第245回セミナー報告「蔓延する疑似科学から見えること」2023年9月
2023年 10月 21日科学技術者フォーラム2023年09月度(第245回)セミナー報告
「蔓延する疑似科学から見えること」
日時:2023年09月30日(土) 14:00~16:45
会場:品川区立総合区民会館(きゅりあん)第1特別講習室 +ZOOMオンライン
参加者:33名(会場23名、Web 10名)
講演者:長島 雅裕 氏(文教大学 教育学部教授)
<講演要旨>
宇宙物理学の研究から教育学部に転任し、教員志望の学生の科学的思考の育成に取り組んでいる。
1.疑似科学とは「科学のようで」かつ「科学でないもの」と特徴づけられる。
「科学」の定義がないので「こう特徴づけられる」という程度のこと。
「科学」とは第三者が検証可能なのに対し「疑似科学」は第三者が検証しても結果が様々??
2.疑似科学の分かり易い事例
⇒血液型性格診断、マイナスイオンが体に良い、水からの伝言、EM菌など。
3.教育的に有意義な疑似科学の活用
⇒基礎的な知見の学習、「おかしいかも」と思えるためのものの見方の学習。
「正しいこと」だけではなく、どうやると間違うのかを学ぶことは重要。
何が正しいか分からないことも多い。但し致命的に間違えない方策は知っておくべき。
「ここから先は危険」など。
4.教育に疑似科学を活用する上での方針
・科学的に明瞭な結論がある場合は、きちんと示す。
・分かっていない場合は、どの程度分かっていないのかを示す。
・結論を出すために価値観が入り込む場合は、どこから価値観に基づいているかを示す。
・「正しい」を判断するのは実はとても難しいことを理解する。
5.事例紹介
1)スプーン曲げ⇒超能力?
・話題になって40年も経つのに応用される気配が全くない。
・つまり超能力ではないのだろうと推測される。
2)血液型性格診断⇒1万2千名強のランダムサンプリング調査で有意差が無いことを証明。
・欧州はA型が多くアジアはB型が多いことから、黄禍論の影響でB型が劣るとする傾向があるようだ。
3)マイナスイオン⇒滝の近くはマイナスイオンが多い、滝のそばは気分がいい
・よって三段論法でマイナスイオンは体にいい。
・医学的実証はほとんどなく、体験談などの主観的印象の羅列。
・情報社会においてメディアが煽らなければ、ここまで深刻にならなかった。
・マイナスイオンに似たようなことで、水素水やゲルマニウムがある。
4)EM菌⇒「万能」をうたうのが特徴。「いいことだけあって悪いことがない」。
・放射能が除去できるという話題が流行し、放射能の本当の危険から目をそらすことに繋がる。
5)水からの伝言⇒ありがとうなどの「良い」言葉を見せた水は美しい結晶を作る。
・波動と水の結晶の関係についての自然科学的部分と「だから」良い言葉を使いましょうという道徳的な部分に分けて考える必要がある。
・結晶の気相成長(空気中の水蒸気がくっついて成長)⇒雪や霜の形成過程と同じ
⇒50年以上前に中谷宇吉郎博士により解明済。
・気温と過飽和度で結晶の形は決まる ⇒波動の入る余地はない。
・もし言葉で結果が変わるのなら、中谷宇吉郎博士の結果は間違いとなる。
⇒言葉によって人の心が変わり、行動によって世界が変わる。水が美しい結晶を作るからではない。
上記のような「疑似科学」のものに頼り過ぎることで、するべきことをしなくなる(思考停止に陥り易い)ので、注意が必要である。
6.科学的命題と価値的命題
・科学が答えられるのは「事実かどうか」。
・価値観、好みは別の問題であり、正確な事実認識のもとに価値的判断を下すことが重要。
<質疑応答>
1)教育学部では最近は教え方を教育する比重が高く、教科内容自体の教育の比重が少ない。
⇒以前は現場で先輩教師から鍛えられていたが、最近はそういう先輩教師が少なくなった。
2)EM菌が放射能を除去する風説がおかしいことがよく理解できた。
⇒生命活動は分子の化学反応だが、放射能は原子核の崩壊であり、生物が放射能を除去するということは根本的にあり得ない。
3)血液型性格診断は率直に言って当たっていると考えている。
⇒今は1万人台の調査に基づくもので100万人位の調査だと異なる結果が出る可能性もある。
4)教育現場の実験は100%の成功率でなければならないとされているが、これは正しいのか。
⇒実際には100%の成功率はあり得ないのだが、生徒には事実を認識させるために100%の成功率が求められる。なお、うまくいかなかった実験をとおして生徒に考察させるという教育もあるが、逆に教師の方が指導しきれないという現実的な課題もある。
5)宇宙物理学の研究からスタートされたが、天文学と疑似科学とはどういう関係と考えるか。
⇒天動説が出て、地動説が出て、新しい学説が出れば最初は疑似科学と言われる可能性もあり、事実の積み重ねで科学となっていくように思う。
<所感>
「疑似科学」という、あまり聞きなれない用語についての理解が深まった。
特に「科学的」と言いながら、結論を導き出す過程で価値観が入り込んでいる場合がかなり多いように感じている。
なお「疑似科学」といわれるものを頭ごなしに否定することは良くないと考えており、「疑似科学」と言われているものの中から大きな科学的発見に繋がるものが出てくるのではないかとも考える。
実験データとそれを解析して考察する過程で、どこからが価値観に基づいているかを明確に示すことが、第三者が客観的に検証し易くすることに繋がるので、大変重要であると感じた次第である。
このたびは「疑似科学」という視点から、様々な有益な情報をご提供いただきましたことに、深く感謝申し上げます。 これからの先生の益々のご活躍をお祈り致しております。
【角野章之】