第230回セミナー報告「体験的五十代技術者起業論とWeb技術活用のすすめ」2022年3月
2022年 03月 28日科学技術者フォーラム2022年3月度(第230回)セミナー報告
「体験的五十代技術者起業論とWeb技術活用のすすめ」
日 時:2022年3月19日(土)14:00~16:40
開 催:ZOOMオンライン
参加者:26名
講演者:東京農工大学客員教授 工学博士 熊坂技術士事務所 代表 熊坂 治 氏
【講演要旨】
本セミナーは、熊坂氏が会社を退職後、50代半ばに起業して、Web技術を活用した事業を軌道に載せた実体験を元に、講演頂いたものである。
1.体験的起業論
(1)50代は絶妙の起業タイミング
50代は業務スキル、豊富な事業経験があり、人脈が広い。さらに、財力もそこそこあり、体力が残っており、かつ事業を成長させる時間的余裕(3~5年)もある。
20、30代では事業経験、財力の面で問題や不安があり、60代では体力/気力が衰え始め、成長の時間が少ない。
現状に不満な人は積極的に起業検討し、計画を立て、タイミングを図り、風を待つ。
現状に満足な人も状況が変化することがあるので、準備だけはしておくことを勧める。
「自分にできるか。」との不安はあるが、人間は追い込まれれば何とかなるものである。
(2)技術者の特質
技術が好きで、専門が狭く深く、論理的思考が好きで、お金に執着しない、人づきあいが苦手で、営業の経験が無く、論理が通じない事が理解できない、という傾向がある。
このことは、物事にこだわりすぎ、自分の専門領域の方法論で判断し、他の芸を軽視する傾向があり、説明能力に欠け、営業に疎い、等のリスクを抱えやすい。
起業して経験することで、時間とともに慣れてゆく人も多い。
(3)起業に向く性格と属性
楽天的、やりたいことがある、上手くいかない理由を他責にしない、人から頼られる、事業開発の経験がある、器用 等。 但し、完璧な人はいない。
(4)起業(ベンチャー)
難しいほど参入障壁がある良い事業。計画通りにはゆかないが、耐え凌げば 何か見えてくる。待っているだけでは幸運は来ない。運が向くと思われる活動をしたうえで幸運を待つ必要がある。
ベンチャーの急成長のためには金と人が必要で、ベンチャーキャピタルからの投資はその一つの手段。 最終的な出口は、①IPO(新規上場)、②M&A(合併・買収)、③破産・清算である。
一般的に大企業での新規事業開発担当はハイリスク・ローリターンであるが、近年のスタートアップ起業はローリスク・ハイリターンである。
2.近年の起業事情(日本)
(1)アベノミクス(3本の矢)が言われたが、政府が出来るのは1本目と2本目の矢である予算と法整備のみで、3本目の具体的に「どうやって成長するか。」は民間の問題である。
(2)日本の人口は減っていて、潜在成長率も低下している。
(3)日本の起業率は世界でも最低レベルである。
(4)国策で行き場を失った大量の資金がベンチャーに流れ込んでいる。
(5)IPO(新規上場)は増加傾向である。
(6)60歳以上の熟年起業が増えている(1979年6.6%→2021年32.4%)
理由:年金による生活費確保、起業資金を持つ、スキル、人脈を持ち、体力気力がある。
3.起業の要点
(1)出来る(得意)、やりたい(好き)、欲しい人がいる(金になる)が重なる部分を事業化。
(2)皆が反対する事業や、皆が難しいと思う事業は有望。
(3)昇りのエレベーターに乗る。
(4)最も重要なことは「行動する事」で、デジタルでネットワークを広げ、アナログで深めていく。
4.Web技術の活用
(1)Web中心の事業を行なうか、事業にWebを利用するか、この二つの活用方法がある。
(2)比較的ロジックが通用する、比較的低コスト、隙間が多い(歴史が浅く、発展途上)ため、技術者には合っている。
(3)投資額が小さく、設備・資産の転用が可能、また、グローバル展開が容易である。
【主なQ&A】
Q1.スタートアップでは失敗することが多いが、出口のタイミングをどう考えるべきか?
→「風が吹く」(運が向く)のを捕えることが重要で、普段から、風を捕えるための準備が必要である。 借入ではなく投資を受けるのなら、失敗した時に借金を背負うことは無い。
Q2.異文化の人と仕事することについて
→文化が違えば考えることも違うが、自分が真摯にやれば応えてくる等、通じるものがある。
Q3.SDGsについて
→顧客に信頼を付加するものと考えており、“モノづくりドットコム”では、既存事業である技術情報の発信を中心として、新たにSDGs実践企業の紹介を加えた。SDGsのためにSDGsを行うのは危険であり、事業発展につながるSDGsを狙うべき。
Q4.技術士養成に関して
→技術教育の向上を目的としてJABEEがプログラムを認定しているが、授業内容に自信があれば認定は不要であり、普及は進んでいない。
【所感】
起業の目的は、お金、社会的立場、社会貢献等だが、基本は「幸せになる事」であるとの 説明に納得した。
また稲盛和夫氏の成功の方程式「結果=能力(10~30/100)×熱意(0~100/100)×考え方(-50~90/100)」が紹介され、考え方の部分でどちらにでも転ぶことを痛感した。
事業活動は①自分の幸せを定義、②幸せ実現の計画づくり、③計画実行、④ある程度実現出来たら、周囲の幸せのために活動、⑤世の中の幸せのための活動とステップを踏み、世の中に貢献するべきだと強く認識することができ、大変有意義であった。
熊坂先生のこれからのご活躍を祈念致しております。 どうも有り難うございました。
【報告:碇 貴臣】