第257回 セミナー報告
「【パラダイムシフト】で読み解く日本庭園 ~象徴庭園から抽象庭園への変遷~」2024年9月
2024年 09月 18日科学技術者フォーラム2024年09月度(第257回)セミナー報告
「【パラダイムシフト】で読み解く日本庭園 ~象徴庭園から抽象庭園への変遷~」
日時:2024年09月14日(土) 14:00~16:45
会場:品川区立総合区民会館(きゅりあん)5F第3講習室 + ZOOMオンライン
参加者:39名(会場33名、Web 6名)
講演者:日本庭園文化研究家 中田 勝康 氏
<講演要旨>
1.四季の移ろいがはっきりしている日本には自然を奏でるための庭園、いわゆる日本庭園がある。
講師・中田氏は退職後、元々興味のあった日本庭園について本格的に師匠に教えを乞い、最近では、日本庭園の歴史を紐解くうちに新しい発見をした。
2.「パラダイムシフト」とは、各時代の規範が大きく変化するのを時代変化の胎動の時期から読み起こし、それからやや遅れて生じる庭園の変化を考察することである。日本庭園は世界的に見て異色の芸術分野と思われる。つまり「自然石を再配置して芸術を構成する」、言わば「路傍の石が芸術に昇華される」。この難解な問題に日本人は挑戦し続けてきた。
しかし芸術というソフトな情報は脆いもので、一朝に完成しないが、伝統が途絶えてしまうと伝統の継承は困難である。
庭園芸術を守ることは、作庭者の養成のみならず、鑑賞者の鑑識眼の維持発展が必要である。
伝統芸術は同じものを作ることではなく、新しい伝統を作り続けることである。
それには作庭者のみならず、鑑賞者の鑑識眼も時代に即した芸術を要求しなければならない。
3.象徴庭園から抽象庭園への変遷
規範(パラダイム)
・飛鳥時代から奈良時代 不老不死
・平安時代から鎌倉時代 極楽浄土
・室町時代 臨済宗・浄土真宗
・江戸時代 ルネサンス
・明治以降 芸術性
日本庭園の特徴
自然石をアレンジメントした庭園を芸術的庭園に志向。
4.鎌倉新仏教が起こり、武士の精神的基盤として、栄西による臨済宗に求めた。
栄西、蘭渓道隆(5代執権・北条時頼が招聘)、無学祖元(8代執権・北条時宗招聘)、夢窓疎石(蘭渓道隆の孫弟子)の系譜により日本庭園が確立。(西芳寺、天竜寺、金閣寺)
5.水墨画の影響で日本庭園が変化(見た儘ではなく、心に響いた内容に再構築)
雪舟は観念的な理想の水墨画世界から脱皮した。
生の自然に依存しない、自然を再構築して、抽象的立体造形の庭園を創作。
・二次元の水墨画を三次元に錯覚させる手法(庭園に立石を再現)
・庭園は三次元であるが、まさに四次元ともいうべき二段構成の確立
石組を二段階に(手前側のレベルを下げ、大きな石を配石)
6.江戸時代初期のルネサンス(キリスト教)の影響を受け、堰堤・護岸が直線でスッキリした造形。(桂離宮、修学院離宮)
7.石組の空間構成美の源流、近代彫刻を思わせる庭園。
(旧芝離宮恩賜庭園、福田寺(米原市)、光明禅寺(大宰府市))
8.日本庭園の中に観音の住む霊場の系譜を発見。
インド南部の観音の霊場・ボディア山を写した寧波の「補陀洛」(普陀山)が著名。
⇒中国・杭州湾の沖に浮かぶ舟山群島の中の一島
転生輪廻の世界観では、須弥山を中心に、その周りを七重の山脈が四角く取り巻き、その外側にリング状の山脈が取り巻き、併せて九山であり、その山脈の間には海があり、併せて八海となる。
9.日本庭園における「須弥山」や「九山八海」の庭園
・平城宮「東院庭園」(奈良 奈良時代)
・毛越寺(平泉 平安時代)
・天竜寺(京都 室町時代)
・鹿苑寺(金閣寺)、慈照寺(銀閣寺)、萬福寺(京都 室町時代)
・旧北畠氏館跡(三重 室町時代)
・旧久留島家(大分 江戸時代)
・栗林公園(香川 江戸時代)
⇒栗林公園「小普陀」は「倶舎論」の原形をほとんど保った観音信仰の原点。
この「小普陀」の発見により、世親の「倶舎論」が再現されていたことが解ったので、従来からあった「東院庭園」から久留島家庭園までの庭園が正確に「九山八海」の造形である ことが判明した。
即ち「小普陀」の発見において、従来あった庭園の部分的な造形であるが、「九山八海」を象徴する庭であることが、理解できるようになった。
飛鳥時代から信仰されてきた「倶舎論」に基づいた、神聖なテーマが一貫して作庭されて いることが判明した。
<所感>
日本庭園を築庭時期によって分類して、バランスよく配置されている石組みについても、観音の住む霊場の系譜を発見したとの話は驚きであった。
また初めて聞いた言葉も多く、大変勉強になった。
これから日本庭園を鑑賞する際は、石組みを見て、九山八海の系譜が見られるかどうかを自分自身で発見できるかどうかも、また楽しみになる。
日本庭園には、その奥に深い精神性が存在することが分かった。
この講話を聞いて、海外でも日本庭園が注目されている理由として、海外の人達も日本庭園の精神性にだんだん気が付いているからなのかもしれないと思うようになった。
このたびは大変貴重で有意義な講話をして頂きましたことに、深く感謝申し上げます。
【角野章之】