科学技術者フォーラムH30年5月度セミナー報告「フクシマ事故の実情と原子力の実態」
2018年 05月 17日科学技術者フォーラム平成30年5月度セミナー(第191回)報告
「フクシマ事故の実情と原子力の実態」
日 時:2018年5月5日(土)14:00 〜 16:50
場 所:品川区立総合区民会館「きゅりあん」5F 第2講習室
参加者:75名
題 目:「フクシマ事故の実情と原子力の実態」
講演者:小出 裕章 氏 元・京都大学原子炉実験所 助教
小出裕章氏からは2011年3月11日に起こった福島原子力発電所の事故から7年以上経った現在でも収束には程遠い実情と原子力の実態を専門外の人達にも分かり易く、明確にご説明して頂きました。事故の当初出された「原子力緊急事態宣言」は100年経っても解除できないであろうとのお話は、実態を知るともっと大変な事であり驚きでした。
<講演要旨>
1. 敷地内の実情について
国と東電は熔け落ちた炉心を摘まみだして30〜40年で事故を収束させると言っていたが、現状は未だ正確に炉心がどこにあるかもわかない。ペデスタルから外部にはみ出ていて摘まみだすことは出来ない。そこで格納容器から横穴を開けて炉心を取り出す「気中工法」も提案されているが厖大な被曝作業になる。100年経っても収束できないであろう。100年毎の構築が必要ではあるがチェルノブイリのような石棺しかないであろう。
また、ひたすら冷却水を注入してきたが放射能汚染水が溢れている。小出氏の提案は、(1) 冷却水を使うことをやめる。(2) 低融点金属を使う。又は今なら(3) 空冷も可能である。
さらに、地下水遮蔽の為の不確実な凍土壁はやめてきちんとした地下水遮水壁を作る必要がある。
2. 敷地外の被曝と苦悩について
約1100㎢ が高度に汚染され、10万人を超える人が生活を根こそぎ破壊されて流浪化した。約14000㎢ が「放射線管理区域」に指定しなければいけない汚染を受け、何百万人の人が、そこに棄てられて、被曝しながら生きている。原子力を推進する人たちは「現存被曝」の概念を持ち出して特別措置法を乱発し、人々の被曝を正当化した。
3. セシウム137の量の比較で広島原爆の168個分の放射性物質が放出された。福島県の東半分を中心にして、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、埼玉県と東京都の一部は放射線管理区域(4万ベクレル/?を超える区域)にしなければならない汚染を受け、政府は「原子力緊急事態宣言」を出して、特別措置法を立てた。セシウム137の半減期は30年、100年経っても10分の1にしかならず「原子力緊急事態宣言」を解除できない。収束まで100年以上、事故処理費用、賠償費用は100兆円以上となる。その上、廃炉、核のゴミの処理費用が必要となる。
4. 広島と長崎に落とされた原発は、10万人の死者が出た東京大空襲の10〜13倍の規模であった。現在の平均的原子力発電所(100万kW)が年間消費するウランは1トンで、広島原爆で燃えたウランの約1000倍であり、その内999?は死の灰となる。その1トンの燃料ウランを得る為にはウラン鉱石約250万トンの採掘量が必要となるがその大部分が捨石、鉱滓、劣化ウランとなる。そして取り出した30トンの濃縮ウランの1トン分が消費ウランで大部分が燃え残りウランとなる。これら放射性廃物(核のゴミ)を消す力を人類は持っていないし、その始末の方法を知らない。
5. 地殻中にあるウランは、発生できるエネルギー量に換算して石油の数分の一、石炭の数十分の一しかない。原子力推進者はウランをプルトニュームに変える案を出したり、核分裂は核融合が実現できるまでの繋ぎのエネルギー源だと言い出しているがいずれも実現にはほど遠い。
6. 放射性廃物の処理について
ドラム缶に詰めた低レベル放射性廃物は既に原子力発電所にある貯蔵施設容量を超えており六ヶ所村に押し付けているが、いずれは地下埋め棄てしかない。核のゴミを無毒化する研究は76年間続けてきたが未だできていないし、その壁は大変厚くて高い。使用済み燃料を取り出したとしてもその毒性が減るまで数万年から数百万年かかる。高レベル廃物の隔離は地層処分しか残されていないが、現在、埋め棄て場所すらない。
自分で始末できないゴミを産む行為は為してはならない。私たちは今、未来に対する犯罪をしていると小出氏は説いている。
(文責 山岸任)