科学技術者フォーラムH27年7月度セミナー報告「既存設備を活用した小水力・マイクロ発電の概要、事例紹介」
2015年 08月 17日H27年7月度(第157回) セミナー報告「既存設備を活用した小水力・マイクロ発電の概要、事例紹介」
1.日時 :2015年7月18日(土) 14:00〜16:50
2.場所 :品川区立総合区民会館「きゅりあん」 5F 第4講習室
3.参加者:41名
4.題目 :「既存設備を活用した小水力・マイクロ発電の概要、事例紹介」
5.講演者:東京発電株式会社 発電サービス事業部
事業戦略グループマネジャ 富澤 晃 氏
<講演要旨>
本講演では,水力発電の基本知識と共に、事業採算性が成立しないと見捨てられてきた小水力発電が、どのような技術革新によって再度注目を集めるようになったのか、加えて「ビジネスとしての発電事業」を小規模な水力発電で行う際の課題等と、ここ10年程で実現されている「新しいタイプ」の小水力発電事例、水道水のような身近なところで活用されている多くの事例を沢山ご紹介頂きました。
1. 東京発電株式会社とは
・東京電力のグループ会社で、関東圏に73箇所(設備の平均年齢59歳)の中小力発電所を有する発電事業者で、250名強のエンジニア集団の会社。
2. 小水力発電の基礎知識
・歴史的には、明治〜昭和は流れ込み式の小水力発電、その後ダム式発電で発電量が増え、夜間は余剰電力で揚水する方法となった。近年これまでとは違う方法での小水力発電の時代となった。1、000KW以下の出力が「新エネルギー法」対象となり、現在では「小水力・マイクロ水力」と呼ばれる。
・発電電力[kW]は9.8X落差[m] X 水量[m3/s] X 変換効率で決まる。変換効率は水車効率と
発電機効率の合成値で、設備により変動する(0.2〜0.75)。
・発電事業向けパイプライン型の小水力発電としては、自然河川設置(ダムの遊休落差利用)、用水路設置(農業用水の遊休落差利用)、上水道設置(減圧弁の余剰圧力利用)、下水道設置(放流箇所の遊休落差利用)がある。
3. 事業としての小水力発電
・発電した電力の使い方で得られるものは異なる。電力会社への売電では、環境価値も含めて売電し、固定買取制度で売電する。一方、自家消費では電力会社の電気代より安い電気を利用し、電気代との差額が削減効果であるが、環境価値は手元に残る。
・発電事業には一定以上の発電電力の規模(落差X流量)が必要で40kW〜100kWが事業としての成立ライン、それ以下は自家消費での地域利活用となる。
・水力発電の起案から実際の運転までには2〜5年要し、7つのステップがある。ステップ3の「事業性評価」とステップ7の「運転開始後の維持管理」がビジネスとしてみた時に欠落しがちである。
・運転保守の実態として多くの事業者は(発電施設の所有者、例 地方自治体の水道局)、トータルエンジニアニング会社に任せている。東京発電はこれに該当する会社である。事業者には自分たちの発電所として認識し、日常巡視を自分たちで実施して設備の状態を把握できるようになってもらいたい。
・事業性・採算性を確保できる電気を生み出すには、企画・調査から運転保守まで計画通りに実行し、経済性のマッチした投資対効果を考えて、無理をしないことが肝要。
4.既存設備を活用した小水力事例
(1)水道施設を利活用した小水力
・水道施設に悪影響を及ぼさない方策
a.使用する設備は水道ホンプと同等の規定の塗装、材質を使用(例 IWWA準拠、オイルレス)。
b.設備はバイパス配管に設置する。万が一の時は自動切り離しで本管配水となるので配である水には影響しない。
c.水運用は、従来のままで変更なし(変更で発電量増加なら歓迎)
・現在、各自治体の水道局等を「共同事業者」と位置づけ、水のエネルギーと発電設備を設置する場所(空間)のみを提供してもらうフルサポート事業として展開している。
・この方式の長所は建設資金、運転費用、保守費用、運転ノウハウが不要なことと従来通りの水オペレーションができることである。短所は、施設の見学対応業務が発生すること、東京発電の投資基準に見合う設備であること、競争入札には不向き(事前費用が膨大)なことがある。
・施工、維持管理、常時監視体制では実績があり、緊急時対応ではフェイルセーフ思想で設計している。
・現在、全ての導入施設で黒字経営になっている。
・水道施設を利用した小水力発電の事例紹介
A.流水弁(減圧弁)置換型:給水人口が多い地域向け。高低差を利用(例 鷺沼発電所 出力50kW)
B.送圧残差活用型:給水人口が多い地域向け。ポンプの送水圧の余剰分を利用(例 さいたま市大宮配水場 出力50kW)
C.減圧槽手前圧の利用:山間地向け。フロート弁で設置されている減圧槽(例 山宮発電所 出力180kW)
D.取水源水利用型:一定規模以上の浄水場向け。設備稼働率は高いが、水利権の問題あり(例 若田発電所 出力78kW)
(2)農業用水を利活用した小水力発電例
・大野原発電所(大分)出力260kW,全量を九州電力に売電。
・蟇沼発電所(栃木)出力340kW,170kWの2つ、全量を固定価格買取制度で売電。
・照井発電所(岩手)出力50kW,固定価格買取制度で全量売電。
Q&A
Q1:発電電力時の使用機器の変換効率は?
現在は約75%。
Q2:マーケットサイズは?
機器の設置数がまだまだ少ない現状である。
Q3:発電所が壊れたら?
フェイルセーフで設計なので水道利用者への影響はない。発電機が壊れた方が弊社の被害総額が少ないので、壊れるようにしている。
Q3:海外進出は?
国内も全国展開まで至らずの状態で、海外までの余力がない。
Q4:御社と自治体水道局との利益折半は?
そこそこの関係でうまくいっている。
Q5:この小水力発電も含めた水道事業の海外輸出は?
コストが高くなるのでコンペに勝てない。ビジネスパートナーがいないので現状は無理。
Q6:初期コスト、運転コストは?
以前は初期費用は出力100kWで5000万円、300kWだと1億円だった。しかし固定価格買取制度が始まり、工事・機器費用が値上がりして現在は100kWで1億円かかる。
運転費用については、弊社は73箇所の設備があるので安くできている。一般的には自業者が自分でやると100万円/年、外注だと300万円/年である。
以上
(記録者 後藤幸子)