第261回セミナー報告「乳酸菌の健康機能について」2025年1月(制作中)
2025年 01月 29日科学技術者フォーラム2025年1月度(259回)セミナー報告
「乳酸菌の健康機能について」
日時:2025年1月11日(土)14:00~16:35
会場:品川区総合区民会館(きゅりあん)5F第3講習室+ZOOMオンライン
参加:32名(会場21名、WEB11名)
講師:農研機構 食品研究部門 食品健康機能研究領域 ヘルスケア食グループ長
農学博士 木元 広実 氏
【講演要旨】
1. 乳酸菌の基礎
・乳酸菌とは:①グラム陽性菌、②カタラーゼ陰性、③通性嫌気性、④消費したグルコースに対し50%以上の乳酸を生成する菌(ビフィブス菌(50%未満の乳酸を生成)は偏性嫌気性)。
・乳酸菌は、生乳や植物、動物、漬物、チーズ、ヨーグルト、酒、味噌、土壌など、どこにでもいる。
・ヒト腸内に棲息する乳酸菌:Bifidobacterium, Lactobacillus, Enterococcus など。
・ヨーグルトとは、乳及び乳製品を発酵して得た凝固乳製品。国際規格では、最終製品中にブルガリア菌とサーモフィラス菌が多量に生存している必要あり。
・乳利用は、BC6000年頃から。BC3500年頃のメソポタミヤ地方の石板に飲用、乳加工の記録。
・原料乳は、牛、水牛、羊、山羊、馬、ラクダ、ヤクなど。
・発酵乳をさらに加工した多くの乳製品あり。
・乳酸菌飲料には、無脂乳固形分率や乳酸菌数、殺菌の有無などによって様々な種類がある。
2. 機能性乳酸菌の選抜
・乳酸菌に関する特定保健用食品(トクホ)や乳酸菌を関与成分とした機能性表示食品を紹介。
・トクホは、食品ごとに有効性や安全性の審査を受け、消費者庁の許可を得る必要がある。
・機能性表示食品は、事業者が自らの責任において、科学的根拠に基づく適正な機能性表示を消費者庁に届け出た食品。
・プロバイオテクス:「適量摂取した時に宿主の健康に寄与する生きた微生物」と定義(FAO/WHO)
・プレバイオティクス:「結腸内に住み着いている有用菌だけの増殖を促進したり、その活性を高めることにより宿主の健康維持に有利に作用する難消化性の食品成分」
・シンバイオテックス:プロバイオテクスとプレバイオティクスの両方を含むもの。
・乳酸菌の安全性:食経験有、有害な代謝活性や遺伝子伝達リスクがない、抗生物質耐性なし等があげられる。
⇒ Leuconostoc, Lactococcus, Lactobacillus などの乳酸菌はGRAS(一般的に安全な菌)とみなされている。
3.機能性乳酸菌の製品への利用例
・農研機構が保有する乳酸菌H61株を使ったヨーグルト(用途特許を取得)
~チーズ風味のヨーグルトが出来る(この株は1950年代には分離されていた)。
~特許を使用して、茨城県、岩手県のメーカーで商品化されている。
~当該ヨーグルトの開発は、茨城県工業技術センターとJA常陸と共同で行った。
・H61株の機能性は、マウスで骨密度減少抑制、皮膚の劣化抑制、加齢性難聴抑制、ストレスによる抑うつ行動低減、加齢による記憶力低下抑制等が、また犬の老化抑制、ブタで免疫応答変化が確認されている。さらにヒトでは、肌の乾燥抑制、鉄栄養状態改善が確認されている。
・マウスの老化進行に関連する脱毛や骨密度減少、難聴などの抑制作用は、死菌でも効果があり、また老化が始まってから摂取しても効果があることが確認できた。
・農研機構では、老化抑制作用(骨密度減少抑制、肌の乾燥抑制など)、脂質代謝改善作用、免疫賦活作用、ブタ胃ムチンへの付着性、腸上皮細胞付着性、炎症反応抑制作用、抗酸化作用、メラニン産生抑制・毛乳頭細胞賦活作用などの機能を有する乳酸菌を保有している。
・食品サプリ、化粧品、ペットフード、育毛剤等への展開を考えている。
・欧米では、ヨーグルトは500ml/日程度摂取されている場合もある、チーズで機能性乳酸菌を摂取する場合は、より少量で有効。
・プロバイオティック乳酸菌の多くは乳中での生育が良くないものが多いが、農研機構はチーズ製造に適した機能性ラクトコッカス属の菌を多く保有しているので、プロバイオティックチーズの製造を考えている。
・産業界では食品産業、畜産業、美容業界に貢献したい。
【主な質疑応答】
Q1. 農研機構とは?
⇒農研機構は2001年4月に農林水産省に属する研究機関を統合して発足。
Q2.乳酸菌の発見経緯は?
⇒自然界に存在する乳酸菌の影響で発酵乳は昔から様々なところに存在していた。味の良い発酵乳に着目して、それから乳酸菌を取り出し、有効利用するようになった。
Q3.ヨーグルトを自宅で製造しているが、10年位経つと良いものが作れなくなるのは何故か?
⇒自宅でヨーグルト(例、カスピ海ヨーグルト)を作る際、どうしても雑菌が混入して変質し、臭いや粘りが変化する可能性がある。また、乳酸菌の世代を重ねるうちに、乳酸菌が変質してくる可能性があるので、定期的に新しい種菌への変更を推奨する。
Q4.乳酸菌の作用?
⇒人、年齢、健康状態により乳酸菌等の腸内細菌群の菌叢(フローラ)は異なり、その作用は違ってくる。
Q5.種菌とは1種類の菌株からなるのか?
⇒乳酸菌の種菌は、一般的には1種類の菌株ではなく、複数種の菌の集合で、そのバランスが重要である。日本のチーズの種菌は今まで歴史のある海外のものに依存していたが、国産化を進めつつある。農研機構は約6000株の乳酸菌を有し、-80℃で凍結し、保管している。
Q6.乳酸菌の量的効果は?
⇒一定量の摂取が必要(概ねmlあたり108~109個レベル以上)。摂取期間としては機能性によって異なるが、「肌のうるおい」の場合には、4~6週間飲み続ける必要がある。
Q7.ナチュラルチーズとプロセスチーズの違い?
⇒ナチュラルチーズは生乳を乳酸菌で凝固させ熟成させたもの。プロセスチーズはナチュラルチーズに乳化剤などを加えて加熱して溶かし成形したものである。前者では乳酸菌は生きているが、後者では死滅している。
Q8.乳酸菌H61の機能性の程度?
⇒マウスでの試験結果を除くと、ヒトに対しては「肌の乾燥抑制」の効果が顕著である。
Q9.農研機構の乳酸菌の使用?
⇒使用料を払えば、契約して利用可能である。
Q10.日本での乳酸菌の使用について
⇒明治以前は牛乳を飲む習慣が無く、味噌・醤油等の発酵食品や漬物などから乳酸菌を体内に取り入れていたが、不健康と言われるようなことは特に無かったと思われる。
Q11.乳酸菌の探索
⇒乳酸菌にはいろいろな種類があり、有用な機能を持つ乳酸菌を探す努力がなされている。1950年代にH61株を発見し、その後、同株の持つ有用な用途を発見して、特許を取得した。
Q12.乳酸菌の特許はどういう単位で申請できるのか?
⇒特許は新たに見出した機能用途ごとに申請できる。
【所感】
乳酸菌について基礎から説明して頂き、「今更聞けない。」ことの勉強もできました。牛乳を生活の中に取り入れてきた欧米とは違い、日本は原料牛乳を乳酸菌で加工する製品は弱いものの、漬物や味噌・醤油等で利用して来たのも実感できました。
食は生物の根本です。この分野の研究者・技術者が日本人の健康のためにも頑張って頂く事を期待しています。 【報告者:碇 貴臣】