第200回セミナー報告「ドーピングとアンチドーピング」2019年2月
2019年 02月 22日科学技術者フォーラムH31年2月度(第200回)セミナー報告
「ドーピングとアンチ・ドーピング」
1. 日 時:2018年2月16日(土)14:00 〜16:50
2. 場 所:品川区立総合区民会館「きゅりあん」5F 第2講習室
3. 参加者:34名
4.題 目:「ドーピングとアンチドーピング」
5.講演者:東京理科大学薬学部・元教授
日本薬剤師会 アンチ・ドーピング委員会・委員長
日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の学術委員会・委員
東京都薬剤師会・相談役(元副会長)
東京薬科大学・理事
原 博 氏
<講演要旨>
2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、スポーツに関する国民の関心が一段と高まっています。
スポーツ競技においては成績を向上させるための薬物等の使用は固く禁じられていますが、競技前に風邪薬や飲食物など禁止物質が含まれていることを気づかすに摂取したため、「ドーピング違反」として制裁を科せられる選手が少なくありません。また、ライバル選手を陥れるために、飲み物に禁止物質を意図的に混入させたとの報道もありました。
今回のセミナーは、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の学術委員会・委員である原 博 先生を講師にお迎えして、ドーピングとアンチ・ドーピングに関する歴史やその実態、禁止の理由、禁止物質、検査法、国際機関や我が国の規制の動向、および2020年へ向けてのオリンピックムーブメントなどについて、わかりやすくお話しいただきました。
1)ドーピングとは
アフリカ南部の原住民の言葉を起源とし、興奮させる飲み物から、薬物使用の意味となり、現在ではスポーツ選手の競技能力を高める目的で不正に薬物を接収することを言う。
2)ドーピングの禁止理由
?選手自身の健康を害する
?不誠実(スポーツマンシップに反応)
?社会悪
?スポーツ固有の価値を損ねる
3)日本におけるドーピング
WADA(世界アンチドーピング機構)が毎年1/1に禁止表を公開、これに則って規制される。この中で、S1蛋白同化薬、S5利尿薬、隠ぺい薬、S6興奮薬、S9糖質コルチコイドは使用頻度が高い。陽性率の第一位はS1蛋白同化薬(ステロイド)である。
2001年JADA創設以来種々の競技会(国体、駅伝、マラソン他)でドーピング検査が導入されたが、違反は0.2%以下と低い。
スポーツ庁はH31.1.11鉄剤の静脈注射に関し、安易にすべきではないと意見。
4)治療処置
アスリートがけがをしたり、病気になった時および持病の治療のためにどうしても禁止薬を使用する場合は治療使用特例(TUE)がある。これには必要な申請書類を提出し、認められなければならない。
5)うっかりドーピング
意図的でなく、ドーピング違反をしているケースがある。市販の風邪薬を服用した場合とか監視物質がその年の1/1付で禁止物質となっていたり、個人輸入したサプリメントなどに禁止物質が入っていたケースもある。たとえ、うっかりであっても禁止物質が検出されると、制裁は軽くなることもあるが、まぬがれることはない。
6)ドーピング異議申し立て
検査で陽性が出て制裁が提示された場合、JSAA(日本スポーツ仲裁機構)またはCAS(スポーツ仲裁裁判所、国際水準アスリートが対象)に異議を申し立てることができる。
7)ドーピング陽性が多い競技:陸上>ウェイトリフティング>自転車
国:イタリア>フランス>アメリカ(2016年WADA報告書)
8)注意!注意!注意!
多くの風邪薬、南天のど飴(ヒゲナミン)、浅田飴(エフェドリン)、アレルギー性鼻炎対処薬(副腎皮質ホルモン)、外用発毛剤(ステロイド)、漢方薬(葛根湯、小青竜湯など)、サプリメント、健康食品などは注意が必要。禁止物質の含有が分からない場合は、薬剤師に相談、安易に自己判断は禁物。
9)スポーツファーマシスト認定制度:日本薬剤師会とJADAが協調して創設。世界に類がない制度である。
10)アンチドーピング体制の構築
2020オリパラに向けて、「スポーツにおけるドーピングの防止活動の推進に関する法律」が可決、H30年10/1施行。
ドーピング防止のための教育、啓発活動。無知、うっかり、教育啓蒙活動を子供教育から実施する。こどもを薬害から守る。
小中学での薬物乱用防止活動の中にドーピングに関する話も加える。高校指導要領にはドーピングに関する項目が含まれている。大学教育の中でドーピング防止教育が導入され、薬剤師国家試験にも出題されている。
質疑応答)
1.もともと体内にある物質とドーピングにより入ってきたものとの区別は?(内因性、外因性物質の区別)
→同位体を調べればわかる。(蛋白同化ステロイドなど)
2.毎年ドーピングリストが変わる。どの薬物がリスト指定になる?
→ドラフト案を出して検討する。
3.ドーピング試験の際、尿、血液検査は相当量となる。コストは(¥/人)?
→わからない。オリンピックでは検査のために多くの人材の確保は必要
4.尿は2個取る。そのタイミングは?
→1回に2個ずつ取る(同じもの)。ひとつの検体で陽性が出た場合は、残りのひとつで再検査をする。
5.分析レベルは?
→主にGC-MS,LC-MSを用いる。検出機器の進歩により、それまでに検出できなかったものも再検査で検出できるようになる。
6.食べる物はどうする?(なにが含まれるか分からない、カレー、グローブ・・)
→接種量の問題となる
7.食品の中にも禁止物質が含まれることがあるか。
→過去に、豚の成長促進に使われた禁止物質がその豚を食べたアスリートから検出されたことがあった。
8.ドーピングの定義(スポーツの定義も含まれる。)を考え直さねばならないのではないか?
→考え方により変わってくる。線引きの議論は必要。
9.過去に使用したステロイド等の禁止物質によって体質・体型が変わってる?
→かつての東独の選手の健康被害の問題が、あちこちで紹介されている。
10.自然のエッセンシャルオイルは?
→禁止物質が入っているものがある。
11.スポーツファーマシストのメリットは?
→基本的にボランティアである。彼等が働く薬局のステータスにはなる。組織的に取り組んでいる会社もある。
12.なにをたべればよい?
→サプリメントには十分注意して、食事で身体づくりをしてほしい。厳密にドーピングをそこまで考えなければならない選手になれば一流選手になった証だという自負を持ってほしい。
13.受験勉強にもドーピングが拡大?
→昔は覚醒剤を使って勉強した例がある。もしも頭が良くなる薬が出れば、受験界でもあり得る話だ
(報告者:佐熊 範和)