第259回セミナー報告「自動運転の実用化の現状と将来」2024年11月
2024年 11月 18日科学技術者フォーラム2024年11月度(259回)セミナー報告
「自動運転の実用化の状況と将来」
日時:2024年11月9日(土) 14:00~16:35
会場:品川区立総合区民会館(きゅりあん)5F 第4講習室+ZOOMオンライン
参加:32名(会場23名+WEB 9名)
演者:電動モビリティシステム専門職大学教授 博士(工学) 古川 修 氏
【講演要旨】
Ⅰ. 自動運転の車の開発・実用化状況
1.自動運転の分類と開発状況
①レベルによる分類
レベル1 運転支援 (人とシステムで対応)
レベル2 特定条件下での自動運転機能 (部分自動化)
レベル3 条件付き自動運転 (警告、人からシステム主に交替:非常に難しい)
レベル4 特定条件下での完全自動運転 (高度自動化)
レベル5 完全自動運転
②走行目的による分類と開発状況
〔オーナーカー〕レベル3自動車は高速道路・低速限定で実用化されているが、センサーが多数必要で高価。
〔物流・移動サービス〕
*ラストマイル自動走行サービス:低速自動走行により運転弱者を支援する目的で、実証実験を実施しているが、安全とコストの面から社会実装につながっていない。
*トラックの高速道路での隊列走行サービス:個々のトラックの自動走行に変更した。2024年度以降の労働時間規制により要望は多いが、実証実験進行中。
*宅配便の自動走行サービス:ゆっくり走るものは中国等で実施。
*自動運転タクシー:米国の一部の州で無人運転(遠隔監視が必要)が実用化されている。中国でも実用化開始された。センサーが多く、コスト高である。
③環境認識技術による分類 いずれの方法もコストが莫大
〔自律型〕GNSS(GPSも含む)の利用、単眼カメラ画像による道路車線の認識、ステレオカメラによる立体障害物認識、高精度デジタルマップとのマッチングによる相対測位。
〔路車連携型〕交流ケーブル、磁気マーカーを道路に設置することによる相対位置検知。
2.今後
・ラストマイル自動走行サービスは安価な方式(センサーを削減したシステム)の開発が必要。
・自動物流サービスは徐々に実用化されていく。
・無人タクシーはセンサーが多数必要でコストが高いため、ビジネス成立には安価な車の開発が必要。
Ⅱ. 電動モビリティシステム専門職大学の自動運転への取り組み
1.大学の紹介
・山形県西置賜郡飯豊町に令和5年(2023年)開学した専門職大学。
・モビイリティの電動化と知能化に関する技術に特化した教育・研究。
2.自動運転実証実験への取り組み例
・地方の課題である人口減少による負のスパイラルを変えるために、地元の長井市などが取り組むグリーンモビリティをつなげる交通社会デザインに参画し、自動走行実証実験を行っている。
・負を正に変えるシステムデザインが必要で、コスト低減だけでなく、交通インフラに付加価値(観光等)をつける必要ある。
・自動運転車輛の導入で、地域の賑わいを生み出し、現在の負のスパイラルを逆転させることができる。
【主な質疑応答】
1.大きなイベント(例えば2027年国際園芸博覧会)での無人運転車の採用の可能性?
⇒イベント期間だけ自動運転車を走らせた例はあるが、1~2週間で5000万円と、非常に高い。
2.無人タクシーの実用化状態?
⇒地方は人口減少と高齢化で公共交通機関が無くなりつつあり、自動運転システムの導入が強く望まれており、各種の実証実験が行なわれているものの、事業化には至っていない。
3.現状の無人運転車は多数のセンサーを使用するために高価になるが、これへの対応?
⇒日本では2025年までにレベル4を実現することを計画しているが、無理であると考える。コストを掛けないようにする工夫が重要で、それが実現されれば突破口となる可能性がある。
4.物流に関し、レベル3自動運転車とドローンとの関係?
⇒全体の物流システムの設計が重要で、両者をうまく使い分ける必要がある。ドローンは電動で20分程度の飛行時間が限界、かつエネルギー効率が悪いということが問題であり、飛行機型のドローン等を使用する必要がある。川とか海をまたぐ場合にはドローンを、またその他の陸地走行は自動運転車を使用するという組合せが考えられる。
5.センサーが多過ぎるためコストが高くなるとのことだが、センサーを少なくし、AI+制御回路で対応できないか?
⇒量産化による価格低減の外に実際に、テスラ等はカメラだけを使用し、AIを活用することを提案している。しかし、AIは人間と動物が区別できない、またトロッコ問題(犠牲者の選択)に対応できない等の課題があり、実現性は難しい。またAIの原理が不明であることが多いので、その保証も必要である。
6.車運転者はハンドル操作をして運転する喜びを感じると思うが、衝突防止機能を備える自動化を確実にして、地方再生が実現されば十分ではないか?
⇒自動車メーカもそのように考えている。
7.自動車を外部から監視し、クラウドを利用して個々の車と全体の車の流れをどのようにするかを判断することは考えられないか?
⇒例えば渋滞対策に対しての試みがあり、可能性としてはある。
8.人間の感覚・脳とセンサ・コンピュータの判断比較?
⇒コンピュータの判断速度は人間より早いかもしれないが、現在の状況から次に起こることを予測する等、まだ不十分である。
9.事故時の責任問題?
⇒自動運転車が事故を起こした時の賠償責任に関する法整備はまだ進んでいないが、法律や工学の専門家による検討会で検討されているものの検討課題が多い。
10.レベル5の実現性?
⇒無理である。AIでは人間の感情、倫理感を理解することは現状では無理である。
11.地方活性化のためには、各種実証実験のようなレベルではなく、国家事業として社会インフラ整備の観点から大規模投資するという政策転換が必要ではないか。
⇒各実証実験コストが数千万から数億円と言われているので、日本全国の地方都市や山間僻地に展開する場合は数兆円から数十兆円の投資が必要となるが、決して実現不可能なことではないようにも思える。
12.道路に電線や磁石を埋め込む方法のコストは?
⇒道路に埋め込むコストは1km当たり約500万円。
13.自動運転(レベル4や5)の実現には技術のブレークスルーが必要ではないか。
⇒当面の方向性としては衝突防止等の運転支援機能の高度化と考える。
【所感】
日本の過疎化対策にも自動運転のシステムは必要と思います。
過疎であることは逆に実装実験をフィールドで大々的に行える可能もあると、考えています。
非常に難しい課題ですが、山形大や東北大の関連研究室と共同で、国から資金を出して貰えないかだろうか、と思っています。
このたびは、大変貴重で有意義なお話を賜り、深く感謝申し上げます。未来に向けて大切な課題に取り組まれていらっしゃる古川先生の今後ますますのご活躍とご発展をお祈り申し上げます。
【報告者】碇 貴臣