽減できると考えられる。
③《未経験のリスク》:
予想が難しく起きてみないとわからないので、対応力や危機管理能力,回復力を上げるための「レジリエント」が必要である。
(イ)危機管理対応のポイント
危機管理は、対象を絞らないで、起きたもので情報を共有し、トップが把握して、部署に限らず、できるところで対応するというフレキシブルな考えが必要であろう。
(ウ)レジリエント
① 今、世界で叫ばれているキーワードの1つである。例えば「竹」(軽さと強さを併せ持つ理想的な構造)のように、抵抗力を弱めて、かわし乍ら、しなやかに回復する。これこそがレジリエントである。
② レジリエント向上を目指すには様々な要素が重要である。その中でも、個人の認識や意識が大切であり、我々の姿勢として単に聞くだけではなく、連携しながら、他人事と思わず、協力し合い、更に危機管理の視点を持って、何があってもどのようにかわし乍ら対応するかが重要と考えられる。
4.災害科学について
(ア)コンセプト
①自然災害は、多くの場合繰り返すので、過去の経験は大切である。また一方で、被害の状況は変化する。ハザードは自然現象であるが、被害は暴露性と脆弱性で決まる。この場合、ハザード(現象自体)はコントロールできないが、暴露性と脆弱性の低下と対応力を向上させてるというレジリエント社会は我々で作ることができる。なお、脆弱性は「我々の持つ弱さ」であり、暴露性は「もともとある自然条件の弱さ+我々の活動であり、被害の受けやすさを」とされる。
②「過去」に学ぶことは多い。我々の祖先は、経験と教訓を繋ぎ防災文化を形成しており、それらを今の我々が理解し、将来に備える。その伝承活動が重要である。「現在」我々は災害の間に生きている。従って、「過去」、「現在」、「未来」の3つのフェーズで、過去・現在を踏まえ、未来を考える必要がある。兎に角、防災減災の活動は短距離走ではなく、マラソンである。継続が重要である。次に備え、考えて動かねばならない。
(イ)複合災害を考える
①地震発生後に様々な連鎖の災害が起きる。揺れの後の火災・津波、漂流物による被災、電源喪失、さらに交通インフラへの影響(東北新幹線の脱線)、等がある。事前の準備・議論などの対応が如何に被害を少なくするかなどの話題を提供頂いた。印象的なのは以下のとおりである。
②《黒い津波》:海底からの土砂やヘドロを巻き込むもの。これは、密度が高く、波力が大きく、逃げる被害者がヘドロを飲み込む可能性あり。乾燥後に大気に巻き上がり、津波肺を起こすことも報告された。⇒今後、東京湾や伊勢湾も同様の問題が出る可能性あり。
③《3.11での気象庁の津波予想高さの問題》
ⅰ.過小評価の第1報で安心と判断したことで、被害が拡大した状況もあった。日本人はせっかちであることや、思い込みや都合の良い情報があると都合のよう方向に解釈してしまう傾向が人にはある。これは心理的なバイアスでもあり、このような状況をしっかり理解し、正しい判断をする必要がある。
ⅱ. 津波(特に巨大)は、最初の段階では判断できず、逸早い情報が必要なので数値を出していた。しかし、実態の規模を短時間で推定することは困難であった。今後も同様であるので、巨大地震の発生した場合、気象庁は現在では津波高さを速報値として出していない。「かなり大きな地震が起きました。だから皆さん早く避難してください。」と伝えるようにしている。
④ 他にも、南海トラフの臨時情報なども出された。曖昧な情報であっても、できるだけ情報として出していく方向である。その上で、「政府や自治体からの呼びかけに応じて、それぞれで対応を取ってください」という情報は、実は「自分の責任で対応を取ってください」という意味であることを理解すること。
(ウ)「災害科学」の学問研究領域
①防災科学研究拠点は2007年に発足 ⇒ 3.11東日本大震災はその枠を超えるものであった。
② 2012年に文理医の共同組織として「災害科学国際研究所」を発足させた。初代所長は歴史学者、2代目は津波工学者、3代目は災害医学者(公衆衛生学)である。世界的にもない学際連携した横断組織。
【主な質疑応答】
Q1:2011年の東日本大震災の前と後とで津波への対応は変わったのか?
⇒ 大きく変わった。前は、既往最大であるが、現在は、将来に予測・推定できる最大ものまで引き上げた。対原子力発電所でいえば、安全レベルが10のマイナス7乗まで引き上げられた。設計的に可能性のあるものを超えて設定している。確率的評価である。
Q2:2014年8月11宮崎で地震が起き、地震臨時情報が出たが、元々日向灘地震と南海トラフの地震の連動性はなかったと聞いている。センサなどの測定で、連動性が確認できたのか?
⇒ 過去なかったというのは限られた今までのデータからの評価であろう。100年程度の観測データでは確かに連動性はないと考える。しかし、低頻度で発生する事象は、もっと過去に遡った事例と考えられる。この為、今は仮想的に様々なシナリオによる数値シミュレーションで想定している。モデル的に見ると、優位的に「ある可能性がある」と考えるので、注意が必要であると思っている。
【所感】
報告者も自マンションの自主防災会に参加しているが、今回の講演は非常に参考になった。防災に関する情報を誤解のないように如何に伝え、発災時の具体的行動を議論し、現実のものとするか、日々考え、工夫していかねばならないと感じた次第である。最後に、ご多忙の中、講演をお引き受け頂いた今村先生に感謝申し上げ、今後の益々の発展を祈念申し上げます。
【報告者:後藤充伯】
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【東北大学FUKUSHIMAサイエンスパーク支援基金】へのご協力のお願い
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東北大学では,東日本大震災後の復興や再生支援のために福島県浜通りで新しい取組を始めました。その1つが,「BOSAI人材育成プログラム」です。
https://www.kikin.tohoku.ac.jp/project/support_the_project/fukushima
是非,ご理解を頂き御支援・ご協力をいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。 今村 文彦