科学技術者フォーラムH28年11月度セミナー報告:「高速ビジョン・高機能マニピュレーション」
―人間を超える作業能力を持つロボットを目指して―
2016年 12月 03日H28年11月度(第173回)セミナーの報告
1. 日時 :2016年11月19日(土) 14:00〜16:50
2. 場所 :品川区立総合区民会館「きゅりあん」 5F 第4講習室
3. 参加者:25名
4. 題目 :「高速ビジョン・高機能マニピュレーション」
―人間を超える作業能力を持つロボットを目指して―
5. 講演者:千葉大学 大学院工学研究科 人工システム学専攻 准教授 並木 明夫 氏
6. 講演要旨
家庭、医療・介護、産業、危険・災害作業用のロボットには手を用いた操作であるマニピュレーションが必要である。そのキーテクノロジーとしてはセンシング(視覚センサ、触覚力覚センサ)、知能化技術(計算機情報処理)、手のメカニズム(多関節マニピュレータ、器用なロボットハンド)がある。ここでは、人間を超える高性能ロボットを目指す、超高速ロボット、器用なロボット、人間とロボットの動的インタラクション、知能化マスタ・スレーブロボットについて解説された。
1)超高速ロボット
・高速化には動作の高速性(速度、加速度)と反応の高速性(認識、処理)が必要とされ、前者には軽量・高出力・低減速比のメカニズムを備える高速アーム、高速ハンドが要求され、後者には高速センシング(サンプリング周波数1kHz)、並列演算処理(実時間での画像処理、画像特徴量出力)を備える高速ビジョンが要求される。
・高速多関節アームは、7自由度、10m/s程度の手先速度、1:50の低減速比を備える。また高速ハンド内蔵のアクチュエータは電気的エネルギーの瞬時放出による高速化を行える。
・高速ビジョンは、(1)複雑に高速運動する物体でも静止状態で認識でき、(2)高い応答特性を持つダイレクトな視覚サーボ制御技術を有し、(3)時系列画像を利用でき、画像内の特徴点探索が容易であり、(4)見ながら操作が可能で、高度な知的作業も高速化できる。
・高速バッティング、1、2ボールジャグリング、けん玉キャッチングが開発された。
2)器用なロボット
・ロボットハンドの把持形態はパワー型と精密型に分類され、パワー型は側面把持と球状物体・柱状物体把持に分けられ、また精密型は球状物体把持で4本指・3本指に、柱状物体把持で4本指・親指−人差指・人差指−中指に分けられる。
・高速ロボットハンドは軽量(500g以下)、高出力(瞬時出力アクチュエータ内蔵)、簡単な構造(モータによる直接駆動、ハーモニックドライブ)を特徴とする。
・器用なロボットハンドとしては、2〜4指、8〜12自由度のものがあり、さらに指先旋回機構を持つ多指ハンド、また1指当たり7関節を備える2指の超自由度指を持つロボットハンドも開発されている。
・折り紙ロボットが開発された。
・器用で速いロボットの応用としては、産業用(セル生産、柔軟物の操りを含む自動化、高速化・高精度化、匠の技術の伝承)および他分野(医療、介護、ホーム)等がある。
3)人間とロボットの動的インタラクション
・エアホッケーロボットが開発された。これは人間の動作に迅速に反応し、また人間の意図を検出する必要性がある。そのために2台の500Hzの高速ビジョンと4関節で、低摩擦のワイヤ駆動のロボットアームを採用し、パックの移動の予測、滑らかな打撃動作の生成、実時間での最適制御を行えるようにしている。
・チャンバラロボットが開発され、3次元視覚を可能としている。
4)知能化マスタ・スレーブロボット
・人間が作業できない危険な場所で、操作型ロボットを遠隔操作して作業させるようにした。これは操縦者の意思を推測した操作アシスト制御を行う。
・マスタ装置:軽量で装着し易いロボット操作用マスタシステムを開発し、それはリンクと関節で構成されるチューブ状センサを備えるFlexible Sensor Tube、3次元視聴覚ヘッドマウントディスプレイ、各指の背面に数本のワイヤを装着し、その伸縮を計測するFlexible Sensor Gloveを搭載する。
・スレーブロボット:カメラ・マイク・スピーカを備え、3自由度首関節を持つヘッド部、制御ドライバとアクチュエータを一体化する7自由度のアーム部、1自由度の小指と薬指・2自由度の中指と人差指・4自由度の親指を持つハンド部を有する。
・人の動きを予測して、先回りしてロボットを制御し、位置誤差と遅れを補償する。
7.質疑応答
1)研究レベルの状況:世界の最先端にある。
2)指の運動用モータ:減速機付きブラシレスモータで、回転軸の直径は13mmである。また1分程度の連続使用であれば大電流を流しても加熱の問題はない。
3)指先の感覚検出方法:ひずみゲージを使用する力センサおよび感圧導電性ゴムを使用する触覚センサを使用している。感圧導電性ゴムは研究段階で、まだ実用まではされていない。
4)目の機能:画像処理装置により形状および位置情報の認識が可能である。
5)自動車工場の自動化:現在、自動車工場の作業の半分程度はロボットに依存している。ただし、ビニールシートのような軟材料品の取付け、電気配線等の作業は難しい。コストの問題があるがいずれは全作業が自動化されるであろう。
6)機械学習:統計処理を使用するパターン認識は得意であるので、自動車の自動運転等の応用で発達するであろう。
7)視覚センサ:3次元センサを使用して3次元形状を認識する。特に、計算処理速度、転送速度は速い必要性があり、GPU(graphics processing unit)を採用している。
8)マスタ・スレーブ:用途毎にその運動データを取っておき、それをもとに学習させて動きの予測を行い、時間遅れに対応する。
9)制御方法:本開発技術は電気制御を採用しているが、重量のあるマニピュレーションでは油圧制御を使用したものもある。ただし騒音が問題である。
10)重心の演算:カメラによる画像の中心から重心が求められる。3次元構造では形状認識から判断される。
11)画像処理:速度を速くすることが重要であるが、誤動作を防ぐためにセンサを複数設ける必要がある。また工場内ではあまり問題ないが、外部では天候状況に影響されることがある。
以上
(報告者:木村芳一)