第220回セミナー報告「宇宙システムに関わる技術研究開発」2021年5月度
2021年 05月 30日2021 年5月度(第 220 回)STFセミナー報告
「宇宙システム開発に関わる技術開発研究~CANSATプロジェクトや超小型無人航空機の開発~」
日 時: 2021 年5月 15 日(土)14:00~17:00
会 場: ZOOM オンライン
参加者: 27 名
講演者: 日本文理大学 工学部 航空宇宙学科 教授 岡崎 覚万 氏
【講演概要】
1.工学プロジェクトの一例(CANSAT プロジェクト):
・CANSAT とは、空き缶(CAN)サイズの人工衛星(SATellite)のこと。
・人工衛星開発のハードルを下げて大学生レベルでも取り組めるようにした教育プログラム。
・国内外の多くの地域で CANSAT 競技会が開催されている(種子島宇宙センター、秋田県能
代、米国 ネバダ州など)
・ 現在の競技会の主流は、
- サイズ:2 リットルのペットボトル程度(直径 15cm×高さ 24cm)
- 質量:約 1kg - 打上げ高度:100m~数 km
- 評価項目:打上げ後にパラシュート降下して自律作動で目標地点にいかに近づくかで評価
・ 目標地点に近づく方法として、飛行降下中に自律操縦するフライバック(Fly Back)方式と
パラシュートで着地してから自律走行するランバック(Run Back)方式がある。
・ 日本文理大学(NBU)チームは 2012 年から参加している。2014年にランバック部門で
1位を獲得した後、複数回の優勝を記録している。
・ このテーマを NBU の大学教育の中でのプロジェクト活動として開発への取り組みを体験
させることで学生の「人間力」を育成する(人間力の育成は、NBU の教育理念の一つ)。
・ 岡崎教授は「人間力」は経産省が提唱する「社会人基礎力」(三つの能力と 12 の能力
要素)に近いものと考えている。
(経産省 HP: https://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/index.html)
・ プロジェクト活動を通しての教育では、通常の企業で言うプロジェクトの要素(人、モノ、
金、組織、納 期、品質など)を体験することに加えて、学生のメンタル面に配慮した
指導が重要となる。
・ 地方の私立大学である NBU は学生の学力レベルが非常に幅広いので、個々の学生に応じた
丁寧な教 育・指導が必要となる。
・ リーダーに対するリーダシップの修得は当然であるが、メンバーシップ(メンバーとしての
役割を担う)の重要 性と達成感を体験(成功体験)させることも必要となる。
・ プロジェクト教育の最も重要なキーワードは「決してあきらめない」ことである。
2.トンボロボットの開発
・ 前任の小幡章名誉教授はトンボの翅が低レイノルズ数領域において大きな揚抗比を発生
させるメカニズムを解明し、その原理から着想を得た生物模倣の「コルゲート翼型」の
開発研究に取り組んできた。
・ 岡崎教授の研究室ではコルゲート翼型の低レイノルズ数(遅い飛行速度、小さな寸法)
において極めて優れた特性を発揮することを応用したトンボロボットを開発中である。
・ 生物模倣は生物を単に真似る(コピーする)ことではなく、工学的に必要となるエッ
センスのみを取り出して利用していくものと考えている。
・ トンボロボットは小さく(試作機翼幅 280mm)、軽い(試作機重量 30~40g)飛行体
であり、飛行速度範囲が低速域(約 2m/s)から高速域(約 10m/s)まで広く取れるこ
とを目指している。
・ これを実現することで、例えば基地局から災害現場まで高速飛行で到達し、災害現場
では低速飛行で 被害情報を収集するなどの有用な用途を見込んでいる。
・ 但し、現在の開発チームだけでは超小型の通信及び自動制御装置を開発することは困難
であり、目的を 達成するためには、それらの専門技術を有する企業などとの連携が必須
である。
・ また、コルゲート翼型の特性を利用した、低風速でも発電でき、強風時にも壊れない
小型風力発電装置 の開発が進められていることも紹介された。
<主な質疑応答>
Q1 CANSAT 競技にはフライバックとランバックの2種があるということか?フライバック
では風などの影響も含めて パラフォイルの制御が大変と推察されるが、、、
A1 フライバックとランバックで部門を分けている競技会もある。
パラフォイルはパラグライダーに使われるものと同じで操縦可能だが、ランバックとは
レベルの違う困難さがある。
Q2 トンボの翅の上下面の圧力分布(揚力)の発生状況はどのようになっているか?
A2 上下面の圧力分布を計測した実績はないが、実験水槽でのトンボ翼周りの流れの可視
化実験で、翼のく ぼみ部分に発生する定常渦の外側を流れる流線が通常の航空機の
翼周辺の流線と類似しているので、 揚力を発生していると思われる。
Q3 トンボロボットは探索時、ホバリングはできるのか?
A3 トンボロボットではホバリングは不可能。昆虫のトンボはそれを羽ばたきで実現して
いる。大迎え角での低速 飛行は航空機ではいわゆるバックサイド飛行であり、
トンボロボットでは十分に詳細には解明できていない。
Q4 コルゲート翼利用のマイクロ・エコ風車の開発状況は如何に?
A4 マイクロ・エコ風車は前任の名誉教授から別の研究者に引き継がれているため、
詳細を把握していない。
Q5 トンボロボットの性能について、マルチコプターと比較してどうか?
A5 マルチコプターに比較して、効率(燃費)は良好だが、飛行制御装置との親和性に
劣る。また、上にそる 前翼と下にそる後翼を備えているので横風への安定性がある。
【報告者】 佐藤 敏夫
http://stf.or.jp/top/images/music/m362.pdf