科学技術者フォーラムH30年2月度セミナー報告「日本における食品安全施策の課題」
2018年 05月 02日科学技術者フォーラムH30年2月度(第188回)セミナー報告
「日本における食品安全施策の課題」〜HACCP規制導入での小売業のスタンス〜
H30年2月度(第188回) セミナー報告
1. 日 時:2018年2月17日(土)14:00 〜16:50
2. 場 所:品川区立総合区民会館「きゅりあん」5F第4講習室
3. 参加者:34名
4.題 目:「日本における食品安全施策の課題」
〜HACCP規制導入での小売業のスタンス〜
5.講演者: 大阪府立大学 21世紀科学機構 客員教授
(一社)新日本スーパーマーケット協会 シニア・アドバイザー
元国立大学法人 東京海洋大学大学院 教授(食品流通安全管理専攻)
農学博士 日佐 和夫 氏
<講演要旨>
・HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)とは食品の製造・加工のあらゆる段階で発生が想定される工程上の危害を起こす要因を分析(Hazard Analysis)し、それらの最も効率よく管理できる部分(Critical Control Point;必須管理点)を連続的に監視することによって食品の安全を確保する管理手法。
・HACCPは元々NASAが宇宙食の安全性確保のために構築された手法で、その後、FAO/WHOの食品規格(Codex)委員会が示しているガイドラインの基礎となっており、今回のわが国のHACCP制度化ではCodexのHACCPガイドラインが準拠されている。
・わが国では1995年に厚労省がHACCPの考え方を取り入れた「総合衛生管理製造過程」(通称:「丸総」)の承認制度を発足させ、2014年に「管理運営基準に関する指針改正」などを踏まえ、国際規格であるHACCPをわが国の法規則としてHACCPの制度化を進めているが、諸外国のHACCP規制に比べ、柔軟性に欠けることが懸念されており、そのことが、現場の実態と乖離し、反って食品の安全性が確保できないなどの指摘もある。
・Codex 委員会の「HACCP12手順7原則」について解説し、「日本版HACCP」制度化をめぐる諸問題について演者の見解が示された。主なコメントは以下のとおり。
・厚労省は、食品の製造・加工、調理、販売などフードチェーンを構成する全ての事業者を対象とし、「HACCP7原則」を原則通りに適用される「基準A」と、従来の衛生管理の運用である「基準B」に区分し、飲食店や個店などなどの小規模事業者は基準Bを適用するとしている。例えば、スーパー、外食・飲食店、惣菜、和洋菓子などでは、企業規模に関係なく、店舗は「基準B」、加工センターやセントラルキッチンは、「基準A」に該当すると考えられるのが妥当。
・ハザードには生物学的、化学的、物理的なものがあり、製品特性や使用者、使用方法等を的確に考慮し、ハザード発生の頻度や重篤性の観点から分析・評価されるべきだが、十分理解されていない。
・必須管理点(CCP: Critical Control Point)を的確に検証・判断する力量が不可欠で、各CCPに管理基準(CL:Critical Limit)を設定し、ハザードを予防、除去、または許容範囲内に減少させることが肝要。
・丸総は、国際調和=外圧であり、食品衛生法での「製造基準に適合しない食品」の製造販売を認めるために丸総による承認が必要であった。すなわち、例外規定(弾力化)である。しかし、「製造基準に適合する食品」についても丸総の承認を可能としたところに、HACCPは厳しいもの、大企業がするもの、輸出企業がするものという風評が出来た。今回、HACCP制度化されると後者についての丸総は、法的条文が削除される。
・一部の自治体HACCPが丸総の概念で認証しているため、丸総HACCPがHACCPスタンダートと誤解され、中小企業事業者に過度の負担を強いている。
・対EU輸出水産食品に係る認定機関は諸外国では中央政府の水産漁業部署が担当だが、わが国は水産庁ではなく、知事や保健所設置市長、特別区長の規制官庁である(現在は水産庁も認可)。
・HACCP構築(義務化)における食品安全の「科学的根拠」は、調理文化の中での経験(K)と勘(K)から度胸(D)未知の科学(s)メカニズムを予測し、実践科学として確立してきたと推測される。
・HACCP制度化における行政サイドの問題点として、食品衛生監視員のレベルや食品産業は中小・零細企業の比率が高く、多品種少量生産の実態などから事業者レベルが低いと見なしていることがあげられる。
・食品産業(現場)の視点からの「食品総合安全管理工学」の構築が必要。
(報告者:太田 哲夫)