H27年3月度科学技術者フォーラムセミナー報告「我が国のがん対策の現状について」
2015年 04月 13日H27年3月度(第153回) セミナー報告「我が国のがん対策の現状について」
1.日時 :2015年3月19日(土) 14:00〜16:50
2.場所 :品川区立総合区民会館「きゅりあん」 5F 第3講習室
3.参加者:45名
4.題目 :「我が国のガンがん対策の現状について」
5.講演者:国立がん研究センター がん対策情報センター長 若尾 文彦 氏
<講演要旨>
がんは他人事ではなく自分事として対応すべき時代になっている。本セミナーではがんに関する基礎知識に始まり、科学的根拠に基づくがん予防法、推奨されるがん検診のこと、そして専門的ながん医療を提供し地域のがん医療の連携体制の中核的な役割を担っている全国の「がん診療連携拠点病院」、その拠点病院に設置されている「がん相談支援センター」並びに国立がん研究センターがん対策情報センターが運営するウエブサイト「がん情報サービス」のこと、さらに来年1月から新たに始まる「全国がん登録」など、自分事としてのがん対策についてお話し頂きました。
●がん対策は“がん患者が望む信頼できるがん情報提供の要望”に対応するものと生まれた。H17年8月に「がん対策推進アクションプラン2005」が施行され、がん診療拠点病院に設置された相談支援センター及び国立がんセンターに開設されたがん対策情報センターが、対策推進機関として誕生した。H18年6月「がん対策基本法」が成立、H19年6月「がん対策推進基本計画」が閣議決定され、H24年6月にはがん告知の段階から患者に寄り添い、小児がんも含めての対応や、がんになっても安心して暮らせる社会の構築を含む計画に改定された。
●がんに対する基礎知識の啓蒙認知の確認は、多くの二択〜五択の質問・回答の形で行われた。現実よりもがんを恐ろしい病気と参加者は思っていることが確認され、これは「日本人のがんイメージ調査2011」と全く同じ傾向であった。
●加齢と共にがんに罹る人は増加する。従って定年延長によりがんに罹る就労者が増加してくいるが、診断・治療技術の進歩により生存率は改善され職場復帰する人もは増えている。
●日本人に多いがんは男性では、胃、肺、大腸、前立腺、肝の順、女性では乳房、大腸、胃、肺、子宮の順となる。死亡率トップはそれぞれ肺、大腸であり、発症率が高いがんと死亡率が高いがんは異なる。例えば男性の発症率4位の前立腺がんガンで死亡する人は少なく(5年生存率92.0%)、ほってお於いても良いがんに分類される。過剰な検査で見つかることでストレスにもなる。女性の発症率1位の乳がんも死亡数は少ない(5年生存率85.5%)。
●男性の肺がん死亡者数が増加している。先進国では希なケースであり、喫煙がその最大の原因(リスク4倍)と考えられている。受動喫煙でもリスク2倍となる。国家的な強力戦略で軽減策を講じている国々があるが、日本は出来ておらず、それが肺がん死亡数増加と関係している可能性が高い。
●がんは日常生活と関わりが深い病気であり、5つの健康習慣(禁煙、節酒、運動、食生活、肥満度)で多くのがんは予防できる。そのリスクは男性では43%、女性では37%低下する。
●感染もがんの主要な原因であるので(H.ピロリ菌→胃がん、HPV→子宮頸がん、B型・C型肝炎ウイルス→肝がん)、一度は検査を受けることが肝要である。
●検診を受けないと判らない症状のないがんも多いある。早期に発見して体に優しい方法で治療することが大事。現在受診率は40%程度である。胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頚がんでは早期発見・治療で死亡率の低下が明らかになっており、まずは受診することが大事であり、がん検診無料クーポンもある。
●信頼できる情報はどこにあるの?
信頼できるサイトとして、国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービスガイドhttp://ganjoho.jpの紹介説明があった。がんガン解説、診断・治療、生活・療養・制度、冊子・資料、統計、予防・検診についての分野別サイト、病院の探し方、またガンの種類からの探し方、働く世代向けがん情報サイト等の説明があった。「がんと共に働く 知る・伝える・動き出す」の活動は日経ビジネスへの掲載となり、がん患者及び潜在対象者への情報接触機会の拡大策となっている。
●「全国がん登録」とは、日本でがんと診断されたすべての人のデータを、国で1つにまとめて集計・分析・管理する新しい仕組みで、2016年1月から始まる。「全国がん登録」制度がスタートすると、居住地域にかかわらず全国どこの医療機関で診断を受けても、がんと診断された人のデータは都道府県に設置された「がん登録室」を通じて集められ、国のデータベースで一元管理されるようになる。
●患者必携の「がんになったら手にとるガイド」の本及び無料サイト、がん診療連携拠点、東京の各地にあるがんガン相談支援センターの事例、がんガンの冊子紹介があり、「がんガン情報探しの10ヶ条」については携帯できるカードが配布された。情報は力、活用しよう。
●主治医、セカンドオピニオン、医師以外の医療スタッフにも相談出来る。インターネット情報の場合は正しい情報でない場合もあるので、情報源から判断し、科学的根拠のレベルに注意して必要がある。
●標準治療とは科学的根拠のある最善・最良の治療を指す。がんを確実に治す健康食品、補完代替え医療はない。副作用軽減効果の健康食品情報については国立健康・栄養研究所のサイトを参照のこと。また「最新治療」が「科学的根拠を伴った最善・最良医療」と等しいものではないことへの注意事項等の説明があった。
Q&A
Q1:アメリカではがん患者数が低下しているが、体型的にはよりスリムな日本人では増加している。なぜ?
A1:日本では喫煙者が多く、これが患者数を押し上げている。大幅値上げや喫煙に関する強い規制をかけないと減少させるのは難しいだろう。
Q2:健食に関し、副作用の軽減効果は?
A2: 国立健康・栄養研究所のサイトを参照されたい。副作用の軽減効果が認められているものもある。
Q3:PET診断は?
A3:スクリーニングの検診は健康者を対象にしたものである。PETは費用が高く、がん患者あるいは疑いの濃厚な人が受診する検査であり、全身への広がりチェックでは有効な方法と言える。しかし結果については偽陽性も偽陰性もあり得るし小さいものを見つけ過ぎる過剰診断となる場合もあるので、考慮のこと。
提案:がん対策情報が例えばgoogleサイトのトップに出るようにしてもらうと便利。
A:検討したい。
Q4:がんの治療成績については1999-2003年の診断例の集計結果であった。古くないか?
A4:5年生存率は診断から7-8年経過後でないと得られないので古いわけではない。過去データからより新しいデータについて予測し推計値で示す場合もあるが、信頼性の裏打ちは必要である。
Q5:がん患者の登録制度について
A5: 世界標準に従い、登録制度では本人の意思に関わらず全員分を登録してすべてのデータを集める。登録制度を広めるサイトを構築した。
Q6:前立腺と胃がんを罹患したが、どのようにカウントされるのか?
A6:がんの数でカウントするが、多重がんとしてもカウントする。
Q7:なぜ、がんだけが増えるのか?
A7:高齢者が増えているので従ってがん患者数が増えていること、また心臓病の場合はステントを入れるなどの治療で死亡者が減少しているからである。年齢を調整した集計方法では死亡率は減少している。高齢者人口が減れば、ピークは終わる。
Q8:最新医療の信頼性は?
A8:例えば陽子線治療があるが、治療費は高く、利用は罹患場所に因る。また、がんの診断法も色々あるが、確実性、特異性が必要である。
Q9:未承認の特殊な治療法を受けたい時は?
A9:製薬企業が行う臨床試験の公募があれば、応募すれば良いのでは。
Q10:がん検診で毎年のものと2年に1回のものがあるが?
A10:検診の間隔、検診開始はエビデンスに基づいて決めている。
Q11:がんの免疫療法の有効性は?
A11:現在も行われている例はあるが、エビデンスに基づく評価では無効となっている。新規抗がん剤、粒子線・陽子線治療、細胞実験レベルの治療及びがんワクチンなどは、評価が定まっていない最新治療に該当するものである。
以上
(記録者 後藤幸子)