第244回セミナー報告「結びの歴史と文化」~『結び』はどのように使われてきたか~」2023年8月
2023年 10月 01日科学技術者フォーラム2023年8月度(第244回)セミナー報告
「結びの歴史と文化」~「結び」はどのように使われてきたか~
日 時:2023年8月26日(土) 14:00~16:45
会 場:品川区立総合区民会館(きゅりあん)第1講習室 +ZOOMオンライン
参加者:26名(会場19名、WEB 7名)
講演者:小暮 幹雄 氏 (結び文化研究所)
【講演要旨】
「結」を使った言葉、結びの言葉の意味、KNOTとは、結びの種類、結びの歴史:縄文時代~現代のそれぞれにみられる特徴的な結び文化の紹介があった。そしてその後、実際にロープを使って数種類の結び方の実技指導があり、皆で挑戦した。
1.結びとは:
結びの「むす」=生える、生まれる=産の意、「び」=日=火=霊=力の意であって、産巣日=産霊=むすひ(び)、産霊神(むすびのかみ)は神話に出てくる天地万物の創造神である。
男の子はむすび比古=むすこ=息子、女の子はむすび比賣=むすめ=娘であり、息子・娘の言葉は「むすび」から派生している。
また、合掌つくりの屋根吹替えは、ゆう・ゆいであり、結納や髪を結うの言葉もある。
2.KNOTとは:紐に等間隔に結び目をつけて船舶の速さを測った。
⇒船舶の速度の単位 1ノット=1,852m/h
3.結びの分類:
〇実用としての結びは、建築、漁労、船舶、運搬、料理(昆布締め等)では汎用される重要な技術である。
〇荘厳、装飾としての結びは:神仏の荘厳(注連縄や横綱の化粧まわし)、衣服、帯、ネクタイ、階級表示。
〇計算、記録:キープ(インカ帝国)、藁算(沖縄竹富島、石垣島)は結縄で記録・会計。
4.結びの歴史と文化
結びをいつ、誰が発明したか ⇒結びは、火を使い、道具を作り、言葉を話して文字を書ける人間だけができる技能で、チンパンジー、オランウータンにはできないとされている。
ある実験では、オランウータンが与えた布を結んで、ハンモックをこしらえた事例がある。
5.結びの歴史 石器時代から現代までを辿ってみよう。
石器時代 紐、縄が発明され、狩猟用具(弓矢、斧)、衣服に使用された。
縄文時代 縄文式土器の縄模様、藁縄、網、釣り針、鉾、竪穴式住居での結び利用。
弥生時代 農業、藁縄、高床式建築に結びが使われ、金属器の伝来もあった。
古墳時代 装飾品、仏教伝来物や馬具(鞍)の結束・装飾に結びが見られる。
飛鳥時代 法隆寺の建立、遣隋使、遣唐使の派遣あり。荘厳結びや作業結び、組みひもの技術が輸入され、冠位十二階の制定では結びの色と結び目での階級表示あり。
奈良時代 東大寺の大仏開眼、正倉院(勅封)、御物の紐(刀子)での装飾結びあり。
平安時代 鎧、兜に総角(あげまき)結び、熨斗袋に水引を架けるなど装飾結びが発達し、衣装・持ち物等の装飾にも使用が広がった。有職故実が制定された。
鎌倉時代 甲冑、武具(刀の緒、槍の鞘、弓矢)に装飾結びが付くようなった。
室町時代 茶道で茶器の仕服の花結び、茶壷の花結びが発展した。軍師志野宗信が香道を創始し、貴重な香木を収めた包みの結びは12カ月の花結びで封印した。
江戸時代 3大礼法(幕府の諸行事における公式の礼法)は小笠原流、伊勢流、吉良流。
伊勢貞丈が結びの集大成本を出版した。帯結びが発達、紐による補助あり。
捕縛術=捕縄術(各流派により、身分ごとの縛り方が違う)
相撲では、横綱の化粧回し結びには雲竜型と不知火型あり。
行事の装束の結び、軍配の緒も位別がある。
幕末 勝海舟の海軍伝習所でロープワーク=結索法が教授された。
明治時代 海軍兵学校 近代的なロープワーク(結索法)が導入された。
女子学習院等では教養として、折り紙や水引・花結び等の指導があった。
組紐屋が羽織の紐制作に転じ、刀の下げ緒技術が帯締め、羽織の紐に転用された。ネクタイの着用が流行し始めた。
現代 事件との結びでは科学警察研究所、犯人推理では職業との結びつきあり。
化学繊維ロープの発明、ワイヤーロープやラッピング・リボン結びの普及。
結びに代わるもの: 接続具、ボルト、ナット、溶接、接着剤、ジッパー、接着テープ類
結びを使う人たち: 消防レスキュー隊員、陸上/海上自衛官、警察レスキュー隊員、登山家、船員、庭師、鳶職、運輸、外科医師、ボーイスカウト、ガールスカウト、海洋少年団
「絆」とは: 動物をつなぎとめる綱、家族間に自然に生じる愛着の念、親しい友との一体感
6.ロープ結びの実地指導
本結び、止め結び継ぎ、テグス結び、巻き結び、もやい結びなど、見て、やって覚える講座であった。何度も何度も指導され、まずはしっかり見て、手の動きを頭に入れることが肝要であった。
【主な質疑応答】
1.ナイロンザイルが、小説‘氷壁’でクローズアップされ問題になった。
⇒今はこの経験に基づき改良されている。
2.非常時ホテル窓から脱出する際のシーツでのロープにつくり方
⇒刃物がなかったら、コップ或は湯飲みなどを割って、或はビール缶などのタブを使ってシーツを30㎝幅くらいに切り裂き、「ひとえつぎ」で何本も何本も繋ぐ。終端はベットの脚またはテーブルの脚に「巻き結び」で結ぶ。
【所感】
昔は「結び」が身近で汎用されていましたが、小さい頃寝間着の紐を毎日結んでいたことを思い出しました。また、横浜の帆船 日本丸の見学では、ちょうど帆を張るところでした。一番上は結構な高さです(怖くないのか?).全ての帆を張る作業を見学し、勇ましくカッコよい日本丸の変身ぶりに感激しました。
最近は、例えば靴の結び紐に代わる方法・材料が普及し、幼児、高齢者にはやさしい世の中になってきました。機能的には連結・結びに代わりありません。また荘厳・華やかさを演出する編み紐やリボンの素材や結び方も益々進歩しているような気がします。
そして人と人、人と動物をつなぐ「絆」は心理的つなぎの関係。「相性」は化学的つなぎの関係。世の中のすべてが「結び」のワードで連結されていることを再認識しました。
【報告者:後藤幸子】