第217回セミナー報告「核融合研究の最前線」2020年12月
2020年 12月 28日R2年12月度(第217回)セミナー報告 2020.12.19水越
1.日時 :2020年12月13日(日) 14:00~16:40
2.場所 :品川区立総合区民会館「きゅりあん」 4F第1特別講習室
3.参加者:38名(web参加28名)
4.題目 :「核融合研究の最前線」
5.講演者:東京大学名誉教授 大学共同利用機関法人自然科学研究機構監事 小川 雄一氏 (WEB接続)
<講演要旨>
1. 大学共同利用機関法人:
・大学共同利用機関法人は、自然科学研究機構、情報システム研究機構、人間文化研究機構、高エネルギー加速器研究機構の4つから成り立つ。その中の自然科学研究機構は、国立天文台、核融合科学研究所、基礎生物学研究所、生理学研究所、分子科学研究所の5つの研究所からなっている。
2. プラズマ・核融合エネルギー:
・太陽のエネルギーは核融合で、H原子核4個が融合してHe原子核が出来る。この時の質量欠損約0.03gが運動エネルギーとなる。もし質量の0.5%が質量欠損した場合、運動エネルギーは1/2mV2であるので、核融合後の物質の速度Vは光速の1/10となるので、膨大なエネルギーとなる。地上で核融合反応を起こすためには、重水素Dと三重水素Tを核融合させて、Heと中性子を生成するが、この時の質量欠損は、0.02gで同様にHeと中性子の運動エネルギーとなる。
・核融合反応で出来る最も安定な元素は鉄である。重い元素は、超新星爆発や中性子星の合体で生まれると考えられている。2017年に重力波が観察されたとき、観測された光から、Au、Ptなどの元素の存在が確認されている。ブラックホールの合体では光のような電磁波もブラックホールに吸収されてしまい、重力波しか放出されないので、元素などに関する情報は観察できない。
・物体は、熱により、固体、液体、気体、プラズマの4つの状態となる。太陽は、凝縮されたプラズマである。オーロラは、太陽からのプラズマ粒子(太陽風)により発生している。
・地上での核融合は、磁力線でプラズマを閉じ込める。核融合炉条件を満たす高温のプラズマは1億度以上が必要である。今までの最高温度は、日本のトカマク型の5.2億度である。
・核融合には、自己点火(ローソン)条件がある。木星は、水素を圧縮して密度は十分であるが、温度は、100万度程度で、核融合反応をおこすための1600万度には足りない。
・核融合関係者は昔、2000年頃に核融合炉は出来ると豪語していたが、核融合炉条件を満たす高性能な高温・高密度のプラズマ閉じ込めが予想以上に難しかった。
3. 核融合炉開発の現状:
・ITERはJT-60Uの約10倍の体積なので、約10倍の値段である。
・1985年に米ソ共同で、人類のためになる難しいことを一緒にやろうということになって、欧州と日本にも呼びかけ、核融合分野での共同プロジェクトITER計画をやることが決まった。ドイツ・ガルヒンに、世界から約80人の科学者が集まった。米国は途中離脱したが、キーテクノロジーを米国が有している訳ではないので、米国抜きで継続したら、途中でまた米国は復帰した。中国、韓国、インドもITER計画に参画してきた。
・ITER協定は、2008年フランスで結ばれ、フランスに置かれることになった。初代所長は日本人であった。ITERで、日本企業が分担するものは多い。日本分担は、9.09%である。
4. 核融合エネルギーの特徴:
・核分裂エネルギーは、0.7%しかないU235と、U238から派生するPu239の中性子の連鎖反応によって得られるが、高レベルの放射性廃棄物や揮発性放射性物質であるCs137やI131を生じる。福島の原発事故では、臨界になることはなかった。唯一、臨界になった事故は、東海村のJCOであった。
・核融合炉ではトリチウムが揮発性放射性物質である。また廃炉後は低レベルの放射性廃棄物しか出ない。核融合炉の条件を満たすためには、1億度のプラズマを閉じ込めることが必要である。
・数年前に米国で、太陽を作った少年という話が有ったが、これは30kVくらいの電圧でイオンを加速させ核融合反応を起こさせたものである。またザフォードが王立教会で行ったデモンストレーション実験のように、固体重水素に数十kVのエネルギーで重水素イオンを打ち込むことで、簡単に核融合が出来て、中性子が出る。このような核融合反応での中性子源は、既に地雷探査や石油探査に使われている。エネルギー利得を考えなければ、比較的簡単に起こせる反応である。
・核融合炉の原理実証のためには、100万KW級の装置が必要。ITERは、50万KWである。
・核融合炉による発電は、ブランケットと呼ぶ容器から、熱水を作ってタービンを回して作る。電気の替わりに水素製造に供することもあるかも知れない。
・原子炉の安全は、止める、冷やす、閉じ込めるが原則であるが、核融合は暴走せずに自動的に止まる。核融合の燃料サイクルは、プラントの中で閉じている。
・核融合の燃料は、重水素Dと三重水素Tで、重水素は海から無尽蔵に取れる。三重水素は、核融合反応で発生した中性子がブランケット内に装填されたリチウムと反応して生成される。原子炉のような暴走は無く、放射性物質は、原子炉の1/1000である。また、高レベルの放射性廃棄物も無く、CO2も排出しない。
5. 核融合炉開発の意義
・日本ではプラズマ実験装置であるJT-60SAを茨城県那珂市に作っている。日本とEUの共同作業である。日本に作ることが重要である。この装置の後に原型炉を作ることになる。
・エネルギーシステムの導入を見ると、木材、石炭、石油、天然ガス、原子力と100年掛けて次に移っている。人類のエネルギー源開発は1000年のオーダーで評価しなくてはならない。アメリカンドリームのような短期的成功を目指す米国的な発想ではダメで、ガウディのサグラダファミリア的なヨーロッパ文化的な発想が必要。
・商用核融合炉は、2050年頃始まると期待している。他のエネルギーとして、風力、太陽光は増加し、原子力は徐々に減らして行く方がよい。
・核融合炉の工学的課題として、ダイバーターへの熱の集中がある。
・核融合エネルギーは100年掛けて開発し、1万年以上にわたって人類に貢献するだろう。
6. Q&A抜粋
Q1. ITERのような国際協力プロジェクトでの日本の立ち位置は? プロジェクトの難しさは?
・コアの技術は日本、EUが持っており、当初から計画設立国である。所長は2代に亘って日本人で、現在はEUである。7か国協同プロジェクト故、種々の難しさはあるが、目的は「平和的目的のための核融合エネルギーの科学的・技術的な実現性のデモンストレーション」 と言う事で協力している。言語は英語で行う。
Q2.中国の核融合実験炉はレーザー方式と聞いているが実態は?
・レーザー方式はアメリカが進んでいるが、上手く行っていない。色々な意味でITERが最も進んでいる。中国は若手の人達が頑張っているので侮れない。
Q3.低温(常温)核融合の可能性は? 新聞に話題になった学生の実験との関係は?
・常温核融合を今でも細々と追及している人達はいるようだが、再現性や信ぴょう性などに問題があり科学的な議論が出来るレベルではない。低温又は常温核融合炉は理論上考えられない。
Q4.ITERを稼働する電力は?
・フランスのサイトの一般工業用電力を使う。
Q5.核分裂と比べた時の廃棄物コストは?
・放射性廃棄物はコストの問題より、いつまで管理しなければならないか、という点が課題である。数万年以上にわたり管理しなければならない高レベル放射性廃棄物が無い点は、核融合が優位であると言える。「核エネルギー」を受け入れるかどうかは「個人の判断」、推進するかどうかは「国民(人類)の総意」である。
Q6.発送電は?
・ITERは核融合炉心プラズマを達成するのが目的であり、発電する予定はない。核融合炉で発生したエネルギー源を、従来の熱タービン発電・送電が考えられるが、熱源として利用し水素を作る事も候補となる。
Q7.日本にJT-60SAを作る理由は、ITERに問題があったからではないか。
・ITERは大きくて保守的設計になっている。ITER後の原型炉や商用炉を目指した研究開発として、もう一つチャレンジングな実験ができる小型の核融合炉が必要である。