科学技術者フォーラムH27年10月度セミナー報告「福島第一原発汚染水処理で活躍する吸着繊維」
2015年 10月 07日H27年10月度(第160回) セミナー報告
1.日時 :2015年10月3日(土) 14:00〜16:50
2.場所 :品川区立総合区民会館「きゅりあん」 5F 第3講習室
3.参加者:25名
4.題目 :「福島第一原発汚染水処理で活躍する吸着繊維」
5.千葉大学大学院 工学研究科 共生応用化学専攻 教授 斎藤 恭一 氏
http://chem.tf.chiba-u.jp/gacb02/marukyo/index.html
http://www.eng.chiba-u.jp/outProfile.tsv?no=1206
<講演要旨>
1.放射線グラフト(接ぎ木)重合によるキレート不織布を用いた海水からのウラン採取の研究
ポリエチレンに電子線またはガンマ線を照射してC-H共有結合を切断し、その後モノマー(アクリロニトリル)に浸漬してラジカル反応を起こした。シアノ基をアミドキシム基に変換してアミドキシム型キレート不織布を作製した。砂ろ過した海水をこの不織布に連続的に流通させた結果、30日間で,0.1%のウラン含有量にあたる不織布を得た。
2.繊維を出発材料にした放射性物質の除去の研究と実用化
・上記の研究成果を基にして,福島第一原発事故によって発生した放射性汚染水からの放射性物質の除去の実用化研究を開始した。
・放射性物質の半減期はヨウ素8日、セシウム30年、ストロンチウム29年であり、セシウムはオフサイトまで拡散し、ストロンチウムの大部分はオンサイトに留まった。
・ナイロン製繊維を基材にして、電子線を照射し、アニオン交換繊維を作製した。つぎに,フェロシアン化カリウム水溶液中に浸漬し、さらに,塩化コバルト水溶液に浸漬した。繊維表面で沈殿反応が起きて,粒径0.1μm程のフェロシアン化コバルトの微粒子が生成した。こうしてセシウム除去用のフェロシアン化コバルト担持繊維を作製できた。
・担持したフェロシアン化コバルト微粒子の表面がマイナス電荷をもち,一方,アニオン交換グラフト(接ぎ木)高分子鎖はプラスの電荷をもつので,多点での静電相互作用によって,微粒子が液中へ脱落しにくい構造が形成される。
・この吸着繊維の製造プロセスは、繊維の染色工程と同様である。群馬県のベンチャー企業によって,吸着繊維が大量製造されている。
・この吸着繊維を用いた福島第一原発での検証試験が実施された。その後,地下水を汲み上げた汚染水(サブドレン水)からのセシウムおよびストロンチウムの除去が行われている。吸着繊維の開発を始めてから5年弱という短期間での実用化である。
3.その他
・本開発技術は、さまざまな水溶液からの重金属除去,有用金属の回収など、多くの応用の可能性があり、企業からの開発依頼が多い。
・放射性物質の降下量の観測が1955年から日本の気象研究所で継続されている。残念ながら,この情報はあまり知られていない。
Q&A
Q1:トリチウムの除去はどうか?
トリチウム濃縮後の液の扱いが大きな課題である。
トリチウムの除去は相当に困難である。国内外で調査検討中である。
Q2:本材料の事業化は現在どんな状況か?
大量生産が可能となったが、まだ高価格である。汚染海水の処理に対して本格的な採用には至っていない。
Q3:ゼオライトとの比較ではどうか?
ゼオライトは低価格である。しかし,投入や回収が難しい。
吸着繊維について,性能向上とコスト削減の研究が進行中である。
Q4:本開発に関しての特許取得はどうか?
特許出願済である。
Q5:放射線グラフト重合法の応用範囲は広いと考えられるが、その状況はどうか?
原理的には,この手法を応用すれば、対象物質にマッチした材料開発は可能である。
本分野では千葉大がトップランナーである。
以上
(記録者 児山)