第262回セミナー報告「微細藻類によるカーボンリサイクルの展望と要素技術の開発」2025年2月
2025年 02月 17日「微細藻類によるカーボンリサイクルの展望と要素技術の開発」
日時:2025年02月08日(土) 14:00~16:45
会場:品川区立総合区民会館(きゅりあん)5F第3講習室 + ZOOMオンライン
参加者:33名(会場23名、Web 10名)
講演者:濱崎研究室 代表 濱崎 彰弘 氏
技術士(機械、総合技術監理、環境、生物工学、化学、経営工学)
<講演要旨>
1.微細藻類の特長
バイオマスとして活用するためには次の条件が必要である。
・太陽光とCO2と水の光合成反応で再生可能 ・ カーボンニュートラル ・貯蔵可能
・代替性あり ・膨大な賦存量 ・エネルギーを普遍的に生産可能
・適切な管理により資源量が一定の割合で増加
⇒植物油や動物の脂肪などの生物由来の油や油脂は1万kcal/kgと石油と同等の発熱量。
微細藻類は生産速度が大きく農地と競合しない、海水で生育可能、連作可能という特長。
⇒微細藻類はバイオマスとして活用できる。
2.微細藻類の用途
(1)エネルギー生産
ラン藻(水素生産藻類):大気中の窒素からアンモニアを作る酵素による水の還元で水素発生
ボツリオコッカス:油を細胞外に産出
(2)生化学物質 抗生物質、トキシン(毒物の薬物への利用)、酵素阻害物質
(3)健康食品 単細胞生物で、細胞中に生きるための全栄養素が含まれる完全バランス食品。
藻類は植物で細胞壁を持ち消化され難いので、健康食品として利用する際には細胞壁の破壊が必要、ユーグレナには細胞壁が無いので消化され易い。
(4)飼料、餌料
(5)廃水処理 窒素やリンの排水からの吸収除去(排水処理)と藻類エネルギー生産の一石二鳥により、排水処理とエネルギー生産コストは激減する。
3.事業化済、あるいは事業化が期待されている有用藻類
・クロレラ ・スピルリナ ・ドナリエラ ・ユーグレナが大量培養に成功している。
※ボツリオコッカスは大量培養に成功していないが、カーボンニュートラル燃料の生産に期待。
4.大量培養技術と課題
微細藻類の大量培養は、以下の問題を抱えている。
・屋外開放型培養槽では、水分の蒸発により水深を浅くできないので藻体濃度を高くできない、ワムシやミジンコなどの動物プランクトンのコンタミ(汚染)を防ぐことができな、植え継いだ株よりも野生株が優勢になるなどの課題がある。
・密閉型培養槽は水が蒸発しないので太陽光を利用する時は強制冷却が必要、藻体濃度が高いので単位藻体当たりのCO2量が少なくなるので、ポリエチレンやポリプロピレンの疎水性多孔質膜を中空糸状に成型し、それを数千本まとめてモジュール構造にして、ストロー内に培養液、外部にガスを通して、ガス交換により大量のCO2を培地に供給しすることが必要であるが、これが非常に高価であるので、安価で効率的なCO2の供給システムが必要という課題がある。
・光ファイバの側面から光を出すように改良し、光を供給する側面出光型光ファイバ培養槽は、ポリエチレンやポリプロピレンの疎水性多孔質膜を中空糸状に成型し、それを数千本まとめてモジュール構造にして、ストロー内に培養液、外部にガスを通して、ガス交換により大量のCO2を培地に供給しすることで、培養槽の小型化を図ることが可能になった。 しかし、光ファイバと中空糸モジュールは非常に高価で、低コスト化が課題である。
・LED照射濡壁塔型培養槽は、垂直な管の内壁に沿って培養液を流下させ、管の下部からCO2リッチの気体を流し、管の外側からLEDで照射して、藻類を培養する方式で、CO2吸収が極めてよいので、高価なCO2吸収モジュールや光ファイバを使わず、安価なLEDで代替可能な方式である。 これを応用した構想として、太陽光と風力の余剰電力を安く買い取り、微細藻を培養して、燃料に転換し貯蔵し、電力需要に応じて発電する。微細藻培養は発電所に併設することで、CO2とO2もリサイクルできるようになる。
5.事業化/新規参入のポイント
有価物の重量単価は、食料(Food)、繊維(Fiber)、飼料(Feed)、肥料(Fertilizer)、燃料(Fuel)の順であり、単価は安いが大量消費する有価物の生産が理想だが、現実には単価が高い有価物の生産に留まっている。
福島県で藻類燃料生産の実証事業を行なったが、普通にやるとコストが膨大になったが、下水処理と組み合わせることにより、劇的なコストダウンを図ることができた。(リッター:95円)
6.微細藻類によるカーボンリサイクル
CO2排出を抑制するためCO2に値段をつけ、CO2排出者からCO2処理業者が処理費を徴収するカーボンプライシングをウィリアム・ノードハウス(2018年ノーベル経済学賞)が提案。
世界のCO2排出量335億トン/年から試算
⇒微細藻類の必要培養面積は6億ヘクタール必要。
⇒世界の耕地面積の38%、森林面積の15%の広大な面積で、耕地や森林と競合しないようにするためには砂漠か、海洋で行う必要がある。
⇒上記を前提に試算すると、藻類燃料:100円/LならばCO2処理費用:31千円/トンを賄えることができ、燃料売価次第でビジネスベースに載せることが可能となる。
<質疑応答>
①カーボンニュ-トラル、あるいはカーボンクレジットについての今後の展望は?
⇒微細藻類の大量培養技術の実現次第だが、現状では難しいので不確かである。特にブルーカーボンの点では、微細藻類は腐りやすいので貯留に向かない。
②濡壁方式のパイロットプラントは実現されているのか?
⇒未実施である。
③屋外での微細藻類の培養は実施されているのか?
⇒コンタミの問題がある。ミジンコが発生しダメになった例があり、温室内で実施している。
④RW方式でCO2は効率良く利用されているか?
⇒窒素が含まれていると問題があるが、純粋のCO2を利用すると効率が高い。その理由はCO2の溶解速度がCO2濃度に比例するからである。火力発電所ではCO2が5~15%であるが直接バブリングするとCO2の溶解とともにCO2濃度が低くなるので溶解速度がだんだん小さくなるが、100%に上げると溶解しても気泡が小さくなるだけで気泡の中のガス濃度は100%のままなので効率が良くなる
⑤微細藻類培養槽は、光の透過性を考えると浅いほうが良いのではないか?
⇒浅くて藻類濃度が高すぎると底迄光が届かず光の届かない場所の藻類がマイナスとなる。一方、藻類濃度を低くすると底迄光が届くがそれがエネルギーのロスになる。培養槽の濃度と深さの最適な組み合わせがある。それは、培養槽の底の照度が光補償点(光合成の酸素発生と藻類の呼吸が釣り合う照度)となる、藻類の濃度である。水深が浅いと濃度が高く、水深が深いと濃度は低くなる。濃度と藻類濃度が最適な関係であれば、単位面積当たりの光合成速度は水深によらず同じ値になる。
⑥諏訪湖のように汚染されていて、窒素、リン濃度が高いところで本技術の利用は可能か?
⇒諏訪湖ではアオコの発生が著しく、悪臭があり、毒性があるので、難しい。
⑦光合成技術の利用はどうなっているのか?
⇒光合成を人工的に再現することは難しい。
<所感>
「微細藻類」は自然に増殖してゆくものという印象を持っていたのだが、大量培養には難しい課題が多いということをよく理解できた。
なお福島県で藻類燃料生産の実証事業に関して、コストが膨大になるのを下水処理と組み合わせることにより、劇的なコストダウンを図ったという発想は、現実解として大変参考になった。
また本セミナーのタイトルにもなっているカーボンリサイクルに関しては、未だ夢物語の感はあるものの、実現可能性があることを理解できた。
自分にとって全く知らない世界のテーマであったにも関わらず、このたびの講話では、数々の実例をご紹介して頂くなど、大変貴重で有意義な講話をして頂きましたことに、深く感謝申し上げます。
【角野章之】