第233回セミナー報告「日本の技術源流と江戸のハイテク・イノベータ ~古代金属技術紹介と平賀源内らの江戸時代の技術者像~」2022年8月
2022年 08月 31日科学技術者フォーラム2022年8月度(第233回)セミナー報告
「日本の技術源流と江戸のハイテク・イノベータ」
~古代金属技術紹介と平賀源内らの江戸時代の技術者像~
日 時: 2022年8月20日(土)13:30~16:15
開 催: Web(ZOOM)オンライン
参加者: 25名
講演者:㈱テクノ・インテグレーション 代表取締役社長 工学博士 出川 通 氏
【講演概要】
A.日本の技術源流:地勢・風土の自然条件と豊富な金属資源、各種道具の製造や展開技術
1.日本古来の環境と金属・鉱物
・日本は火山国で特殊な地球のひずみ地域のため各種資源のデパートである。金属資源は少量多品種で比較的豊富。鉄(くろがね)、水銀(みずがね)、錫、亜鉛(あおがね)など。現在も世界1位の金属資源大国。
・気候は四季があり、水や森林、植物(食料)などの資源も豊か。島国で水産資源も豊かで物流にも優位。産業革命前までの列強との国際的位置(距離)は常に「そこそこ」であった。
・江戸以前はインフラ系(交通、通信、安全)や道具系(技術)が全く違ったが、人間が生きるために必要な道具である刃物などの金属加工技術は独自に磨かれ、超高級品(一生もの)となっていた。
・地表鉱石から多様な成分が得られ、本草学(自然科学全般)の範囲となった。
2. 各種金属に関連する技術と背景
・金属を得るための技術(探鉱、製錬、精錬、鋳造、鍛造、切削、接合、鍍金など)が発達。
・日本の金Au(こがね): 産金の本格化は室町時代、菱刈鉱山の金の品位は世界一。
・日本の銀Ag(しろがね):17世紀初めの銀生産量は世界の3分の1。
・日本の銅Cu(あかがね):江戸時代中期日本は世界最大の銅輸出国。以前より銅銭があった。
・日本の鉄Fe(くろがね):日本の歴史は鉄をめぐる戦いの歴史。武器としても最強材料。金よりも高価な時代。湖沼鉄は海綿鉄、鍬鉄用に、餅鉄が鍬、鍋、武器に、砂鉄がたたら製鉄により、鋼、玉鋼にそして日本刀に使われた。高級鋼は出雲地方に集約した。
・日本の水銀Hg(みずがね):火山国日本は世界有数の産出国であった。薬用等超貴重品。
3.金属と地名、人名などと歴史・神社(祭神)など
・古来から鉱山や金属は重要な技術体系。地名、人名、伝説と神社に痕跡が色濃く残っている。
・日本の科学技術の特徴(他国と比較して)は日本の地勢・風土の自然条件から説明できる。
・日本技術の源流は「金属鉱山技術」
①大企業(住友、日立、富士電機・・)のルーツでもあり、
②産業革命前の日本の職人、工芸品などの伝統工芸、美術品のルーツも重なり、
③現在のハイテク・ハード系技術(半導体、液晶、電池、化学・・) に繋がっている。
・日本の伝統技術を体系的に若い人に伝承する必要がある。
B.江戸のハイテク・イノベータ:二回目の鎖国と技術者魂
4.平賀源内(1728―1779)のイノベーターとしての原点
・江戸中期は石高(こくだか)経済が限界化し、人口も資源も多いがこのままではダメと思う危機感から農業生産を補完する、新たな産業の振興が期待された。
・平賀源内は、一般には「土用の丑の日」で知られるコピーライター、異才、奇才だが、文系人としては浄瑠璃・戯作など江戸の有名作家として、理系人としてはエレキテル、本草学者、発明家、事業家、職人などとしても知られる。
・「万能の天才・時代の先駆者」「日本のダビンチ」などと呼ばれるが、企業家・起業家・イノベーターとしての源内は、日本の流通システムのイノベーションにも貢献。
・研究者(学者)として、亜鉛鉱や芒硝、各種薬草の発見、分類表の作成などでも知られる。
・発明家として、量程器、磁針計、寒暖計、エレキテル復元改良、竹とんぼ(プロペラ)、源内凧、大型風船(熱気球)、ライター発明などの成果も凄かった。
5.イノベーター・平賀源内の発想法を学ぶ
・発想は危機感から ⇒ ①江戸中期人口の増加、各藩や金持ちの海外物への金銀・資源の浪費、②殆どが日本で賄える。③誰もが生きるだけで精一杯。多くの制約。
・ならば自分が課題解決! ⇒ ①日本初の博覧会開催、②エレキテル改良復元と興行化、③日本の鉱山(金属資源)再開発。
・源内から学ぶこと ⇒ ①人より早く行動、②プロデュース能力、③アライアンス、④最先端情報収集、⑤プレゼン力、⑥広範な興味。
6.エレキテルつながりの橋本宗吉、佐久間象山などの江戸のハイテク・イノベータ
・橋本宗吉(1763‐1835):日本の電気の祖。物覚え早く、手先器用、真面目な努力家。上方の文化・風土の影響大。
・佐久間象山(1811- 1864):大砲の独力製造、ガラスの製造、電気治療器(エレキテル)、無線発信機の製作 など。
C.わかってきたことから今後の展開へ
・日本の科学技術の特徴は、固有の発展技術(和学)+大陸(漢学)+欧米(蘭学)の融合。
・技術の特徴の多くは、融合によりイノベーションの発生や社会ニーズの展開に合致したもの。
⇒ 理系(文系)学生・社会人へのモチベーション向上とシニアの活動に繋げたい。
①産業革命前の技術史、技術内容の豊かさを知り、現在技術と繋げる歴史を発掘する。
②江戸時代の技術者見直しと各分野での再発見を行い、伝搬する。
③地域特性と技術面での歴史を明確化し、ものつくり系での自信と誇りにつなげる。
【主なQ&A】
①日本でもレアメタルは産出されたのか? ⇒ 海底からコバルト等のレアメタルは採掘可能だが、採算が取れないので商業採掘はされていない。
②1979年に曲り田遺跡 (福岡県糸島市)で発見された鉄器は紀元前1千年頃に作られたと判明。
③日本の農作(稲作)技術に関しては、調査が進み、創意工夫が明らかになっているが、鉱山技術に関しては不明な点が多く、調査の必要がある。
④神社には最高の物を奉納する文化があるので、神社を調べるといろいろなことが分かる。
⑤鎖国は良かったのか? ⇒ 職人技術・技能を育んできたのかもしれない。個人能力は高い。
⑥過去のイノベーターから現代学べることは? ⇒ 専門性、分業制の枠を外す。寺子屋の様な教育の場が必要。歴史を学ぶこと大切(特に地域の)。シニアの活躍の場。
⑦明治時代、お雇い外国人を高額で招聘した。日本人は技術を吸収すると立ち上げは早い。
⑧日本は米国等が行っている大型技術の模倣、あるいは開発を行うだけではなく、独自の優れた技能を発揮することが求められる。それが日本の強みになるであろう。
⑨日本人の強みは? ⇒ 創意工夫の能力は高い。職人的、ヨーロッパ的である。
⑩今後のあり方は? ⇒ 若者に自信を持たせる。若者は失敗しても挫けない。大企業を早期に退職した人がベンチャー等で能力を発揮すべき。スポンサーがイノベーターを救い応援する。
【所感】
日本の科学技術の源流は古代からの金属技術であり、江戸時代にはそれらをベースに先行きに危機感を感ずる人たちがハイテク・イノベータとして活躍したと言う事は驚きであるが、近年特に感ずる日本の低調・閉塞感を打破するために、そのような先人の生き方を学び、新たに挑戦をする人たちが出てくることを、またそのような人たちを支援する人が多くなることを期待したい。これはまさに科学技術者フォーラムの目的でもある。人生100年時代、自らが現代のイノベーターとして実践されている出川さんに多くの刺激を与えて頂いたセミナーでした。
【報告】山岸 任