第236回セミナー報告「おいしさの科学-その構造と意義ー」2022年11月
2022年 12月 20日第236回 科学技術者フォーラムセミナー報告
おいしさの科学―その構造と意義―
日 時:2022年11月19日 13:30~16:30
会 場:品川区立中小企業センター
参加者:会場 14名 +ZOOMオンライン 10名
講演者:一般社団法人おいしさの科学研究所・理事長、香川大学・名誉教授
農学博士 山野 義正 氏
【講演要旨】
1.日本の食文化
日本の野菜、果樹の殆どは外来のもの。野菜類が豊かになったのは江戸時代から。
2.食品の3要素:①栄養、②おいしさ、③安全性
3.おいしさの3要素:①狭義の味、②匂い、③テクスチャー
①味:味覚受容体(Gタンパク質)で、塩味、酸味、苦み、甘味、旨味を感じている。
②匂い:揮発性物質の内嗅覚を刺激する物質。多くの要素があり(例えば、コーヒーには789の要素)、食べ物の識別と危険回避のため、また種族保存(生殖)のために重要。但し、人間の嗅覚は退化している。
③テクスチャー:外観(形、色)、かむ時の音、温度を含む物理化学的な総合的な食感。
4.おいしさの評価
①客観的評価:機器検査(味覚センサー、匂いセンサー、粘度計等)。
②主観的評価:官能検査(人による検査。一般の人の検査と専門の人の検査)。
5.国による味覚の違い
留学生に依頼し官能検査を行ったところ、国によりおいしさの基準が異なる。
例えば、タイ人は「いりこ出汁」を好まない。中国人は国が大きいため、中国人として一概に判断できない。
6.市販品の評価
各種お茶のペットボトル(旨味と渋味の比較、酸味と甘み)、ウイスキー(苦味と旨味・酸味・渋みの比較)などを評価した。味の要素別に分離することでいくつかのグループに分けられる。
7.色による味の評価
テーブルクロスの色により、出された料理のおいしさの感じ方が変わる結果が出た。しかし、これは国により一律ではなく、国によりおいしく感じる色が違う結果が出ている。
8.今後の発展
老後の生活で、衣食住のうち食が一番重要という調査結果が出ている。おいしさの科学研究所では、快感度の評価法の開発、おいしさの基準作り、おいしさのデータベースの蓄積などをすすめ、人生100歳時代における快適生活への貢献に取り組んでいきたい。
【主な質疑応答】
Q1.縄文時代は日本固有の野菜はミツバくらいしかなかったといわれていますが?
⇒文献が無く何とも言えないが、ミツバ以外にもあったのではないかと思う。現代では日本が世界で最も食材・料理が多様な国だと思われる。例えば豆腐はいつ頃どうやって発明されたのかを想像するだけでも面白い。
Q2.擬音語が翻訳し難いことが日本食品の輸出の壁になっているのではないですか?
⇒そうは思わない。
Q3.消臭検査の評価は極めて困難といわれていますが?
⇒においはすぐに逃げるため検査が困難。
Q4.官能検査でビッグデータの活用はしているか?
⇒オリーブなどで活用している。
Q5.酒類の官能検査は行われていますか?
⇒日本酒やワインは種類が多過ぎて官能検査は行っていないが、味覚センサーで特徴を調べたことはある。プロの世界(杜氏やブレンダー、ソムリエなど)の領域という理解
Q6.官能検査について心理学分野の先生方とのラボレーションは?
⇒官能検査に関して、現在は直接の対応をしていないが、心理学の先生と心理生理学の手法を応用したプロジェクトを構想している。スポンサーを募集中。
Q7.お米では機械である水準まで測れますが、牛肉では無理なのでしょうか?他の農林水産物にもこうした数値的なおいしさを機械的に測定できる可能性はありますか?
⇒米の食味試験は化学的な値(アミロースとアミロペクチン含量)と機器測定による値(主として力学的測定値)の次元の異なる要素を一緒にした方法で問題がある。米の食味(おいしさとする)定義(方程式)をはっきりしてから整理すべきである。
牛肉のおいしさは最も数値化しがたい食品で、
①部位が極端に多く、それぞれの肉質が異なる、
②料理により期待するおいしさの種類が異なる、例えば、ステーキ、焼き肉、すき焼き等。
③家畜改良事業団では長年にわたり、成分を徹底的に分析しておいしさを評価するプロジェクトを実施していた。
上記①、②を決めれば、機器測定でなくても構成成分から食品のおいしさを評価できることが示されている。
【所感】
山野先生には「おいしさ」と言う捉えるのに非常に困難な部分を平易にご説明いただきました。「おいしさ」というものは、物理的・化学的な要素だけでなく、人間の経験、心理、国ごとの文化(食文化だけでなく)まで含めたトータルの形で捉えなければならないことが理解できました。人生100歳時代を迎え、快適生活への貢献を目指している「おいしさの科学研究所」の益々のご発展をお祈り申し上げます。
なお、今回の講演では会場の通信環境が悪く講演が途中で何度か遮断しました。早くコロナ渦が収束し、会場に多くの聴講者が参加し、セミナー終了後に開催する懇親会で講師とのより深いデスカッションが出来るようになることを切に願っています。
【報告者:碇 貴臣】