科学技術者フォーラムH29年7月度セミナー報告「ビール苦味成分イソフムロン:アルツハイマー型認知症予防薬への期待」−脳細胞保護作用や原因物質の除去作用に内閣府も応援−
2017年 08月 21日H29年7月度(第181回)セミナー報告
1. 日時:2017年7月15日(土)14:00 〜16:40
2. 場所:品川区立総合区民会館「きゅりあん」5F第4講習室
3. 参加者:35名
4. 題目:「ビール苦味成分イソフムロン:アルツハイマー型認知症予防薬への期待」
−脳細胞保護作用や原因物質の除去作用に、内閣府も応援−
5. 講演者:(独)国立高専機構・高知高専・名誉教授、(一法)日本経営士会・南関東支部・経営士 農学博士 戸部 廣康 氏
<講演要旨>
1) ビールと人類の付き合いは長い。
・紀元前3000年頃のメソポタミア・シュメール人が製造法を記録。古代エジプトなどでは「液体のパン」と呼ばれ、流行病予防、治療薬としても利用。
・12世紀後半以降、ビール醸造にホップ利用開始。大航海時代「腐り難い水」として重用。
・江戸時代は出島で製造開始。明治時代は高い栄養価により薬局で販売。
2) ビールホップ成分の認知症予防・治療薬に関する研究の現状
・「認知症治療への応用」について、イノベーション・ジャパン(大学見本市)で発表。
・「ビールの歴史や健康」に関して、角川SSC新書の上梓やNHKラジオで放送。
・キリンはホップ成分のイソフムロンのアミロイドβ除去や神経細胞保護作用について、一方、サッポロは類似構造体ガルシニエリプトンHCのアミロイドβ生成阻害作用について研究。
・ビール苦味成分イソフムロンは、経口摂取で脳への良い効果があること確認され、内閣府の国家プロジェクトに採択(2016年3月)。
3) ホップ成分フムロンとイソフムロン
・フムロンはビールの醸造中にイソフムロンへと変換。
・フムロンは、細胞にアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導し、細胞を死滅させる。
・一方、イソフムロンは生存細胞数に変化を与えず、アポトーシスも誘導しない。イソフムロンは細胞保護作用、すなわち、死にそうになった神経細胞を助ける作用を有する。
4)脳神経細胞の特徴
・脳神経細胞は盛んに発電し、電気信号を神経細胞ネットワークに送り続けている。
・発電と電気信号の伝達には大量のエネルギー物質ATPが必要で、ATPは細胞内のミトコンドリアでグルコースと酸素から生産されている。脳は最大のエネルギー消費臓器である。
・神経細胞同士は直接連結せず、シナプスにおいて化学物質(神経伝達物質)を用いて隣の神経細胞に電気信号を伝達する。
4) アルツハイマー型認知症の原因
・アミロイドβ説、タウタンパク説、ミトコンドリア老化説などがある。
5) 神経細胞の構造とアミロイドβとタウタンパク質
・神経細胞はコレステロール等を含む細胞膜に囲まれ、軸索はシールド(絶縁)されている。
・細胞活動に伴い大量のATPが生産され、その結果大量の有害な廃棄物(活性酸素)が生じ、これが長時間に亘って脳の神経細胞やグリア細胞等に障害を与え続ける。
・活性酸素は脳の機能を損ない、結果として脳内に「アミロイドβが蓄積➡神経細胞内にタウタンパク質が蓄積➡神経細胞が大量に死滅➡認知症の発症」となる
6)記憶を固定化する仕組み
・海馬の神経細胞には空間認識を行う場所細胞(Place cell)及びその記憶を固定化する格子細胞(Grid cell)があり、認知症における空間認識低下は場所細胞と格子細胞の減少によるものと考えられている。
・MITの利根川教授は、記憶容量が小さい海馬から記憶容量の大きい大脳皮質へ記憶情報を移転させることで、長期記憶が固定・維持されることを明らかにした。
7)イソフムロンの作用のまとめ
?脳細胞の保護作用(ブタ、ウシ脳細胞で確認)。
?神経樹状突起誘導作用(ウシ神経細胞で確認)。
?ヒト経口摂取による脳の容積増加と神経線維の増強(fMRI測定で確認)。
?脳ミクログリア細胞を活性化しアミロイドβタンパクを除去(マウス脳で確認)。
<主な質疑応答>
・ビールと尿酸値との関係?→プリン体は飲酒時のつまみに多く含まれる核酸成分に由来。
・体内吸収されたイソフムロンが脳神経細胞まで届いている証拠?→脳関門通過を確認。
・アミロイドβやタウタンパクの本来の機能?→神経細胞膜の安定化などに関与していると推測されている。
・アミロイドβ蓄積による老人斑と皮膚の老人斑の違い?→認知症と皮膚のシミの相関はない。
・ホップ成分の脳以外への機能性?→女性ホルモン様作用や骨の劣化抑制効果等が知られる。
・ノンアルコールビールやホッピーも有効?→ノンアルコールビールやホッピーもホップを含むので、同様な作用が期待できると思う。
以上