第255回セミナー報告「エンドセリン遺伝子ファミリーの発見・機能解明・産業応用」2024年7月
2024年 08月 11日科学技術者フォーラム2024年7月度(第255回)セミナー報告
「エンドセリン遺伝子ファミリーの発見・機能解明・産業応用」
日 時:2024年7月27日(土) 14:00~16:45
会 場:品川区立総合区民会館(きゅりあん)第1特別講習室 +ZOOMオンライン
参加者:21名(会場20名、WEB1名)
講演者:総合科学研究機構・特任研究員、バイオ技術教育学会・理事、芝浦工大・神奈川非常勤講師、前・産業技術総合研究所・連携大学院教授、博士(医学、農学) 齊田 要 氏
【講演要旨】
1.研究活動(@通産省工業技術院や国立研究開発法人・産総研)と大学教員の経験(4大学で生命工学関連15教科の学生指導)を活かして、active learningからcreation・研究活動に至る過程や、生命工学の特徴や専門英語の重要性、を説明する授業紹介があった。
2.バイオ関連のノーベル賞受賞者らの新規分子発見や新技術開発に関する業績紹介。第1回の抗毒素(抗血清⇒抗体)発見、抗体多様性、血液型、モノクローナル抗体、抗体工学、分子標的薬、がん免疫療法、インスリン、ペニシリン、PCR、MS、イベルメクチン、GFP、自食、iPS細胞、ゲノム編集、コロナ禍で貢献度大のmRNAワクチン等のお話があった。
3.バイオ技術と産業応用100選:アドレナリンの高峰譲吉やビタミンB1の鈴木梅太郎やMSGの池田菊苗を初めとして、発見に基づき会社設立例の紹介。国有特許輸出第一号の酵素利用の異性化糖生産技術(工業技術院)は特許収入が14億円であった。発見と産業応用は利益を生み、社会貢献が大きい。
4.「発見・解明・産業応用」の例として、ご自身の研究成果のお話があった。背景「血管内皮由来血管平滑筋弛緩因子NO発見や1988年の血管収縮ぺプチドET発見やペプチドホルモンBNP発見や時計遺伝子探索」を出発点・ヒントとして、マウスゲノム解析から新規ペプチドVICを発見し、エンドセリン遺伝子ファミリー(ET1, VIC/ET2, ET3)の存在を発見できた。
・発見過程の詳細: エンドセリン(endothelin, ET=ET1)は血管内皮(endothelium)で発現し、血管収縮活性を持つアミノ酸21個の生理活性ぺプチドである。VICは塩基配列からアミノ酸配列が推定され(ET1とアミノ酸3個異なる)、化学合成VICは血圧上昇を惹起したが、遺伝子は血管内皮で発現せず腸管で発現し、強力な腸管平滑筋収縮作用を示したので、VIC(vasoactive intestinal contractor)と命名した。同時期に発見されたヒトET2ペプチドは、マウスVICとアミノ酸1個相違したが、後になって遺伝子発現や活性がVICと同等と報告されたので、両者は種差と判明し、国際会議で以後ET2と統一された。
・ET2の生合成経路や生理機能を解明するためET2のcDNAと遺伝子全長を単離し、その構造、発現及び制御の解析を行った。ET2は前駆体タンパク質から生合成され、遺伝子は腸管、子宮、卵巣、胎児、肺、胃、乳腺、脳・下垂体、皮膚で発現した。各臓器における遺伝子の発現変動・誘導も観察され、重要な機能を有していることがわかる。胎児発育中や妊娠子宮や乳腺発達時や腸管粘膜や胃潰瘍やUVC照射時皮膚傷害や大腸炎等で、ET2が上昇する。皮膚細胞や副腎細胞腫の細胞分化や癌増殖に関与していることも判明した。
・生体分子調節系/ET遺伝子ファミリーの発見と解明により、医薬品や畜産業への応用(検査・診断・治療)が進められている。基礎研究成果から産業応用が期待できるが、商品化・製品化のためには特許取得が重要。実用化された用途は、①化学合成品、試薬。合成ホルモン、②検出・定量キット。抗体(組織染色PAb、MAb)、遺伝子probe, primers, sandwich EIA等、③医薬品(ET1受容体アンタゴニスト、肺性高血圧治療薬)、④化粧品 美白クリーム。医薬品マーケットは利益が大きく、開発ベンチャーは3.6兆円でJ&JにM&Aされた。
5.副題「バイオ技術の進展・活用と継承・教育」の技術継承の観点から、定年後、エンドセリン2/VIC遺伝子の研究成果を総括して、博士(医学、筑大、2017)が授与された。その際に支援頂いた、生涯学習開発財団の博士号取得支援制度(対象50才以上)の紹介があった。
6.副題の技術継承・教育の観点からは、NPO日本バイオ技術教育学会活動を推進。学会誌「バイオテクノロジスト」や「バイオ技術者認定試験対策問題集(初・中・上級)、試験問題研究会/編」を出版し、全国レベルでバイオ技術者の養成を図っている。
7.少子化対策:加齢に伴い、卵子、精子の老化が進む。生命理解増進や親族応援が重要。
【所感】
大学の教員として学生を指導している事から学生に対して、またNPO日本バイオ技術教育学会活動として、バイオ技術教育への篤い思いが、強く伝わってきました。ET1に関して多くの製薬会社或いは化粧品会社で商品化、製品化にされ、大きな利益に結びついているお話でした。ご自身が手掛けられたET2/VICの研究領域での成果に関しても産業利用価値が高いと思われた。このような例はそうそうあるものとは思えませんが、基礎研究の産業応用には、活用法に智慧を絞る必要性も強く感じました。
【報告者:後藤幸子】