第234回セミナー報告「人類が初めて見たブラックホールの姿」2022年9月
2022年 09月 29日「人類が初めて見たブラックホールの姿」
日 時:2022 年 9 月 24 日(土) 13:30~16:15
参加者:品川区立中小企業センター(16名)+ ZOOMオンライン(20名)
講演者:国立天文台 水沢 VLBI 観測所 所長/教授 本間 希樹 氏
【講演要旨】
1.ブラックホール(BH)の特徴
(1)アインシュタインの一般相対性理論で予言され、また強い重力のため、入ったものをすべて飲み込み、光さえ脱出できない暗黒の天体である。
(2)すべての物質が凝縮する特異点、および光すら戻れない、事象の地平面を有する。
(3)周囲の物質を飲み込むと、重力エネルギーが解放される。そこで、BH に物を落とすとエネルギーを取出せ、例えば熱で発電する。
2.観測
(1)観測組織は EHT(Event Horizon Telescope:“事象の地平線”望遠鏡)プロジェクトと呼ばれ、そこに世界の13 機関を中心に、200名超の研究者が参加している。それは世界中の研究者の夢と好奇心による自発的な意思で成り立っている。
(2)観測は、既存の各地の電波望遠鏡(6ヶ所、8 台)をつないで地球規模の仮想望遠鏡を構成し、極めて高い分解能を得る VLBI(超長基線電波干渉計)を利用している。
(3)BH の撮影には、視力 300 万、解像力約 20 マイクロ秒角を必要とした。
3.観測された BH の画像
(1) M87 銀河中心の BH
・距離:5500 万光年、リングの大きさ:0.01 光年
・ドーナッツ構造の中心の穴が BH の影で、またドーナッツ状の部分は BH にまとわりついた光の衣(光子球)である。さらに BH の重力に逆らって光速に近い速さで銀河の外へ噴出するジェット(プラズマ流)が存在するが、 EHT の写真には写っていない。
・画像に関しては、従来法、米国手法、日本手法で解析したが、手法によらず構造が一致し、また 4 回の観測とも同じ構造であったことから画像の再現性と安定性が確認された。
・得られた画像は 3 手法によるものを平均したものである。
・最先端の理論シミュレーションとの比較から、リングの明暗や電波の強さを含めて、BH 近傍のガスが電波を放射しているという描像と合致した。
・リングの大きさから BH の質量は太陽質量の 65 億倍と決定された。
・BH の存在を視覚的に示し、銀河の中心にある天体が巨大 BH である確証を得た。
(2) 天の川銀河中心の BH いて座 A*
・距離:2.7 万光年、リングの大きさ:M87 の約 1/1500
・いて座 A*周囲のガスの明るさや模様は激しく変化するので、解析は、M87 に比べて非常に難しく、ともに 2017 年に観測したが、解析には M87 は2年、いて座 A*はさらに 3 年を要した。
・4 つの画像化手法(改良した従来法、米国手法、日本手法およびカナダ手法)を使用して、それらから得られる多数の画像を平均化した。
4.今後の課題
・BH の動画撮影 ・特に M87 でのジェット形成機構 ・アインシュタイン理論の正当性
【質疑応答】
1)BH はすべての銀河の中心にあるか?→必ず 1 つある。銀河が先か、BH が先かは解明されてない。
2)BH の大きさ?→M87 では直径が 400 億 km である。
3)BH の構造?→多少歪んでいてもよいが、基本的にはほぼ球形状である。
4)BH 周りのガスの回転方向と速度?→方向は偶然であり、また速度は光速近くまで加速される。
5)望遠鏡の数を増やす効果?→画質を上げる。
6)BH の役割?→銀河形成に対し重要な役割を持つと思われるが、それは今後の観測によって解明されるだろう。
7)BH の寿命?→ホーキングの予測によると非常に長いものの有限の可能性があるが、その確認は今後の課題である。
【所感】
M87 までの距離は、我々の生活でのスケールからかけ離れた 5500 万光年であり、そこの画像を捉えることができたという科学技術の偉大な進歩に驚嘆します。さらに観測精度が向上して BH の動的な挙動が明らかになれば、BH の状況、役割等がより深く理解され、不思議な宇宙の解明に重大な貢献をするであろうと思われます。宇宙の諸現象に無意味なことはないはずで、BH に関する今後のさらなる研究を期待します。
(報告:木村芳一)