第197回セミナー報告「ジオパークとチバニアン〜地域振興をめざして〜」2018年11月
2019年 11月 10日H30年11月度(第197回) セミナー報告
1.日時 :2018年11月10日(土) 14:00〜16:50
2.場所 :品川区立総合区民会館「きゅりあん」 6F大会議室
3.参加者:51名
4.題目 :「ジオパークとチバニアン〜地域振興をめざして〜」
5.講演者:天野一男 氏 茨城大学名誉教授、一般社団法人日本地質学会 理事・ジオパ
ーク支援委員長、茨城県北ジオパーク構想 顧問
<講演要旨>
1)大学は不自由であった
講師が東北大学に入った頃、地球の変動のパラダイムは、「地向斜論」であった。そこに「プレートテクトニクス」が登場し、パラダイムシフトが進行した。講師は、東大の上田先生の「新しい地球観(岩波新書)」を読んで、触発されること大であった。講師が大学の地学実習に参加した折、指導教官から、何をやりたいか質問され、「地球物理学と地質学に結び付ける研究をやりたい。」と言った。即座に指導教官から「帰れ!」と言われたとのことであった。当時の東北大は、他の多くの大学同様に、「地向斜論」を中心に研究がすすめられており、「プレートテクトニクス」は無視されていた。博士課程卒業後、茨城大学に職を見つけることができた。その頃 新妻静岡大教授に誘われ、プレートテクトニクスの試金石ともなる「南部フォッサマグナ」研究をおこない、「島弧多重衝突説」などを提唱した。
2)ジオパーク
ジオパークとは、「ジオ(地質・地形など)を主な見所とする「大地の公園」」のこと。目的は、科学的に貴重かつ美しい自然遺産を保全し、歴史・文化も含めて観光資源としても活用し、地域活性化と教育に資すること。ナスカ地上絵の発見者その人のレクチャーに参加する機会があり、「これだ!」と思った。海外のジオパークは2004年にユネスコ支援により世界ジオパークネットワーク(GGN)の設立によって促進され、2015年にユネスコ正式プログラムとなった。日本のジオパークネットワークは2009年に設立。世界ジオパークは38か国140ヵ所。元々ヨーロッパ発祥の公園文化を踏襲しており、森林浴・ウォーキング・自然観察といった活動が組み合わさった控え目な活動である。日本は44ヵ所あり、うち9ヵ所が世界ジオパークである。中国にも相当数あるが、公園内に様々な販売ビジネスが融合され、高額の入場料など、ヨーロッパのジオパークとは考え方が異なるようにみえる。
3)茨城県北ジオパーク
茨城県北は、財政赤字・産業不振・人口減少の課題を抱え、東日本大震災からの復興活動も進行中である。茨城大学は、地域連携に基づく発展・生き残りとグローバルな視野で地域振興に貢献する人材育成の役割を担う。県北は人口減、県南は人口増という「南北問題」を抱える。このような事情を踏まえ、茨城大学と県北自治体との連携のもとに、茨城県北ジオパークは平成23年に日本ジオパークに認定されたが、その後平成29年の継続審査で認定取り消しの憂き目に遭う。その理由として、大学中心の活動で自治体等との連携が不足しているという指摘を受けた。
ジオストーリーで、「我々はどこから来て、どこに行くのか」が語ることを目標としている。先ず、日本列島形成の3大イベントとして、1)ロディニア超大陸の分裂・合体、2)大陸プレートの縁への付加帯の成長、3)日本海の創成が説明される。それらを現地で味わう代表的なジオサイトは下記のようなものである。
・茨城大学宇宙科学センター:国立天文台パラボラアンテナを持つここがジオパークの開始点。日本のジオパークで唯一天文台を持つ。
・八溝山:茨城県最高峰で久慈川の源流、標高1022m。恐竜がいた2億数千万年前、中生代ジュラ紀のプレートの沈み込みによって大陸の縁に掃き寄せられた堆積物が固まってできた。この地層が日本列島の土台となっている。
・袋田の滝:日本三大名瀑。1500万年前の海底火山の隆起により生まれた。四季折々の風景の劇変-秋の紅葉、真冬の凍結瀑布の青氷など-が人気の源。
・五浦海岸:岡倉天心の建てた六角堂で有名。海面にそそり立つ炭酸塩ノジュールの岩々の景観が中国蘇州の太湖石に似ている。今から1700万年前に海底に沈殿した砂や泥の内、炭酸塩によって硬くなった部分が柱状に海面上に伸びているのが見もの。
・棚倉断層:竜神峡の入口から福島県棚倉町にかけて真っすぐに南北約60km続く大断層。日本が大陸から切断されて列島になった時に活発に活動した断層の一つで、見事な断層崖に沿って道路が続く。
・水戸・千波湖:千波湖は、日本三名園「偕楽園」の下に広がる海跡湖。12万年前の海進(下末吉海進)によって水戸の台地ができ、6000年前の縄文海進によって千波湖ができた。水戸の地下には600万年前の泥岩でできた水戸層という水を通さない岩盤層がある。このため水戸市は良質の地下水に恵まれる。水戸黄門が作った「笠原水道」という上水道はこの岩盤を活用した。水戸の銘酒「一品」は水戸の地下水で醸される。
4)チバニアン
過去200年掛けて世界の地質学者達が作り続けてきた大地の歴史を読むための年表があり、国際年代層序表と称する。46億年の地球の歴史が115に区分されている。国際地質科学連合(IUGS)は、それぞれの地質時代の境界を地球上で最もよく示す地層の中の1点を一つだけ選び、”国際標準模式層断面および地点(GSSP:Global Boundary Stratotype Section and Point)“として認定する。そこには、「ゴールデンスパイク」が打ち込まれる。GSSPは世界に68ヵ所存在し、日本にはまだ存在しない。地質時代には、何回も地磁気の反転現象があったことが分かっている。チバニアンのはじまりの点が、地磁気極性が「松山逆磁極期」から「ブリュンヌ正磁極期」に替わる境界を提示する地点として申請されている。申請が認可されると約77万年前〜12万6千年前の地質時代に対する名称として「チバニアン」が採用となる。なお「松山逆磁極期」の名称は、地磁気反転を最初に指摘した松山京大教授に因んで命名された。
5)人新世・貞観地震
・貞観地震:貞観地震(869年)の際の津波浸水域が砂質堆積物の解析から推定されている。それと2011年3月の東日本大震災の津波による砂質堆積物到達限界はよく一致している。2009年には、貞観地震を教訓として津波が福島第一原発を襲う可能性が指摘されていた。当時東京電力は高さ16mの津波を想定した防潮堤を検討していたが、残念なことに結局それは建設されなかった。
・人新世:原語はAnthropocene(アントロポセン)。ドイツ人大気化学者パウル・クルッツェン(気候変動・オゾンホールの研究者)によって提案された造語。人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった近年の地質学的な時代を表現する。人類が自然環境のサイクルに戻らないものを大量に作り出してしまい、その影響が無視できないことを示す意味で2013年に提案され、現在世界的に議論されている。人類が地球環境を変えるほどの力をもっている現在、地球史的な時間概念でものを考えられるよう、ジオパーク活動などを通して学ぶことが必要かもしれない。
記録:水越
(本記録は、会員の井上隆史氏のメモを参考にしました)