第235回セミナー報告「エネルギー転換に向かう世界 エネルギー・気候危機対策と日本」2022年10月
2022年 12月 05日科学技術者フォーラム2022年10月度(第235回)セミナー報告
「エネルギー転換に向かう世界 エネルギー・気候危機対策と日本」
日 時:2022年10月22日(土)13:30~16:15
会 場:品川区中小企業センター+ZOOMオンライン
参加者:35名(会場14名、WEB21名)
講演者:公益財団法人自然エネルギー財団 事業局長 大林 ミカ 氏
【講演要旨】
1.世界では自然エネルギーが一番安い電源に
・世界のGDPの3/4を占める国々では太陽光と風力が最も安価な電源になっている。
2.エネルギー転換
・太陽光が全てを席捲しつつある。この10年でPVソーラーのコストは9割低下。
・風力発電も堅調に拡大してコストはさらに半減。両者とも化石燃料より低コスト発電可能。
・中国を始めとして、世界中で拡大の動きが加速している。
3.加速する気候危機とエネルギー転換
・世界の流れは脱石炭から脱化石燃料になっており、化石燃料銘柄への投融資は停止の方向。
・金融もエネルギー転換投資へ動いている。
4.エネルギー危機について
(1)気候危機に加え、ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー危機が表面化し、エネルギー安全保障がエネルギー政策の焦点になってきた。化石燃料の危機であり、エネルギー自給率を高め、化石燃料からの転換を加速する必要がある。気候保護政策とも合致する。
(2)欧州各国は自然エネルギ―の利用が倍速になり、2030年の自然エネルギー電源目標を70%~100%に引き上げている。米国も英国も、自然エネルギーを中心とした2035年の電力の脱炭素化を掲げる。一方、日本の自然エネルギー目標は2030年に36-38%である。
5.日本の抱える問題点・現状・政策について
(1)ロシアのウクライナ侵攻で悪化している化石燃料危機に対して、日本の一部や欧州は正反対の受け止め方をしているので、対策に大きな違いが生じている。
・日本の化石燃料産業に膨大に補助金を与えるという、長期的視点が欠けた短期的な政策に対し、欧州は脱炭素長期目標は化石燃料危機と合致するという視点のもと、短期・中期政策を明確にしつつ、省エネルギーや再エネルギーを加速する政策を提示している。
・米国も同じように、インフレ抑制条例は史上最大の気候対策であり、燃料高騰下における消費者保護、再エネ・省エネの免税政策など、直接消費者に利益が行く政策をとろうとしている。
(2)日本のエネルギーの状況
・2020年の速報では発電量10憶kW/hの39%がLNG、31%が石炭、19.8%が自然エネルギー(水力発電7.8%、太陽光発電が7.9%)である。
・太陽光発電は2012年固定価格の買取法の導入以降、初めてビジネスとして成り立つようになり、太陽光発電ビジネスが拡大してきた。
・自然エネルギーの拡大速度が遅い、という誤解があるが、日本は過去10年で70GWもの太陽光を導入しており、適切な市場が整備されれば、自然エネルギーは拡大していく。
(3)日本の脆弱なエネルギー安全保障
・化石燃料の依存度が高く(85%)、しかも自給率が低い(0~3%)。アンモニア燃料も輸入頼り、CO2 貯留は海外に依存する前提であり、エネルギー自給率を上げることにつながらない。
・自然エネルギー電源開発も遅れており、石炭火力設備容量は一貫して増加し、2022年更に500万kW新設中である。日本の温暖効果ガス排出の1/3は火力発電所からである。
(4)政府の2050年戦略
・2020年に出した数値目標を曖昧にしたままだが、自然エネルギーは50~60%。原発と「ゼロエミ火力」で40~50%として政策を組み立てている。
・一方で、IEAの1.5℃シナリオでは世界全体で自然エネルギーが88%を占めるとしている。
(5)日本政府は「ゼロエミッション火力」を強調
・発電部門のCO2 の回収・貯留(CCS)については、世界的に未熟な技術であって火力発電への導入は1件のみ、その例でも60%の回収率にとどまり、完全回収は不可能である。
・また日本では地理的条件の制約あり、CCSは高コストな海中が検討されているが、CCSの具体的な貯留場所が見つかっていない。そうした中で、アジア全体が脱炭素に向かうべきであるにも関わらず、日本が排出したCO2をアジアに「輸送」して「貯蔵する」という計画を持っている。一方で、CO2の船舶輸送技術も現状未確立である。
・アンモニア発電も技術開発半ばで、アンモニアが化石燃料由来である限りは、排出量は削減されない。
・また、水素もアンモニアも、化石燃料ベースである限り、化石燃料のコストと転換のコストがかかる。グリーン水素、グリーンアンモニアでないと安くはならない。
・従って、政府の2050年戦略「原子力発電(11.5円~/kWh)とゼロエミ火力」への依存は高い電力コストをもたらすことになる。
(6)日本の進める「水素社会」は、実現が難しい。
・水素は高価なエネルギーであり、重工業や重運輸など、電化ができないところで適用されるべきである。
・欧州が水素に熱心なのは、すでに、安い、タダの自然エネルギー電力が豊富に見込めるからであり、グリーン水素を意味している。
・日本のように、燃料電池車や軽運輸での利用はコストが高くつく。電化した方が早く安い。
・水素については、製造も消費も一貫した考え方が必要である。
(7)原子力発電の活用・新増設の現実性:
・時間軸、コストとも、実現可能性が低く、高コストの「革新的原子炉」開発に財源・人的資源を浪費すべきではない。
(8)日本国内の脱石炭火力の動き:
・RE100(自らの事業の使用電力を100%再エネで賄う)参加企業数は2022年72社。
(9)太陽光発電の導入拡大の展望が開けつつある
・コスト低下(2030年5円台/kWh)に加え、新築住宅でのパネルの搭載の標準化、軽量化等対応あり。東京都や川崎市ではパネル設置義務づけの政策が議論されている。
(10)脱炭素の日本への自然エネルギーシナリオ:
・エネルギー需要の変化としては、人口20%減が予測され、活動量の減少と省エネで2050年までに35%減少が想定される。
・2050年の電力については100%自然エネルギーで供給。しかし日本では、国内の送電線のつながりが悪く、目標の引き上げ、導入加速の足を引っ張っている現状がある。
(11)新しい動き:
・「建築物省エネ法」の法案が復活し国会で成立。住宅断熱政策への関心が高まっている。
・住宅は単体で脱炭素が可能な唯一の部門で断熱が有効な手段。断熱上位等級が新設され、建築物等の省エネも動き出した。
(12) 今こそ必要:
・日本のすべての住宅に太陽光発電を、そして建物・器機の省エネを!
【主な質疑応答】
Q1.自然エネルギー電力の今後?
→特に太陽光発電に関しては新たな技術が展開されているし、またエネルギー需要が減ってくることを考えると、2050年にはコスト・技術的に考えても、直接・間接利用で自然エネルギー100%の供給が可能となる。それを実現できる政策が実施されるかが重要である。
Q2.原子力発電の今後は?
→放射性廃棄物は未だ解決されていない問題である。コストも高く、また発電所建設から運転、解体、後処理に100年を要し、その間に放射線事故の可能性があること、また水を大量に必要とすることを考えると非常に難しい。
Q3.家の断熱対策?
→特に欧州では進んでいるが、日本でも高気密、高断熱、高換気性能を有する家を建設することが脱炭素で重要なことである。
【所感】
政府の2050年戦略:日本の自然エネルギーは50~60%、原発と「ゼロエミッション」で40~50%とコストの高い電源を使うことになっています。ゼロエミッションは技術も、固まっていませんし、CCSの貯留地も未定です。世界が、太陽光と風力の安価な電源に向かっているのに、なぜ?の疑問はそのままです。しかしながら少しずつではありますが、政策として安価な太陽光電源、家屋・器機の省エネ対応が確実に進み出したようで、うれしいお話でした。関係企業には大いに頑張ってもらって、GDP回復の一助になって欲しいです。そして、世界の潮流からズレ始めた「ゼロエミッション」、タイムリーな見直しも必要と思いました。 【報告者:後藤幸子】