第219回 セミナー報告「第四紀の気候変動から見た、現在の気候変動 」2021年2月
2021年 02月 26日2021 年 2 月度(第 219 回)STFセミナー報告
「第四紀の気候変動から見た、現在の気候変動」
日時:2021 年 2 月 20 日(土) 14:00~17:00
開催方法:ZOOM によるオンライン(WEB)配信
参加者:28 名
講演者:元産業技術総合研究所 地質調査総合センター
理学博士 玉生 志郎 氏
<講演要旨>
1.気候変動の実態と原因
1)第四紀のチバニアン(77.3~12.6 万年前)では氷期と間氷期が繰り返され、それとともに CO2 の濃度変化が生じていたが、最近の CO2濃度は異常に上昇し、地球が温暖化している。特に北極での気温上昇が激しい。
2)気候変動の要因は自然(大気・海洋の変動、火山噴火・太陽活動の変化)および人為的なもの(温室効果気体・エアロゾルの増加、森林破壊)である。
3)IPCC は、気候システムの温暖化は疑う余地がなく、その支配的要因は人間による影響であると表明している。
2.気候変動問題の対策
1)パリ協定(2015 年 COP21)により産業革命前からの平均気温の上昇を 2℃より十分に下方にすることが目標とされた。IPCC は 2018 年に 1.5℃特別報告書を提出している。
2)その他の対策:啓蒙活動(アル・ゴア、グレタ・トウーンベリ)、SDGs(持続可能な開発目標)の設定、環境省による気候変動適用法案の制定、内閣府の Society5.0(IoT、AI、ロボット等を利用する社会)と経団連の対応(Society5.0 に関する企業の変革に向けたアクションプランの推進)、省エネ住宅とエネルギー効率の改善の提案
3.地層と気候変動
1)チバニアンにおける千葉セクションでは更新世の前期と中期の境界(約 77 万年前)での磁場逆転の痕跡がある。またシベリア高気圧の発達状態によって黒潮と親潮の流れが異なり、気温に変化が生じた。
2)関東平野の古地理では、温暖化による海面上昇と寒冷化による海面低下によって発生した、約 50 万年前の古東京湾、約 13 万年前の下末吉海進、約 2 万年前の最終氷期、約 6千年前の縄文海進が認められる。
3)筑波山地域において、12 万年前の下末吉海進時代の木下層では温暖な海の貝の化石が出土し、その上の 2 万年前の粘土・砂礫層では氷期のナウマン象の化石が見つかり、さらにその上の 6 千年前の縄文海進時代の表土では土偶が出土している。
4.講演者の見解
i)気候モデルとシミュレーション精度の向上、
ii)温暖化対策の強力な推進、
iii)気候変動に対するグローバルな現象と地域毎の変動の差異の区別、
iv)化石燃料と原子力からの脱却、再エネ増大への挑戦、
v)食料・エネルギーの地産地消、vi)循環型生活スタイルへの移行
<質疑応答>
1)大昔の CO2 濃度変化および気温変化のデータの取得方法
→氷床コアに閉じ込められている空気と氷との成分を調べる。
2)人新世はいつから?
→農耕の開始時期、産業革命時期、核実験開始時期、1960 年以降などが議論されているが、筆者は気温上昇が顕著となった 1960 年以降が良いと思う。
3)氷期と間氷期が発生する原因、また現在の間氷期はいつまで?
→原因は地球の軌道要素の変化による日射量の変動、現在の間氷期の終わりは 3 万年以上先と予想されている。
4)地磁気逆転の理由
→明確な理由はわかっていないが、ダイナモ理論によるコンピュータシミュレーションで一部再現できる。
5)千葉セクションでの磁場逆転の検証方法
→地層内における岩石のテストピースを採取し、その中の磁鉄鉱の磁化方位を測定する。
<所感>
地球温暖化の深刻さを改めて痛感しました。諸対策の実施の加速が要求されますが、最後に紹介された斎藤幸平氏が主張する、人新世において経済成長が続く限りこの問題の解決はなく、「脱成長コミュニズムが世界を救う」という考えは今後に注目しなければいけない(部分的にはすでに実施されている)、一つの方向を示していると思います。
(報告:木村芳一)