第227回セミナー報告「汚染水海洋放出とデブリ取り出し及び空冷化の意味と原発事故再考~小型モジュール炉の特徴と再稼働問題~」2021年12月
2021年 12月 17日科学技術者フォーラム2021年12月度(第227回)セミナー報告
汚染水海洋放出とデブリ取り出し及び空冷化の意味と原発事故再考
~小型モジュール炉の特徴と再稼働問題~
日 時:2021年12月4日(土)14:00~17:00
開 催:会場(品川区立総合区民会館・きゅりあん)+ZOOMオンライン
参加者:32名
講演者:元東芝 原子炉格納容器設計者・原子力市民委員会委員 博士(工学) 後藤 政志 氏
<講演要旨>
1.本年3月に原子力規制委が「福島事故調査の中間とりまとめ」を発表したが、福島第一原発事故はまだ終わってなく、また事故原因の究明はまだ半ばである。
2.危険なデブリの取り出しは非常に難しく、また一方でデブリの空冷化は可能である。
3.トリチウム汚染水は、大型タンクによる長期保管かモルタル固化による永久処分が技術的に可能であり、海洋投棄の必要性はない。
4.原子炉建屋を鉄筋コンクリート製の外構シールドで覆い、内部を負圧に管理する、あるいは格納容器内を不活性にする等の方法で長期に安全な遮蔽管理を実現できる。また原子炉建屋への地下水の流入も遮断可能である。
5.水素爆発発生の問題点
(1)原子炉格納容器には接合部や貫通部が多く存在し、その密封部分は高温高圧条件で漏洩の可能性がある。また水素の漏洩経路が多数考えられる。
(2)耐圧強化ベント系および非常用ガス処理系の配管・弁の接続、弁の作用に関する設計内容が疑問である。特に弁のフェールセーフ設計の考え方を明確にする必要がある。
(3)格納容器の圧力逃し装置(フィルターベント)で、発生水素に対し窒素を送り込んで空気を出す構造になっているが、複雑であり事故時に使用できるか疑問である。
6.過酷事故関連
(1)事故は外部事象(地震等)、内部事象(機器の故障等)、人為的ミスが重なって生じ、各要因が的確に把握されるならば起こらない。現実にはすべて予測不可である。
(2)圧力容器や格納容器の損傷、核反応制御の失敗、炉心損傷のような過酷事故の場合には多重防護が成立しないと制御不能になる。最悪の事態を想定すべきである。
7.原発事業者は最悪の事故の状況について全潜在的被害者に説明する義務がある。原発の安全性を判断するのは全潜在的被害者である。
8.将来炉
(1)高温ガス炉:減速材(黒鉛)と冷却材(ヘリウムガス等)を使用するが、高温用材料および構造に関する技術が重要となる。
(2)高速中性子炉:中性子を高速のまま核反応させるが、核反応制御が難しい。
(3)小型モジュール炉(容量300MWe以下):経済性がなく、安全性は絶対ではない。
9.原発の運転でCO2を排出しないということは、日常的な放射能汚染と核のゴミの無期限な管理および大規模な原子力事故の危険性のデメリットを帳消しできるものではない。
<質疑応答>
Q1.津波に対する予備電源の確保、また他原発からの電源供給等の対策が何故取られなかったか? → 津波の最大高さを十分に想定せず、またデザインレビューが不十分であった。
Q2.再生可能エネルギーに対する日本の技術状況? → 特に期待できる洋上風力発電では、機械本体および架台ともに海外に比べ技術的に遅れている。日本は原発関連が優先しているために、投資金額が少な過ぎる。
Q3.トリチウムを含む処理水の海上放出がなぜ許されるか? → 他の運転されている原発では日常的に排出されているために、表面化すると大問題になる。安全であることを懸命に宣伝している。
Q4.スリーマイル島の事故現場では、汚染水は蒸気にして空中放出しているが、その方法はいかがか? → 直接放出は問題で、急がずに、長期保存で減衰することを待つのが良い。
Q5.デブリの空冷化による汚染空気の排出に問題ないか、また何故空冷化は実現されないか? → 汚染空気は浄化後に排出、また実現には諸状況を考えるために、議論の要あり。
<所感>
原発は日本の重要な電源として電力供給を担っていくということが政府の方針である。そうした状況で原発の安全性についての正しい情報、知識を得ることは我々にとって大切なことである。その意味で今回のご講演は大変有意義なものでした。ご講演中に言われた「原発の安全性を判断するのは全潜在的被害者である」ことをしっかり認識し、決して政府の勝手な都合で原発が推進されることが無いようにするべきであると思います。
【報告】木村芳一