H26年7月度セミナー報告「ナノファイバーで何ができるの」―ナノファイバーの可能性―
2014年 08月 15日H26年7月度(第145回) セミナー報告「ナノファイバーで何ができるの」―ナノファイバーの可能性―
1.日時 :2014年7月5日(土) 14:00〜16:50
2.場所 :品川区立総合区民会館「きゅりあん」 5F
3.参加者:33名
4.題目 :「ナノファイバーで何ができるの」―ナノファイバーの可能性―
5.講演者:株式会社ゼタ 代表取締役 高橋 光弘氏
<講演要旨>
ナノファイバーは比表面積が大きいこと、ナノサイズであること、超分子配列効果があることが特徴であり、そのメリットと応用分野には多くの期待がある。その製造に関してNEDOの「先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」で始まったが、その方式はESD(Electro Spray Deposition)法であった。しかし、現在ではESD法で大量生産が不可能であると言われ、ほとんどの研究機関、企業が撤退した。しかし、(株)ゼタでは、ESD法の研究下で開発した高温高速AIRを使用したシンプルな方法でナノファイバーの大量生産を可能にした。ここでは、これを利用した?PM2.5対策マスク及びフィルター、?油水分離、?海水の淡水化、?砂漠の緑化、?断熱・吸音材、?カーボンナノファイバーへの応用について紹介された。
●東京工業大学で行ったナノファイバー国家プロジェクト終了とともに
ESD(Electro-Spray Deposition)法を用いた3次元の積層ファイルターが製造できるナノファイバー量産装置の開発を開始したが、ESD法では放電による穴あき発生問題や2次元構造でフィルターが薄層になることによる圧力損失の増加など致命的な問題があることでESD法によるナノファイバー製造を断念したが、これらの欠点をカバーした夢の3次元構造のフィルター大量製造でZs(Zetta spinning)方式を開発した。
●2011年11月11日午前11時11分11秒に株式会社ゼタを設立し、ナノテクノロジーを使って自然環境の改善と世界の安全・安心に貢献することを会社の理念として「地球防衛軍」と称して、それに沿った製品開発を進めている。ゼタは1021を意味する。
●PM2.5対策マスク及びフィルター
・溶媒型Zs(Zetta Spinning)方式で作製。繊維径60nmのファイバーが積層されるので圧力損失が少なく、捕集効率が高い。すでに市販されているESD法によるマスクは、初期段階では静電気によって捕捉可能だが、電荷が抜けた状態では、PM2.5サイズの微粒子に関しては48%しか捕集出来ない。一方、Zettaマスクではフィルター1枚で約99%以上、重層した2〜4枚でほぼ100%捕集でき、ULPAフィルターの性能が付与されるのでPM0.5、PM0.1にも対応可能である。繊維径300nmでは抗菌効果が発現される。砂漠地帯の細かい砂対策にも利用可能。
・またインフルエンザウイルスはサイズが80-120nmでファイバーに捕集される(分子間力による作用と推察している)。
●油水分離
・PP、PET綿は超撥水性でC重油では自重の約100倍の油を吸収し水と分離することができる。
・応用事例:海難事故における油の回収(船にNF生産機を設置してペレットを原料に直接生産しながら回収)、機械油・植物油・パームオイルの回収、グリストラップから回収、化粧用あぶらとり紙等。
・バラスト水の処理:タンカーの載荷重量トン数の40%はバラストタンク容量であり、ナノファイバーシートで油を吸収できればこの空間が有効利用でき、経済効果が大きい。
・ナノファイバー+ホタテ抗(ホタテの殻)の組み合わせは抗菌効果が期待でき、バラスト水が殺菌でき、雨水や陸上養殖、建物のカビ防止などにも応用できる。
・ 撥水性シートを屋根にかけてスプリンクラーで散水することで、雪国にて雪下ろし不要にもなる。
●海水の淡水化・汚染水処理
・ゼタ膜蒸留法での淡水化は、太陽光や工場の排熱を利用する省エネな淡水化装置である。海水・汚水に非接触であることが特徴であり、メインテナンスフリーである。蒸気発生量が多く、高濃度海水による環境破壊もなく、浸透圧発電が可能なことである。
・世界には地下水がヒ素で汚染された地域もある。この装置を利用すれば、ローテクで安くてきれいな水が開発途上国でも飲めるようになる。福島の原発事故の汚染水処理についても蒸発しない核種の除去に使用できる。
●砂漠の緑化
・超撥水性ナノファイバー(PP、PET)で砂漠に貯水湖が作れる!
・乾燥した砂の上にファイバーを敷いてその上に砂を敷き詰めることで、雨季に降った大量の雨を貯水する。敷き詰めたナノファイバーには毛細管現象で水圧がかからないので、砂の厚みが100mでも耐えて、保水する。表面の砂は100cmほどが蒸発乾燥するがその下では水が保持される。
・また、水を含んだ砂の上面を撥水性ナノファイバーシート(径400nm)で覆えば、太陽光をほとんど回折反射するので遮光によって蒸発をくい止めることができる。
・農業での灌漑の排水の失敗による塩害で表層に溜まった塩の除去は難しい。その場合に、塩の表層の上に超撥水ナノファイバーシートを敷いて、塩を含まない砂・土壌をかければ、縁切りすることで塩害対策となる。
・福島原発事故後のセシウム汚染土についても同様にナノファイバーシートの上にきれいな土壌を積載することで汚染土対策となる。
●断熱・吸音
・ナノファイバーは羽毛の2倍の断熱性能を持ち、約30%軽い。蒸気を通し、水を遮断する性能を持つ。ホタテ抗と組み合わせれば殺菌消臭効果があるので、介護施設の布団や衣料に応用可能である。羽毛不足にも対応できる。
・現行の吸音材繊維径3-5ミクロンでは低周波音が吸収出来ないが、500nmのナノファイバーなら、低周波音も消去できる。
●カーボンナノファイバー
・アスファルトを原料に作製できるので安価。但し現段階では焼結出来ていない。
・電気抵抗がCNTと同等に銅の1/1000(常温超伝導物質)にできる可能性がある。これを利用して送電がAC(交流)送電からDC(直流)送電になれば、砂漠で太陽光発電し世界中に送電が可能である。電気二重層スーパーキャパシター(現在は活性炭で作製)、燃料電池、液体水素の吸蔵、リニアモーターカーなどへの応用が可能である。
Q&A
Q1:ESD(Electro-Spray Deposition)法でのファイバーの作製法?⇒図解説明があった。
Q2:パラスチックにナノファイバーを入れたら?⇒プラスチックにプラスチック素材を入れても意味はないと考える。
Q3:ビジネスプランは?⇒副社長が担当で、精力的に開始した。特許は社長高橋氏が所有。
Q4:中国での緑化計画は?⇒1つ話が進んでいる。サウジアラビアの砂漠&洪水に関する治水の話もある。
Q5:生分解性素材、例えばポリ乳酸については?⇒可能であり、依頼されたことがある。
Q6:PM2.5対策について?⇒中国から飛んで来る粒子のサイズは2〜10μmである。通常のファイルターで大きいものは除去されるが、小さいPM2.5は除去されないので室内に残留することになる。
以上
(記録者 後藤幸子)