科学技術者フォーラムH28年9月度セミナー報告「小さな気泡の不思議な世界〜 マイクロバブル、ナノバブルの基礎とその応用 〜」
2016年 10月 13日28年9月度(第171回)セミナーの報告
1.日時 :2016年9月17日(土) 14:00〜16:50
2.場所 :品川区立総合区民会館「きゅりあん」 4F 第1特別講習室
3.参加者:51名
4.題目 :「小さな気泡の不思議な世界〜 マイクロバブル、ナノバブルの基礎とその応用 〜」
5.講演者:国立研究開発法人 産業技術総合研究所 環境管理研究部門 研究主幹 高橋正好 氏
<講演要旨>
1.マイクロバブルの発生と特徴
・マイクロバブルの発生方法には加圧溶解法(加圧・減圧による再気泡化)、旋回法(気液二相流旋回による渦の崩壊)、細孔法(多孔性セラミック等透過気体を水流でせん断)等がある。
・マイクロバブルは発生時の直径が50μm以下の気泡である。それは水中で溶解して縮小し、ついには消滅(完全溶解)するか、あるいは気泡径が1μm以下のナノバブルとして長時間、水中に存在する。
・マイクロバブルの内部圧力は囲まれる気液界面の表面張力によって上昇し、加圧された気体は効率良く周囲の水に溶解する。その気体の溶解にともなって気泡は縮小し、その内部圧力がさらに増加する。その圧力上昇によって気体の溶解速度が増加し、縮小速度が大きくなって、最終的に消滅する。
・マイクロバブルの気液界面は帯電しており、そのために反対符号を持つ電解質のイオン類がその周囲に引き付けられ、電気二重層を形成している。またその界面の帯電は静電気的反発力を作用させるために、気泡同士が合体することはない。
・マイクロバブルは消滅時に水酸基ラジカル(・OH)などのフリーラジカル(不対電子対を持つ原子や分子)を発生する。それは反応性が極めて高く、水溶液中の様々な化学物質を分解する。応用例としては、1)工場などからの汚染排水の浄化、2)炭化装置との組合せでの臭気除去、3)ダムなどの閉鎖水域の浄化等がある。
・オゾンのマイクロバブルではフリーラジカルの発生量が劇的に増加し、新しいタイプの促進酸化法として利用可能である。応用例としては、1)繊維工場などからの排水に含まれる難生物分解性のPVA(ポリビニルアルコール)の分解、2)半導体の洗浄(半導体ウエハーのフォトレジストの除去、周辺治具の洗浄)、3)塗装業における、水噴霧を利用した臭気、VOCの除去等がある。
2.ナノバブルの発生と特徴
・マイクロバブルの気液界面にはイオン類が高濃度に存在し、気泡縮小時には、その縮小速度の増加に応じて気液界面のイオン類が濃縮する傾向にある。イオン濃度の増加には気体の溶解量を低下させる効果があり、気泡を安定化させる作用がある。そのためにナノバブルが安定化することがある。ただし、外部刺激によって安定性が壊れると、マイクロバブルの消滅時と同様にフリーラジカルを発生することがある。
・ナノバブルの応用
1)機械加工での切削油に空気ナノバブル処理水を混入する(5%切削油)と、切削性、耐摩耗性、冷却性が向上し、臭気が無くなる。
2)チョウザメ養殖の水槽に空気マイクロナノバブルを混入すると、水の汚れが改善されて、溶存酸素濃度は変化が無いにも拘わらず、魚の成育が良好(約5割増し)になる。
3)ミネラル成分の入った水に空気マイクロナノバブルを混入し、それを50倍に希釈したものを野菜栽培に使用したところ生育が良くなる。
4)オゾンナノバブルの強力な殺菌効果を利用すると、耐性菌を殺して、院内感染を防止する可能性がある。また酸素ナノバブルの利用は、血管内皮細胞の炎症を抑制して動脈硬化を予防したり、さらに臓器保存を可能にする。
5)CO2マイクロナノバブルを発電所の導水管経路内に注入すると、管内の壁面への貝の付着が防止される。
3.今後の展開
微小気泡の諸現象の解明はまだ不十分で、今後応用をにらみながら基礎を充実させたい。
4.質疑応答
1)水素ナノバブルの製造の可能性
→これからの課題であるが、逃げやすく、難しそうである。
2)酸素ナノバブルの状況
→殺菌性は弱いが、微生物等の活性化には効果がある。オゾン、酸素の共存で殺菌性を強めることもある。
3)ナノバブルでの光の発生の有無
→光の発生はない。
4)ナノバブルの腸洗浄の可能性
→研究段階である。
5)マイクロバブルの切削加工での冷却性向上の理由
→蒸発による冷却作用が考えられる。
6)マイクロナノバブルのクリーニング、消火への応用
→クリーニングには効果があり、洗剤無しで、あるいは少なくして洗浄可能である。また消火に対しては不明である。
7)ガラスの汚れ落としの可能性
→汚れは取れるが、厳しい汚れには薬品が必要とされる。
8)養殖での効果
→マイクロバブルを入れることにより水質の浄化や成育の向上が可能である。
9)ダムでの応用
→対流を促進し、低層部の酸素欠乏状況を改善することにより環境浄化できる。
以上
(報告者:木村芳一)