第258回セミナー報告「構造物のヘルスモニタリング」2024年10月
2024年 10月 22日科学技術者フォーラム2024年10月度(第258回)セミナー報告
「構造物のヘルスモニタリング」
日時:2024年10月5日(土) 14:00~16:45
会場:品川区立総合区民会館(きゅりあん)4F 第1特別講習室 + ZOOMオンライン
参加者:31名(会場22名、Web 9名)
講演者:MEI (Materials Evaluation Institute) 湯山 茂徳 氏
【講演要旨】
1.人間はヘルスモニタリングを自身でやっている。これを超えた事象が起こると、専門機関にかかり、特殊な検査、入院治療を受けることとなる。すなわち、人間は経験を積んだAIと言える。これを構造物に応用することが今回のテーマである。
2.アコースティックエミッション(Acoustic Emission, AE)法とは、個体内部の変化を弾性波に起因する振動としてとらえ、内部の状態と発生源(位置)を診断する手法でミクロな地震解析とみなされる。
3.AEセンサーは微弱な振動(弾性波、超音波)をとらえる圧電素子とそれを増幅するプリアンプの組み合わせでできている。これを構造物の有効な箇所に複数取り付け、未知の欠陥の発見と位置を大まかに診断し構造物のヘルスモニタリングに使用できる。
4.種々のセンサーを利用したIoTにより、構造物のヘルスモニタリングが実施され、AI分析、ビッグデーター解析により、資産の現状がフィードバックされる。それをどのように判断するのかが重要なポイントであり、欧米人と日本人とでは差異がある。
5.モニタリングの手法は温度、ひずみ、応力、加速度、電流・・などさまざまあるが、AEはその検出感度が高く、寿命のシーケンスを幅広くとらえることができる。
6.AEはさまざまな場面でヘルスモニタリングに使用され、機器の寿命を監視している。
例えば、軸受け、歯車などの機械要素、発電機、産業ロボット、エスカレーター、エレベーターケーブル、風力発電、変圧器、コンビナートの配管群、貯蔵タンク、圧力容器などの産業施設、橋梁、高架橋道路などのインフラ設備、宇宙航空機への適用など多岐にわたる。
7.演者はさまざまな機関から依頼を受け、実際にAEセンシングによるモニタリングを実施し、その有効性を実践してきた。ステンレス製反応容器のクラックの発見、製油所の配管群の腐食、圧力容器のクラスター解析、岩盤の長期監視、橋梁・PC高架橋の連続モニタリング、備蓄タンクの腐食、コンビナートプラントの腐食疲労クラック、製鉄所熱風炉のグローバル診断、給油所地下タンクの漏洩などなど
8.AEによる構造物のヘルスモニタリングはその構造物の変化を監視することができる有用な手法である。ここには多くの手間と時間、予算の問題があり、得られた解析結果をどの段階でどのように判断していくかがアセットマネジメントの手腕となる。
【主な質疑応答・コメントなど】
1.サンフランシスコの橋の架け替えは終わったのか?
→ 終わった。AE以外に、超音波、Ⅹ線などが併用された。異常の場所、状態がわかる。
2.IoTの普及、国際協力などの社会情勢の中、日本の技術の防衛はどのように考えているか?
→ 日本の技術は今でも優れている。他国(韓国や中国などへ技術の流出)は著作権が曖昧、データはタダと言ったような風潮があり、横取りされる危険性が高い。技術・技術者の流出は技術者の教育から変えて行く必要がある。
3.今迄海外支援などしてきた経緯から技術の流失が多くある。
→ 評価基準を明確にする。知的財産を守る意識を高める。論文発表の前に特許を取る。産・学・官 連携を強化する。
4.フリーソフトが主となっている。インターネットフォーラムに入って世界をリードして行かねばならない。(意見)
5.北海リグに関して、海洋構造物にはAEは使えるのか?
→ 鋼製部材を基礎として、海洋上に設置されている。応力集中部にAEセンサーを設置して連続モニターすれば、腐食疲労を検出することができる。
【所感】
AEによるセンシングンが部品、部材から産業界、インフラ、環境構造物、宇宙航空機まであらゆるものに応用されうることが実例を通して理解することができた。
AEセンシングによるヘルスモニタリングはモノの構造の微小な変化を測定することが可能であるが、あらゆる角度からモノの寿命を考えた場合、閾値を決めることは人間であり、これが最も困難で重要なことであると思った。
個人的には、物質表面のキズつき性を評価する「スクラッチ試験機」でAEセンサー付きの機器を多用していた時期があり親しみを持って参加したが、予想を超えた展開のスケールに驚かされた。それに反して、ものの寿命を研究領域とする「マテリアルライフ学会」に所属しているが、AEによる応用技術、開発装置などの発表が少ないと感じた。
この度は、大変貴重で有意義な講演をして頂きましたことに、深く感謝申し上げます。
【報告者】佐熊範和