第252回セミナー報告「低炭素社会実現のための二酸化炭素リサイクル技術~メタネーション技術の社会実装への挑戦~」2024年4月
2024年 05月 13日第252回セミナー報告「低炭素社会実現のための二酸化炭素リサイクル技術~メタネーション技術の社会実装への挑戦~」
日時:2024年4月27日(土)14:00~16:45
会場:品川区総合区民センター(きゅりあん)第1特別講習室 +ZOOMオンライン
参加:45名(会場31名+ZOOM14名)
演者:元日立造船株式会社・執行役員(CCR研究会・名誉会員)
工学博士 熊谷 直和 氏
【講演要旨】
本講演は2021年9月に橋本功二氏(東北大学名誉教授)による第224回セミナー『二酸化炭素のメタン化によるリサイクル ~再生可能エネルギーで全世界の持続的発展のために~』の続編となる。75枚にも及ぶ資料に基づく講演であった。
1.地球温暖化とグローバル二酸化炭素リサイクル技術
(ア) 気候変動と温暖化対策の現状の確認とカーボンニュートラルの実現のためには、再生可能エネルギー(再エネ)を主電源とし、大容量・長期間の電力貯蔵システムの構築が重要とした国際エネルギー機関(IEA)のレポートが紹介された。
(イ) 1993年、東北大学金属材料研究所の橋本教授(当時)がCO2を地球規模でリサイクルことによる化石燃料からの脱却を提案し、1995年、そのコンセプトが技術的に可能であることを世界で初めて立証した。
(ウ) 再エネを燃料ガスに変換して貯蔵・利用するPtG(Power to Gas)技術は、再エネの主要電源化に必須と考えられ、その技術確立を目指して、欧州を中心に2011年以降、メタネーションの実証試験が盛んに取り組まれていたが、日本でも逆輸入の形でPtGの認知度は上昇した。
(エ) 2013年、Audi社は、自社販売天然ガス自動車への燃料供給を目的として世界初のメタネーション商用プラントを建設、計画から稼働まで僅か4年、殆ど自動化され、現在も稼働中である。独政府から補助金を受け、更なる性能UPを目指している(内燃機関技術の継承のため)。
(オ) 合成メタンは、既存のLNG・都市ガスインフラをそのまま利用可能であり、変動する再エネの余剰電力を調整する安全な大容量長時間貯蔵システムとして最適である。LNGのように産地からの運搬にも適している。
(カ) 橋本先生が28年前に提案した再エネ水素によるCO2の循環利用)は2021年10月閣議決定の第6次エネルギー基本計画でようやく市民権を得た。メタンが認められなかったのは、燃焼させると折角回収したCO2を再び大気に放出するというマイナスイメージがあったからである。しかし、世に広く「化石燃料を使用しない」ことを強調した認知度向上活動を行ったことで一定の市民権を得ることができた。短い言葉で分かりやすい表現にして世に広げていく認知活動は重要である。
2.拡大するカーボンリサイクルメタン(e-methane)の調査・実証試験
(ア) (INPEX)長岡での実証プラント、(日立造船)小田原市清掃工場での実装試験設備、(大阪ガス)SOEC技術、(東京ガス)(大阪ガス)(東邦ガス)(三菱商事)4社合同による海外大規模実証、などのプロジェクトが紹介された。
(イ)バイオメタネーション技術と組み合わせたメタネーション技術を用いた環境省モデル事業(大阪ガス万博実証)やNEDO GI基金事業などの革新的合成メタン製造技術、そしてCO2回収と再エネ水素活用のサプライチェーン(地域連携)などを具体例として紹介。
3.船舶の代替燃料としてのe-methane
(ア) GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)ゼロの代替燃料開発は必須の課題だが、外航船は国境のないエリアを航行するため、国際的なルール作りが必要。
(イ) 現在の重油から燃料を代替えするには、カーボンリサイクルメタン(e-methane)と水素&アンモニアの2つのシナリオがある。
(ウ) 水素は爆発の危険性があることとエネルギー密度が小さいため貯蔵タンクが大きくなりすぎる。アンモニアは毒性があるため、漏れた場合、船員は逃げられない。このことからe-methaneの可能性が評価され、引き続き検討が進められている。
4.e-methaneのコスト目標と試算について
(ア) 政府目標は50円/Nm3-CH4。
(イ) 条件はさまざまだが、現状の技術では、100円~160円/Nm3-CH4がベスト。欧州のLNG価格急騰の現状では、非現実的な数字ではなくなってきている。
5.地球温暖化対策技術の開発を促進するグリーンイノベーション基金のあり方
(ア) 水素・アンモニア・シナリオではCCS[ Carbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素回収・貯留)]を前提としているが、国内ポテンシャルがなく海外で埋めるしかないが、国際的合意等が必要。即ち、投資予見性が見込めない。
(イ) アンモニア混焼によるCO2削減は疑問。原価償却が終わった欧米に対し、日本は償却が済んでないため拘っている。COP26の採択事項に抵触するか?
(ウ) TRL(Technology readiness level)が低く実用化に時間の要する技術に支援を集中させるべきではない。
(エ) 欧州ではプラットフォームは民間にある。国主導でなく民間での自由研究が必要。
日本の特徴に合わせた対策を考える必要あり。本来の目的はCO2の削減であることを明確にし、今後は、例えば、地熱・波力・潮流等の発電や海の白化対策によるブルーカーボンへの取り組みを進めるべきではないだろうか。(海藻は陸上生物の10倍CO2を吸収する)
【主なコメント・質疑応答など】
1.橋本功二先生からのコメント
(ア) 自然エネルギーは貯蔵が必要。しかし、日本には余剰電力を蓄える施設が全くない。しかし、技術確立しているメタンの形で蓄えることができる。
(イ) 合成メタンを燃料とするCO2排出完全ゼロの船舶:洋上で風力発電を行い、水の電気分解から得た水素でメタンを製造し、洋上で船舶に燃料を供給する構想がある。
2.小田原市の清掃工場でエネルギーバランスは取れているか?
⇒規制上送電線が増やせないので、取れていない。因みに、二酸化炭素回収設備は、アミン法がベストであるが、高さ規制の関係でPVSA法を採用せざるを得ず、面積的に大きな設備となっている。
【所感】
メタネーション技術は、市民権を得るまでに30年掛かったとのことであるが、今の日本、化石燃料への依存度が高いアジアでは最も必要とされる技術である。技術開発の難しさもあろうが、世に認知してもらうのに力を入れたとのこと。良いものだけでは市場には認められない。民間、特に行政に認知してもらうための努力、そしてサプライチェーンを見渡しての広い視野での目配りと粘り強い対応が重要であるとつくづく感じた。
最後に大変力作の講演をお引き受け頂きました熊谷先生へ厚く御礼申し上げます。企業人として、常に全体を見渡しながら、様々な方々との調整を続け、夢中で愉しくプロジェクトを進められたことが講演の節々から溢れており、先生への喝采と尊敬の念を深くいたしました。
メタニゼーションは、まだまだ遣らねばならないことが山積みのように見受けられます。ご健康に留意頂き、益々のご活躍をお祈り申し上げます。
【報告者】後藤充伯