第243回セミナー報告「恐竜は生き延びて鳥となった」2023年7月
2023年 07月 25日2023年07月度(第243回)セミナー報告
「恐竜は生き延びて鳥となった」
日時:2023年07月22日(土) 14:00~16:45
会場:品川区立総合区民会館(きゅりあん)第1特別講習室 + ZOOMオンライン
参加者:29名(会場20名、Web 9名)
講演者:理学博士 玉 生 志 郎 氏 (元産業技術総合研究所 地質調査総合センター)
<講演要旨>
現役を退いた後、恐竜について興味を持つようになり、研究を始めた。
1.恐竜の一部は鳥となって生きのびている!(鳥は恐竜だ!)
始祖鳥の化石は1861年ドイツで発見。ジュラ紀後期に生存した鳥類の先祖(約1億5千年前)。爬虫類から鳥類への進化論の証拠と見なされた。ダーウィン「種の起源」初版の2年後である。
明瞭な羽毛をもち、前肢は翼になっているが、先端に3本の指と爪を持つ。口には歯がある。
※鳥類と爬虫類の中間的な特徴を示す。現在、始祖鳥は原鳥類に属す恐竜の一族とされている。
2.生物が大量に出現したカンブリア紀は5億4千万年前で、古生代・中生代・新生代は地球の歴史46億年の最後の10分の1の時代である。
3.映画「ジュラシックパーク」は琥珀の蜂化石からクローン技術で恐竜再現(フィクション)。
但し、DNAの復元可能な年月は約100万年前までと推定され、DNAを用いた恐竜の再生は実現不可能とされているが、恐竜の世界に興味を持つきっかけとしては素晴らしい作品である。
4.産業技術総合研究所 地質標本館に2007〜2010年の間、講演者が勤務。館内唯一の恐竜:コンコラプトルの骨格模型(巣の中の卵と共に)展示。
5.北海道むかわ町 穂別博物館
恐竜は陸上生物のため海成層では見つからないと考えられていたが、海に流された恐竜の全体 骨格が発見された。
2016年12月通称として「むかわ竜」と命名、2019年9月に正式学名としてカムイサウルス・ジャポニクスと命名された。
6.巨大隕石が6600万年前にメキシコ・ユカタン半島付近に落下、恐竜は絶滅したと考えられた。
恐竜の獣脚類の一部は隕石落下以前に新鳥類に進化して、大量絶滅期を生き延びた。
6600万年以前にも、原因は不明だが、大量絶滅期が4回あったことが判明している。(計5回)
人類の産業革命以降の「人新世」で地球史上6度目の大量絶滅期が訪れる可能性もあり得る?
7.両生類から古生代石炭紀に哺乳類と爬虫類に分かれた。
さらに爬虫類は魚竜、(首長竜、ヘビ、モササウルス)、(カメ、ワニ、翼竜、恐竜)に分かれた。
したがって、魚竜、首長竜、翼竜は、恐竜には分類されない。
恐竜は、鳥盤類、竜盤類(獣脚類、竜脚類)に分類され、獣脚類から鳥に進化した。
獣脚類の恐竜で有名なのが、ティラノサウルス。
8.恐竜ルネッサンス
「恐竜(の少なくとも一部)は現生の温血動物と同様に活動的な生活を営み、高度な社会性を持っていた」という恐竜恒温説が1964年に発表された。これ以前の1868年に鳥と恐竜の共通性がすでに指摘されており、「恐竜は冷血動物でのろまな動物」というイメージは覆された。
9.羽毛恐竜の発見
それまで、恐竜はトカゲのようにウロコで覆われていると考えられていた。
10.恐竜はどうやって卵をつぶさずに温めたか?
太陽光で温める/植物の発酵熱で温める/抱卵して温める の3タイプがあったと考えられる。
11.恐竜は鳥へと進化した?
恐竜(獣脚類)の前肢の指は、1-2-3指であるのに対して、鳥類の前肢は2-3-4指と考えられてきた。2011年に進化発生学的に鳥類も1-2-3指であることが実証された。
12.恐竜から鳥への進化の仕組み
鳥の祖先から鳥への進化にあたり新しい遺伝子の獲得はほとんどなく、既存の遺伝子の使い方を変えたことが重要であった。
鳥類が得たのは、遺伝子の使い方を制御するエンハンサーなどのDNA配列であった。
13.鳥類の起源としての恐竜、恐竜の子孫としての鳥類
鳥類の起源は獣脚類のコエルロサウルス類のマニラプトル類との見解が主流で、理由は叉骨、肩骨や肩、後肢の骨格的特徴、気嚢の類似性、羽毛恐竜、アミノ酸配列、指骨の相同性等である。
14.体の小型化
獣脚類の進化の中で、鳥類へ繋がる経路では継続して小型化が進んできた。
15.日本でも近年、恐竜の化石が続々見つかっているが、日本で発見された恐竜化石のうち、約8割が福井県で見つかっている。
16.専門家のみならず、アマチュアの化石ハンター、バックヤードでのクリーニング、復元図、イラストレーターなど様々な人が共同することで、恐竜研究が進んでいる。
<質疑応答>
1)恐竜の頭脳の大きさは体重比で獣脚類(鳥類の祖先)が一番大きい。
2)日本で恐竜の化石が見つかることが多くなっているが、当時の内陸部や沿岸部のみならず海など、発掘範囲が広がることによる効果が大きい。例えば恐竜の死骸が海に流されるなど。
3)恐竜が生きていた時代はCO2濃度が高く、これが気嚢を発達させ、鳥類の進化へと繋がる。恐竜の骨の中には水中に浮かぶものがあり、骨に気嚢のあとがあると思われる。
4)微生物は恐竜よりも遥か昔に出現し、今日まで生き延びている。
5)分類学上、カモノハシのような特異な生物もいるので、恐竜の分類も難しい。
6)恐竜を絶滅したとする隕石の影響の規模?
→隕石による熱、津波、火事の規模は不明であるが、高緯度ではあまり影響がなく、恐竜が生存していたかもしれない。
7)恐竜の視力→ティラノサウルス化石は眼部が大きく前に出ており、立体的に良く見えただろう。
<所感>
退職後から恐竜に興味を持ち始めてから、セミナーで発表されるようになるまで、短期間である
ことに大変驚くとともに、敬意を表します。
恐竜は絶滅したとされているが、絶滅せず、生き延びて鳥になったという説は、説得力がある。
例えば、ニワトリの足は恐竜の足に似ていると言われると、確かにそのように見えるものであり、恐竜のDNAが引き継がれているように感じる。
これからも研究が進むにしたがって、新しい学説が出てくると思われるが、あまり先入観に捕らわれず、柔軟な発想で考えることが必要なことを強く感じた。
このたびは大変貴重で有意義なお話をして頂きましたことに、深く感謝申し上げます。
【角野章之】