第256回セミナー報告「水先人の仕事とシーマンシップについて」2024年8月
2024年 09月 04日科学技術者フォーラム2024年8月度(第256回)セミナー報告
「水先人の仕事とシーマンシップについて」
日 時:2024年8月17日(土) 14:00~16:45
会 場:会場(品川区立総合区民会館)+ZOOMオンライン
参加者:25名(会場18名、WEB7名)
講演者:元伊勢三河湾水先区水先人会 水先人 増島 忠弘 氏
【講演要旨】
1.パイロット(水先人)としての仕事
1)湾内や港での船の離着岸時に、キャプテン(船長)にアドバイスをしたり、キャプテンに替わって操船し、船を安全かつ効率的に入出港させる。
2)乗船履歴に関しては、航海士として30年余の間に岩代丸(貨物船、1万t)から始まって、約30隻の船(冷凍船、コンテナ船、鉱石船、原油タンカー等)に乗船した。 また寄港した港は、日本を含め世界中約120か所になる。
3)水先業務の流れ
a.船会社や船舶代理店から水先人会経由で水先業務の要請を受ける。
b.要請を受けた水先人はパイロットボートに乗船し、沖合の乗船場所に向かう。
c.水先人は縄梯子で要請船に乗り込む。
d.乗船後、キャプテンから操船に必要な船舶に関する情報を入手し、キャプテンに対し水域の状況や航行計画を説明する。
e.海域の自然条件や他の船舶の状況を把握し、キャプテンに針路や速力をアドバイスする。
f.他の入出港船、および風や潮流に注意し、また大きい船舶の場合にはタグボートを配備して、船舶の前後位置や着岸姿勢の制御を行いながら操船する。
g.着岸後、船舶を係留して業務を終了させる。
2.シーマンシップ
1)「シーマン」とは、自己完結型の海上で働く船乗り、「シップ」とは、技能、心構えを意味し、「シーマンシップ」は、広い意味で船乗りが仕事をこなす上での心構えということを表す。
2)乗船中のシーマンは、「ユーモア」のセンスを持ち、他の乗組員と「協調」し合い、果敢になんでも「チャレンジ」していく「心意気」を要する。
3.その他
1)動画「ジーマ船長航海記」で、コンテナ船・加賀での、中国~パナマ運河~北米東岸~パナマ運河~中国~シンガポール~スエズ運河~地中海諸港 航海を紹介した。
2)「ジーマキャプテンのおっとびっくり航海記」(昨年11月刊行)の一部を紹介した。
【主な質疑応答】
Q1:水先業務の要請を受けた船舶にはどのように乗り込むのか?→ 原則縄梯子(最長9m)を使用する。ヘリコプターは風に弱いので日本では使わないが、サウジアラビア辺りでは軍用の大型ヘリを使うこともある。
Q2:場所の違うパイロットの相互交換はあるのか?→極めてまれである。
Q3:大型船は日の出から日の入り迄に着岸すると聞いているが?→コンテナ船、車運搬船は四六時中可能であるが、タンカーは安全のため、日の出から日の入り迄となっている。
Q4:1万トン以上の旅客船ではパイロットは必要か?→日本では内航船は1万トン以上でも3回以上経験があればキャプテンの判断でパイロットなしに離着岸できる。外国船は1万トン以上ではパイロットを付けなければならない。またキャプテンの要請があれば小型船でもパイロットを付けることもある。
Q5:台風など異常時の警戒は?→海上保安庁が港毎に、風速等に応じて警戒を出す。第1次警戒では、いつでも出航できる状態にしておかねばならない。第2次警戒では強制出航となり、パイロットは要請に従って業務を行うこととなる。
Q6:操縦の自動化はできないのか?→一部のフェリーでは既に完全自動化の試験運航がなされており、あと10年もすると、完全全自動化運航が可能な船が出現してくるだろう。問題はソフト面(では100%機械だけで運航するのか、最低要員はやはり残すべきなのか、問題は山積みしている)で、ハード面はお金をかければクリアーできるだろう。
【所感】
巨大な船舶を人間の能力で操縦し、接触することなしに接岸することは、実に感動する技術です。難易度の高い技術の継承はなかなか難しいと思いますので、安全性に優れる自動化の進展を大いに期待します。
また、船舶の操縦が、世界情勢、異常気象、船舶内部の人間関係によって大きく影響され、キャプテン等乗組員が苦心されていること、そうした中でシーマンシップが重要であることを良く理解できました。
【報告者:木村芳一】