第231回セミナー報告「炭素循環に基づく持続可能な社会におけるプラスチックの役割」2022年4月
2022年 04月 24日科学技術者フォーラム2022年4月度(第231回)セミナー報告
「炭素循環に基づく持続可能な社会におけるプラスチックの役割」
日 時:2022年4月16日(土)14:00~16:40
開 催:ハイブリッド【会場リアル+Web(ZOOM)オンライン】
参加者:27名
講演者:早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 ナノプロセス研究所
客員教授(工学博士) 加茂 徹 氏
【講演要旨】
プラスチックは軽くて丈夫で安価なため、世界では年間約4億トンが生産されている。私たちが日常的に購入する食料品や日用品は殆ど全てがプラスチック容器に包まれており、そのために家庭からは毎日大量の廃プラスチックが排出されている。一方、大量に廃棄されたプラスチックの一部が海洋へ流出し、生態系に深刻な影響を与えている可能性があることが分かってきた。また廃プラスチックチックの焼却で発生した二酸化炭素は、地球温暖化を加速しているとの指摘も受けている。
本講演では、廃プラスチック問題の現状および最新のリサイクル技術を紹介すると共に、便利で厄介なプラスチックとこれからどのように付き合っていくべきかの考え方が示された。
1. 持続可能な社会の実現を目指す背景:Circular Economy (循環経済)
経済成長と雇用創出GDP+7%:約1兆ユーロ(123兆円)[2030年までに]
プラスチックは世界中で4億トン生産され、3億トンが廃棄されている。
廃棄量の半分は容器包装類。
2. 廃プラスチックに関する動向:プラスチック資源循環戦略のマイルストーン
<リデュース>
2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制
<リユース・リサイクル>
2025年までにリユース・リサイクル可能なデザインに
2030年までに容器包装の6割をリサイクル・リユース
2035年までに使用済プラスチックを100%有効利用
<再生利用・バイオマスプラスチック>
2030年までに再生利用を倍増
2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入
3. プラスチックのリサイクルの特徴
金属のリサイクルは元素の循環利用であるのに対して、プラスチックは化合物の循環利用であり、その純度や化学構造を維持することが重要。
高品位な廃プラはマテリアルリサイクル(再生利用)、中品位な廃プラはケミカルリサイクル、低品位な廃プラはエネルギー回収する。
4. マイクロプラスチックの現状
マイクロプラスチックは5mm以下のものであり、マイクロプラスチックのライフサイクルには不明な点が多く、人体への影響も明らかにされていない。
地上から海洋流出したプラスチックごみ発生量(2010年推計)を人口密度や経済状態から推計した数値は、中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、スリランカの順であり、アメリカは20位、日本は30位である。
5. バイオプラスチックの現状と課題
バイオプラスチックにはバイオマスプラスチックと生分解性プラスチックがあり、前者は植物資源を利用したものでCO2の排出ゼロで持続可能資源だが、価格、エネルギー、生物多様性、食料(土壌、水、リン)との競合という欠点がある。後者は投棄しても消滅するという利点があるが、価格、エネルギー、モラルハザード、分別困難という欠点がある。それぞれの特徴を考えて利用する必要がある。
6.資源循環の未来
廃プラスチックを効率的に回収し再利用するには、規格化や情報技術を利用することが重要である。資源を再利用することが、新しい価値と見なす動きが出ている。
従来の価格、品質に加えて、環境やエシカル的価値観(児童労働・人権・ジェンダー・人種・生物多様性)を重視する姿勢が強く求められるようになってきている。
【Q&A 抜粋】
Q1.プラスチックも自然の有機物もともに分解されてマイクロプラスチックになるのに、人工のプラスチックが極端に悪者にされているということはないか?
A1: マイクロプラスチックが最終的にどうなるのかは未だに解明されていません。自然の有機物が分解しても多くの漂流ごみは発生していますが、マイクロプラスチックは人工物であり、自然由来の有機物とは挙動が異なります。
Q2. プラスチックを燃やしてCO2を回収するというリサイクルはどうなのか?
A2: エネルギー回収は、非常に劣化した低品位な廃プラスチックの最終的な処理方法として重要です。しかし、持続可能な社会では、エネルギー回収の際に発生したCO2の固定化に関わる環境負荷や費用を含めて他のリサイクル方法と比較検討する必要があります。
Q3. タイヤのリサイクルは難しいと聞いているが。
A3: タイヤは中古タイヤとして一部がリサイクルされています。また海外ではタイヤから燃料油を製造するプロセスも提案されていますが、硫黄分が多く非常に低品質な燃料です。現在の日本では、ガス化くらいしか可能性がないのが実情です。
Q4. 下水のマイクロプラスチック対策はできるのか?
A4: 化学繊維の洗濯くずもマイクロプラスチックの原因ですが、これを無くすことは現状では非常に難しい。マイクロプラスチックの危険性評価によっては、今後の対策に差が生まれてくるものと思われます。
Q5. プラスチック業界は製品の種類が多過ぎて、このことがリサイクルを難しくしているのではないか?
A5: 入札する度に添加物などを変えてプラスチック製品の物性を少しずつ向上させているため、プラスチックの種類が非常に多く、リサイクルを困難にしています。プラスチックの種類の数を制限し、共通規格化が必要なのかもしれません。
【所感】
持続可能な社会において、プラスチックのリサイクルに焦点を当てた講演をして頂いたが、混ぜるとゴミ、分別すると資源という言い方は、門外漢の自分にとってたいへん分かり易かった。
またリサイクルで重要な視点はマクロから見たLCA(ライフサイクルアセスメント)ということであり、単にリサイクルすればよいというものではないということも理解できた。
持続可能な社会という考え方についても、多面的に考えてゆかねばならないことを再認識することができたことも大きな収穫であり、大変有意義なセミナーであった。
加茂先生のこれからの益々のご活躍を祈念致しております。どうも有り難うございました。
【報告:角野 章之】