第241回セミナー報告「黄昏の中国とアジアの未来予想図」2023年4月
2023年 05月 02日科学技術者フォーラム2023年4月度(第241回)セミナー報告
「黄昏の中国とアジアの未来予想図」
日 時:2023年4月22日(土) 14:00~16:45
会 場:品川区立総合区民会館(きゅりあん)第1特別講習室+ZOOMオンライン
参加者:36名(会場20名、WEB16名)
講演者:亜細亜大学都市創造学部 教授 元日経新聞論説委員 後藤康浩 氏
【講演要旨】
1.中国の黄昏状況
1)中国経済の巨大化、技術進化で外資が輸出向け産業から内需を狙うサービス業に向けられるようになった。またコスト高で外資が他のアジアに移される方向にある。
2)米中冷戦は長期の闘争になり、産業・金融・技術から軍事・外交・科学までフルライン衝突になる恐れがある。
3)習政権は、南シナ海での不法な海洋支配、一帯一路構想、ユーラシアニズム(ユーラシア大陸を基盤とする国家連携)等による覇権主義を強めている。それに対し世界が警戒し、特に米中冷戦が影響を受けている。
4)急速な少子高齢化と経済成長による格差拡大によって中国社会の歪みが増大している。
2.習総書記は、中国共産党の原点回帰と平等な社会の実現、市場経済から統制型計
画経済への転換、グローバル覇権による外国介入の防止、外資と自由貿易体制の継続的利
用を目指している。
3.最近の中国の危機
1)「白紙革命」の全国拡大によって共産党指導部は衝撃を受けた。
2)ゼロコロナ政策の撤回、経済政策の大転換、米国との対話実施等の、動揺による政策転換が生じている。
3)Born Internet世代はサイバー空間で自由を求め、国家資本主義による経済成長至上主義に反発している。
4)習政権の絶対権力による共産党の為政に対する国民の不満が拡大している。
5)米中冷戦で、米欧日の先端製品、特にネットワーク機器、パソコンおよびスマホ等の生産拠点が中国からベトナム、タイ、インド等に加速度的に流出している。
4.これからの中国生産
1)米欧日は、今後も中国市場向けの労働集約型製品の生産を中国国内に残留させる。
2)先端的な高付加価値の輸出向け製品は失われる。
5.世界の工場
1)「ポスト中国」の産業立地は不透明で、一国で中国に代わる国はない。
2)中国は組立産業が減り、素材・デバイスが輸出の中心となる。
3)先端製品、高付加価値製品中心に先進国回帰が進む。
4)工場立地は目まぐるしく場所を変える。
6.アジアの有望国としては、ベトナム(電子産業、インフラ・不動産建設)、インド(フルライン型産業)、バングラデシュ・パキスタン(低賃金、豊富な労働力)、フィリピン(英語力と労働力、ICT分野)、インドネシア(高い潜在力)等が挙げられる。
【主な質疑応答】
Q1:習近平の毛沢東再来思想の実現性?
→中国は現在、超格差社会になっており、共産党幹部が格差の頂点に立っているために、実現はかなり難しいと思われる。
Q2:香港の状況?
→一国二制度が機能している間は、香港は中国の開かれた窓口として経済的に発展したが、一国二制度が破綻すると、香港の重要性が小さくなった。
Q3:台湾の今後?
→台湾への軍事侵攻は難しいが、米国に対し台湾への侵攻をしない代わりに、南シナ海の権益を認めるように交渉する可能性がある。
Q4:米国はロシアに接近し、ロシアと中国の国境紛争を仕掛けることはないか?
→中国とロシアの間の国境問題は国境協定締結により解決しているので、こうした問題は起こらないだろう。
Q5:中国から米欧日の企業が撤退しているとのことだが、莫大な資本を投入した企業が撤退するのは難しいのではないか?
→中国から輸出向けの生産企業は撤退しているが、中国市場向けの生産企業は残っている。
Q6:日本農産物の中国向け輸出の将来性?
→農作物に関しては、種子や苗が持ち出され、似たような作物が作られたが、海産物のような商品は有望である。
【所感】
共産党の一党独裁政権のもとで、国家資本主義による経済成長至上主義を強力に推し進める中国の状況に対する理解が進みました。現状では、中国人の生活レベルが上がり、また経済格差が拡大し、さらにどうしても世界の諸情報が流れ込む中で、いつまでも強力な独裁体制が継続されるとは思えません。中国の対外的政策はかなり軟化されるのではないでしょうか。
こうした状況下で日本の中国への対応が重要です。日本にとって中国は、古来から文化的に、かつ経済的に非常に強いつながりを持っている国です。単に武力で対立するのではなく、卓越した外交力で、適正で良好な関係を築くことが今後の重要な課題であると思われます。
【報告者:木村芳一】