第198回セミナー報告「デジタル変革とスローなユビキタスライフ〜今を生きる〜」2018年12月
2019年 01月 01日科学技術者フォーラム平成30年12月度(第198回)セミナー報告
デジタル変革とスローなユビキタスライフ〜今を生きる〜
日 時:2018年12月22日(土)14:00〜16:50
場 所:品川区立総合区民会館「きゅりあん」5F第4講習室
参加者:33名
題 目:「デジタル変革とスローなユビキタスライフ〜今を生きる〜」
講演者:遠藤 隆也 氏〔M-SAKUネットワークス 代表、元NTTアドバンステクノロジ(株)技師長〕
遠藤先生は1968年に日本電信電話公社・武蔵野電気通信研究所へ入所、1987年に創設されたNTTヒューマンインタフェース研究所の立ち上げに関与し研究企画部長に就任、その後、同研究所ヒューマンインタフェース方式研究部長、マルチメディア処理研究部(創設・初代)部長、NTTアドバンステクノロジ(株)情報技術部長、同社HITセンタ(創設・初代)所長、技師長など、また学会活動において、電子情報学会にヒューマンコミュニケーショングループを創設(初代運営委員長)されたり、日本学術振興会・未来開拓学術研究推進事業「電子社会システム」の研究を推進されるなど、まさにデジタル変革・ユビキタス社会が急速に進展してきた時代の研究開発・技術開発の最前線でご活躍してこられました。2004年に長野の田舎にI-ターン、そこでの出会いや気づきなどから新しい自分を見いだし、現在はM-SAKUネットワークスの代表として、国プロジェクトや若者達と最新研究を推進するなど精力的に活動されています(詳細は、末尾の参考サイトをご覧ください)。
【講演要旨】
?.デジタル変革(トランスフォーメーション)、ユビキタス関連の発展の経緯と課題
1. 50年前の小さなパルスを手作りし遠くへ伝送する研究が、日本初の全国デジタルネットワークの伝送経路として実用化され、その後のデジタルサービス展開の契機となった。
2. ポスト電話のファクシミリのネットワークサービスの研究開発は、いつでも、どこでも、誰でも簡単に使える安価なミニファックスの提供など、データサービスとサービスプロトコルの融合体として提供され、現在のインターネット、クラウドの原型を体験することになった。
3. 上記の研究開発を通じて、大事なことは「技術と人間の関係」であると気づき、人と情報通信技術に関するオリジンの方々(アラン・ケイ、ダグラス・エンゲルバード、ドナルド・ノーマン、テリー・ウィノグラード、マービン・ミンスキー、トーマス・マローン、ビル・バクストン、ブノア・マンデルブロなど)とお逢いし、議論し、小さな気づき・学び・示唆を得た。そしてヒューマンインタフェース研究所を立ち上げ、社会科学などと融合したユビキタス社会の研究へと発展させた。さらに人間に関る新しい研究・学会活動を推進させることにより、見えている世界(表象)とインタフェース問題の基底が見えるようになり、研究開発活動が政策、組織、社会に及ぼす構造が見え始めた。
4. 上述の諸体験を通じて、研究開発活動が政策、組織、社会に及ぼす諸課題に対応していくことが大切であり、その気づきが、人文社会科学の専門家の方々と協力しながらの、ユビキタス社会の研究へと発展していった。
5. 人間(ユーザエクスペリエンス)、約束事(プロトコル)、共創の方法論(オブジェクト指向、API)、デバイスの進化、オープンイノベーションなどが、社会のパラダイムを急速に変化させている。急速に変化しているユビキタス社会とどのように共生していくか、「データ新時代のプラットフォーム戦略」が大きな課題である。
6. 「ソーシャル(S)」「モバイル(M)」「ビッグ・データアナリティクス(A)」「クラウド(C)」などの要素が新しいビジネスモデルを創出している。様々な「モノ」がセンサーと無線通信を介して繋がる「IoT」は、スマートシティ、スマート農業、スマートヘルスケアなどの基盤となっている。
?.I-ターン後の自然、農業、気候/気象との出逢いとスローなユビキタスライフ
1. 自然: I-ターン後、北八ヶ岳の白駒の池周辺に棲息する苔と出逢い、その貴重な苔の森を大切にる「北八ヶ岳苔の会」を立上げ・支援する小さな活動や気づきが全国に苔観察ブームを起こした。小さな苔の大切さに気づき、学びを深め、自分を深化させていく中で、苔は5億年前に陸地で最初に光合成を始めた植物であることを知り、小さな苔との出会いがそれまでの世界観・人生観を根本的に変えていった。苔の森の進化・エコロジーがユビキタス社会の今後の参考になる。
2. 農業:地元農家の方々との出会い・体験が、農水省の「農匠ナビ」研究プロジェクト(日本食農連携機構・研究部・主任研究員)、トマトの太陽光型植物工場の知識ベース化と収量予測のビッグデータ解析、新種イチゴの栽培方法の知識ベース化と収量予測、地域における食と農のIoTプラットフォーム構築、農業ロボットAI研究などへと深化した。
3. 気象:大気現象や農業データなどへの興味が、気象庁WXBC活動参画や気象衛星の画像データとアメダスの数値データを用いて霧の発生をAIで予測する「霧プロジェクト」につながった。
4. 健康:農民と共にというスローガンの長野県の長寿の源泉の1つである「八千穂村全村健康管理活動」や、農作業と健康などの研究にも参画し、EU-Japanプロジェクトへも発展しつつある。
5. 新しい自分との出逢い:ユビキタス技術を活用して自分の周りを観察し、小さな気づきを大切にし、自分を深めるメソドロジー(M-SAKUネットワークス)を開発し、人々の諸活動(Human activity)と情報生態(Information ecology)を総合デザイン(Ground Design)するHI総合デザイナーとして、多くの若い研究者たちと、今を生きる生活をおくっている。
【講演参考サイト】
・ M-SAKUネットワークス http://www.msakunet.biz/
・ HI総合デザイナー(Human activity & Information ecology Ground Designer)の活動例
https://sites.google.com/a/msakunet.biz/partner-experience/
・ スローなユビキタスライフの実践 http://www.msakunet.biz/ubiquitous-life/
・ 自然:北八ヶ岳苔の会 http://www.kitayatsu.net/
・ 農業:農業情報ネット http://www.nogyoinfo.net/
・ 健康:メディカル佐久情報ネット http://www.msakunet.info/yachiho50
(報告者:太田 哲夫)