第228回セミナー報告「骨はホルモンを分泌して健康長寿に役立つ
~若返り物質『オステオカルシン』の働き~」2022年1月
2022年 01月 27日科学技術者フォーラム2022年1月度(第228回)セミナー報告
骨はホルモンを分泌して健康長寿に役立つ
~若返り物質「オステオカルシン」の働き~
日 時:2022年1月15日(土)14:00~16:45
開 催:ZOOMオンライン
参加者:34名
講演者:福岡歯科大客員教授 九州大学名誉教授 歯学博士 平田 雅人 氏
<講演要旨>
本セミナー前半では、①生命の最小単位の細胞から構成される組織、器官や器官系の間を取り持つ神経系などの人体の仕組み、②内分泌(ホルモン)系の種類や特徴、各種ホルモン、③陸上脊椎動物の骨の役割(カルシウムの貯蔵、体を支える、重要臓器の保護、運動を司る、空洞に造血細胞を宿す)、④骨は常に作り替えられている(代謝回転)、⑤骨はオステオカルシン(OC)をつくり血液内に放出している(骨は内分泌器官)などについての概説、後半はOCの働きについて詳しい説明があった。
1.OCは、骨成分の0.4%を占める、ヒトでは49個のアミノ酸で構成されるペプチドホルモン(分子量約5,900)である。分子内の3ヶ所のグルタミン酸がビタミンK依存性酵素の作用でγ-カルボキシルグルタミン酸に変換され、Ca(ヒドロキシアパタイト)と強固に結合する。
2.OCは、骨芽細胞により生成され、血液中に入ってホルモン作用を発揮し、いろいろな臓器の働きを活性化させる。
3.OCは、膵臓に作用し、インスリンの分泌を促進させ、血糖値を下げる。また、消化管にも作用してインクレチンの分泌を亢進させ、これがインスリンの分泌を促す。血糖値は食事時にインスリンが放出され、健常者では最大129mg/dl程度にまでに抑えられている(空腹時100mg/dl)。インスリンの働きが悪くなると糖尿病となる。尚、空腹時はグリコーゲンの分解や糖新生(グルカゴン、アドレナリン、糖質コルチコイド)により血糖値が維持される。血糖値が下がる前に飲食するとインスリンの放出が続き膵臓が疲弊、肝臓に脂肪が蓄積する。OCをマウスに12週間投与したところ、インスリンを多く分泌するようになった。
4.OCは、脂肪に作用し、正常脂肪細胞の肥大化を抑え、アディポネクチンの正常な分泌を促す。脂肪細胞は肥大化することにより血管の炎症、血液凝固の促進(血栓)、インスリンの効きを悪くする(糖尿病、肥満)が起こる。OCは、脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌を促し、AMPK(糖新生抑制、コレステロール合成低下、脂肪分解促進)の活性化、PPARα(脂肪分解促進、脱共役タンパク質亢進、酸化ストレス軽減、炎症サイトカイン低下)の活性化を行う。また胎児期に妊婦の栄養状態が悪いと、その子供が高齢化した時に肥満になる(生活習慣病胎児起源説、ダッチ・ハンガー・ウインター)との報告がある。出産時に平均的な体重でない場合、生活習慣病になる可能性が高くなる。一方、高脂肪食の妊娠マウスから生まれた仔マウスは脂肪肝になりやすい。マウス妊娠中(20日間)にOCを投与すると、仔マウスの脂肪細胞は小さく、脂肪肝の程度も低い。
5. OCは、脳機能に作用し、アドレナリン、セロトニン、ドーパミンを増やし、GABAを減らす。胎児のニューロンの形成・維持にOCは関与し、結果として、マウスは活動的になり、不安軽減、抑うつ状態の改善、空間学習記憶が増強する。また、有髄神経の髄鞘の形をコントロールしている。
6.OCは、筋肉に作用し、運動能力を高める。
7.OCは、消化管ホルモンであるインクレチンの分泌を亢進させ、インスリン分泌をはじめとする多彩な作用をもたらしている。
8.骨に機械的な刺激を与える事で、骨細胞からスクレロスチン(骨形成抑制因子)の分泌が抑制され、骨芽細胞が活性化し、OC産生量が増加する。また、破骨細胞も活性化するので、骨の新陳代謝も亢進するので、血中のOCが増加する。かかと落とし(かかとに刺激を与える)ことにより、OCの増加が期待できる。
9. OCを増やすためには、ポリフェノールやβ-クリプトキサンチンなどを多く含む食品やサプリメントの摂取も有効である。
<主な質疑応答>
Q1. 無重力ではOCは分泌し難いか?
A:一過的にはちょっと上がって、その後は分泌し難くなる。
Q2. OCは経口摂取で血中に入っていくということで良いか?
A:消化器を通ることで、OCは、ほとんどが断片ペプチドに分解される。1%ぐらいは小腸に残ってインクレチンを分泌させ、インスリンの分泌を高める。尚、最近の中国の文献報告で、OCは断片状のペプチドになってもOCの作用があるとの報告がなされた。
Q3.OCは1型糖尿病にも期待できるか?
A:β細胞(インスリンの分泌を行う)の増殖を促すので、期待できる。
Q4.脂肪肝の人にOCは効果があるか?
A: 脂肪肝の分解には効果がある。しかし、ブドウ糖がアセチルCoAになり、最終的には脂肪になる。これを防ぐには過剰な炭水化物摂取を止めることが重要。
Q5.炭水化物をほとんど摂らない人がいるがどうか?
A: ローカーボンの場合は、脂肪分解によるATP生成を行うため問題は無いが、ノーカーボンの場合は、脂肪や蛋白質が分解され、その結果としてケトン体が作られる。
Q6.OCの機能について「アエラ」での記事があったが?
A:OCは色々な機能を持つが、若返りのホルモンでもある。アエラでは「骨ホルモンで若返りを図ろう」との記事であった。
Q7.資料では骨密度の低下の性差があると示されているが?
A:男性では加齢に伴い徐々に骨密度が減少するのに対し、女性では閉経後に急激に骨密度が減少する。性差がある。
Q8.ウオーキングは骨に刺激が少ないから、OCが生成されないのでは?
A: 少しでも刺激があれば、OCは生成される(散歩でも良い)。
(所見)
骨は脊椎動物が海より陸に上がった時に、重力に対抗するため、カルシウムの貯蔵、造血等以外に体の調節をしているは最近のNHKの番組で知りました。今回、骨がオステオカルシンのようなホルモンを放出することで体の調節をしている等、その詳細を理解することができ、この分野を理解するために非常に有意義なセミナーでした。
【報告】碇 貴臣