科学技術者フォーラムH27年8月度セミナー報告「ナノセルロースの基礎と新展開」
2015年 09月 19日平成27年度8月第158回セミナー報告
開催日:平成27年8月29日(土)14時〜16時30分
開催場所:品川区立総合区民会館「きゅりあん」5F 第4講習室
講演名:「ナノセルロースの基礎と新展開」
講演者:東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授 磯貝 明
講演者略経歴:
1980:東京大学農学部卒業
1985:東京大学大学院農学系研究科博士課程修了(農学博士)
1985-1986:米国IPC化学科博士研究員
1994-2003:東京大学 助教授
2003-:東京大学 大学院農学生命科学研究科教授
講演要旨
セルロースの高機能化として開発されたTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)について講演頂いた。セルロースナノナノファイバーは機械的な解繊(フィブリル化)によって製造されてきたが、エネルギーコストが高く、またナノ化も十分でなかったが、TEMPO触媒酸化により常温常圧の水系で完全な解繊フィブリル化されたTOCNが得られるようになった。
TOCNの引張破断強度は高強度ケブラーと同等、鋼鉄に比べて比重で1/5、強度は約5倍のナノ材料であり、バイオ系ナノ材料、ナノ複合材料、環境適合材料、触媒関係、高機能ナノ材料等の多方面への用途が考えられている。
IAWPS 2015(International Symposium on Wood Science and Technology)が日本で開催された際、スウェーデンのマルクス・ヴァーレンベリ財団より本開発を行った磯貝教授および佐藤准教授にMarcus Wallenberg Prize(マルクス・ヴァーレンベリ賞)が授与されることが発表されました。心よりお祝い申し上げます。同賞はスウェーデン国王より授与される非常に名誉ある賞で、毎年森林科学および森林産業に対して顕著な変革をもたらした科学者に贈られます。同賞35年の歴史の中で、今回はアジア人への初めての授賞とのことです。
講演概要:
(1)バイオマス系素材利用促進の背景
木材中のセルロースは地球上に存在する最大量のバイオマスであり、再生可能資源であるため循環型社会構築、化石資源の使用削減、地球温暖化防止などのために「バイオマス活用推進基本計画」が2010年12月17日に閣議決定され、国レベルでその計画が推進されてきている。
さらに政府は2014年6月に「日本再興戦略」改訂2014を発表し、その中で「セルロースナノファイバーの研究開発等によるマテリアル利用の促進に向けた取組を推進する」という指針を公表し、8月には農林水産省、経済産業省および環境省の「ナノセルロース推進関係省庁連絡会」が新設され、炭素繊維などに続く差別化材料として実用化を前倒しに後押しすることとなった。
(2)バイオマスとしてのセルロースとそれをフィブリル化によりナノセルロース(NFC)へ
セルロースは木質バイオをパルプ化プロセスによって単離して、製紙用パルプとして大量に生産されているが、さらなる機能材料への変換・単離・精製プロセスは環境負荷型の酵素(生体)反応類似のような効率的な変換プロセスが必要である。
NCFの製法は従来の解繊法と表面改質による方法に分けられる。従来の解繊法はパルプ水溶液中で高エネルギー繰り返しの高圧ホモジナイザー処理などの解繊技術により行われてきたが、解繊効率やその後の脱水プロセルに起因してコスト高である。
それを、改良するための技術として、表面改質による解繊法が、海外で多くの方法が検討され、それぞれが実用化に進みつつある。
当研究室では水系常温常圧でのTEMPO(2,2,6,6-tetramethylpiperidinyl-1-oxyl radical)触媒酸化により、高結晶性のセルロースミクロフィブリル表面にのみ高密度でマイナス電化を有するカルボキシル基を導入することに成功し、TEMPO酸化セルロースシングルナノファイバー(TOCN)の製造可が可能となった。
(3)各種ナノセルロースの比較
・TEMPO酸化セルロースシングルナノファイバー(TOCN):解繊エネルギー<2kwh/kg、高アスペクト比、完全ナノ分散、約3nmの均一幅(本研究)
・ナノフィブリル化セルロース(NFC,CNF):解繊エネルギー<50kwh/kg、不均一幅、一部凝集
・ミクロフィブリル化セルロース(MFC):解繊エネルギー>200kwh/kg、部分的ナノ分散化
・濃硫酸加水分解セルロースクリスタル(CNC))::低収率、紡錘形一部未解決、
(4)セルロースのTEMPO触媒酸化反応の特長
・水系反応 (pH8〜10.5)、
・TEMPOは触媒、安価なNaClOとNaOHが消費される反応
・高い位置選択性反応(常温常圧、<2時間)
(5)TOCNの特長
?直鎖セルロース分子鎖30〜40本が結晶化した幅3nm、長さ数μm、結晶化度70〜80%
?表面に規則的に高密度のカルボキシル基、水中および有機溶媒中での分子状分散、ヒドロゲル化
?高強度(約3GPa、CFと同等)、高弾性(約140GPa),高酸素バリア性、低熱膨張率、高耐熱性
?カーボンナノチューブを超える安全性
?低い解離エネルギー、製造法として低環境負荷および低コスト
(6)ナノファイバー利用の潜在性
?燃料電池セパレーター、蓄電池用フィルター
?高性能分離膜
?透明ガスバリア、光学フィルム
?生理活性物質、医薬用、ヘルスケア関連用途
?軽量ナノ複合材料
?耐熱性複合材料
(7)TOCNのパイロット生産販売
?2013年から日本製紙?が日産100kgのTOCNを含むナノセルローズ(CELLENPIA®)のパイロット生産販売開始
?2013年から第一工業製薬?がTOCN(レオクリスタ)のパイロット生産販売開始
8.講演後のQ&A 活発な質疑応答があったが、全部を掌握できななったので省略する。