第248回セミナー報告「唾液の免疫力と腸-唾液腺相関~全身の健康維持への歯科からのアプローチ~」2023年12月
2023年 12月 27日科学技術者フォーラム2023年12月度(第248回)セミナー報告
「唾液の免疫力と腸-唾液腺相関:全身の健康維持への歯科からのアプローチ」
日時:2023年12月19日(土)14:00~16:45
会場:品川区総合区民センター(きょうりあん)第1特別講習室 + ZOOMオンライン
参加:23名(会場18名、WEB5名)
演者:博士(歯学)山本 裕子 氏(神奈川歯科大学短期大学部歯科衛生学科 准教授)
【講演要旨】
1.唾液腺と唾液の働き
・口腔には3つの大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)と無数の小唾液腺があり、自律神経の支配を強く受け、交感神経系により粘液性(ネバネバ)唾液を少量分泌し、副交感神経系により漿液性(サラサラ)唾液を多量に分泌する。
・唾液の分泌量は成人平均1.5L/日。99.5%が水で無機・有機成分は0.5%。唾液のpHと緩衝能は重炭酸イオン濃度に依存し、安静時には両者が低下するため、特に唾液緩衝能の低い人・唾液分泌量の少ない人は、う蝕(虫歯)予防のため、就寝前の口腔ケアが重要である。
・唾液の有機成分には、酵素、糖タンパク、脂質、成長因子などがあり、口腔内の自浄作用だけでなく、消化や粘膜の保護・修復、う蝕の抑制や修復、抗菌・抗ウイルスなどの作用を有する。
2.唾液力(唾液の量と質)の向上
・唾液の量を増やすためには、飲食を基本とし、水分補給、舌圧増加、唾液腺刺激などが重要。
・唾液の質の基本となるイムノグロブリンA(IgA)は、粘膜表面から二量体の分泌型IgA(sIgA)として分泌される。唾液IgAは細菌やウイルスなどの外来微生物による感染防御に関与している。IgA分泌量を増やし、唾液の機能を維持させるためには口腔清掃が必須。
3.口腔や腸管の粘膜免疫
・口腔や鼻腔、腸管などの粘膜は、細菌やウイルスなどの病原体や異物の体内侵入を防いでいるが、その粘膜免疫の主役はIgAであり、腸は体内最大の免疫器官と呼ばれている。
・また腸内細菌のバランスが乱れは全身のトラブル(疾患)に繋がることや、腸は第二の脳とも呼ばれ、脳と腸はストレス応答など相互に影響を及ぼしている。
・わが国の高齢者の死亡原因のトップは肺炎であり、加齢等に伴い、オーラルフレイルが進行し口から食物が摂ることができなくなると腸の機能が低下し、上気道感染症や誤嚥性肺炎などで命を落とす可能性が高くなる。
4.食と唾液の関係:IgAを中心に
・腸でIgA分泌を増加させる食品として、納豆や漬物、ヨーグルトなどの発酵食品、海藻類やキノコ類、難消化性糖類などの食物繊維などが知られている。
・食物繊維は上部消化管内で分解されず大腸に送られ、そこに常在する腸内細菌により発酵代謝され、酢酸やプロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)となる。SCFAは大腸上皮のエネルギー源として利用され、ほとんどが粘膜上皮細胞から吸収される。
・難消化性糖類であるフラクトオリゴ糖(FOS)やポリデキストロース(PDX)をラットに摂取させると唾液腺からのIgAの分泌速度とその輸送受容体の発現を増加させることを明らかにした。
・またFOS摂取による腸内のIgA濃度とSCFA濃度の増加に伴い、顎下腺からのIgA分泌速度も上昇していることを明らかにした。唾液IgA分泌速度の増加は、門脈血中のSCFA濃度上昇とも相関していた。
・さらに、特定ヨーグルト摂取がインフルエンザウイルスに交叉する唾液中IgA濃度を上昇させることや唾液IgAレベルは高脂肪食摂取で低下するが、食餌中の脂肪含量を減らし、発酵性成分含量を増やすと高くなることも報告した。
5.腸-唾液腺相関:今後の展望
・口から食べることのできる物の種類が多いほど、多様な抗原を体内に取り込むことができ、免疫システムが発達する。加齢などに伴いオーラルフレールが進展すると、いろいろな食物を噛んで食べられなくなり、腸管免疫機能が低下し、唾液IgAレベルも低下する。
・口腔環境を良好な状態に維持することが「健康寿命延伸」に繋がるとのエビデンスを得たので、歯科から「むし歯予防」のための間食指導でない「健康寿命延伸」のための情報発信をしていきたい。
【主な質疑応答】
1.誤嚥性肺炎に関して、嚥下障害によって飲み込む力が弱くなることと唾液との関係?
→誤嚥性肺炎は、特に寝ているときの唾液の飲み込みに際し、細菌を含む唾液が誤って気管に入ってしまうことが原因である。免疫の衰えている場合、問題となる。嚥下機能を高めるのが重要で、よく噛むことは歯を健康にするだけでなく、唾液量を増やすことで嚥下機能を良くする。口から健康を保つことが重要である。
2.動物実験で高脂肪を与えるときに脂肪の質は関係するか?
→実験上のやり易さから動物性脂肪ラードを採用したが、オリーブのような植物性脂肪では異なると思われる。
3.免疫機能に関して
→過度に清潔にすることは却って問題であり、口腔内にはある程度の雑菌が必要である。例として、母乳内のIgAは都市部の女性のものより、農村の女性のものが多いことからも予想できる。
【所感】
唾液IgAの役割や唾液腺と腸との関係について知ることができ大変勉強になりました。
日本は高齢人口が増えていますので、今後、口腔の研究は重要なポジションを占めるのではないかと考えさせられるセミナーでした。山本先生のますますのご活躍とご発展を祈念いたします。
【報告者】碇 貴臣