H26年6月度セミナー報告「CFRTP(炭素繊維強化熱可塑性プラスチック)の実用化技術」
2014年 06月 18日科学技術者フォーラム 平成26年6月度セミナー(第144回)講演記録
「CFRTP(炭素繊維強化熱可塑性プラスチック)の実用化技術」
**簡易設備による炭素繊維強化熱可塑性複合材料の成形法の開発と機械的特性評価
日 時:平成26年6月7日(土) 14:00〜16:50
会 場:品川区立総合区民会館「きゅりあん」 5F第3講習室
参加者:44名
講 師:日本大学生産工学部機械工学科 邉 吾一 教授
講演要旨:
<従来技術CFRP入門>
CFRPとは炭素繊維と熱硬化性プラスチックを組み合わせた複合材料でCarbon Fiber Reinforced Plasticの略称である。また繊維の種類をガラス繊維に変えた場合はGFRPと表しガラス繊維強化プラスチック:Glass Fiber Reinforced Plasticの意味である。カーボン繊維は1本が5~7nmの太さの物を1000〜数万本を束(トウと言う)にして用いる。熱可塑硬化性樹脂は不飽和ポリエステルやエポキシを採用する。CFRPの用途は軽くて強い性質から航空機構造にもっぱら使われている。しかし、製造コストが高い、金属に比べ伸びが小さく、継ぎ手や切り欠き部の強度低下が大きい等の欠点もある。ちなみに先のB787機体の構造重量80トンの50%のCFRPが採用されている。今後、日本の環境適合型高性能小型航空機MRJ(70~90席クラス)の製造計画がありこの材料が採用される予定である。しかしながら航空機の需要のみでは将来の発展は望めなく、この要求に答えられるものは自動車への適用が考えられる。自動車が排出しているCO2ガスは全体の18.6%(2007年)であり、この軽量化が進めば燃費向上に結び付き地球環境の好転につながる。例えば車体のボデイをCFRPに置換すれば1380kgが930kgになり30%軽量化が可能であるという検討結果もある。また、実用化の例では動力伝達のプロペラシャフトがあり重量50%軽減され低振動化による静粛性向上、衝突時の安全性向上がメリットとして実現された。これら一部の乗用車に採用されてもコストがとても高価で一般車には採用できない。CFRPを採用している高級車の販売台数は500台・5年間でありとても需要拡大になっていないのが現状である。ここで
邉教授は自動車への応用する国内の動向と課題について説明しているが省略する。
<新技術CFRTP入門>
CFRTPとは炭素繊維と熱可塑性樹脂との複合材料である。ガラス繊維の場合は同様にGFRTPという。熱硬化性樹脂から熱可塑性樹脂に置換することによりどのような違いが生まれるかについて詳細な報告がなされた。その1つに現場重合がある。これは従来に比べ冷却過程がいらないためすぐに金型から取り出せる。例えば短時間の成形で継続成形の場合に冷却過程が必要ないため室温から成形温度まで繰り返し加熱する必要がないのでエネルギー消費量が少ない。特に邉教授が開発した低粘度のε-カプロラクタムは低分子・低粘度のため短時間で重合化し、ナイロン(PA6)樹脂になる。この方法を用いて成形する方法(RTM法)は真空にした金型に110℃に加熱した樹脂を流し込み炭素繊維にしみ込ませ真空圧を用いて加圧することにより約5分で完成する。真空にする理由は空気中の湿気がε-カプロラクタムの開環重合において触媒反応の効果を失わせるためであり、この方法をVaRTM成形法と言う。この方法は加熱温度160℃で重合時間が(1.2分)に加速できる。この方法で成形したプレートの強度試験結果について報告されたがここでは省略する。
結論として従来のCFRP成形法と比べてCFRTP成形法は温度を100℃低くでき、連続成形では冷却時間と加熱時間が極端に短縮でき、かつ ε-カプロラクタムを用いたCFRTPは曲げ強度でCFRPと同等であった。
私はこのセミナーに参加して次のように感じた。
1.従来のCFRPは成形時間が長く、コストが極端に高価であるため航空機や高級自動車など極一部の分野にしか需要がないものと考えていました。しかし、CFRTPはコストダウンの可能性から通常の自動車にも適用でき、需要拡大の可能性が考えられるようになった。
2.CFRTPの新応用分野として、無潤滑軸受、軽荷重の歯車、ボールベアリング、しゅう動面などに応用開発が進展すれば工作機械や産業機械(冷凍機、コンプレッサーなど)にも応用検討が考えられ大きく需要は増大するものと考えられる。
3.CFRTPが日本のもの作りの種になり得るものと考えられる。その先進性、新規性において非常に優れており、応用範囲が広大でその需要は大きいものと考えている。
最後に邉教授の今後のご活躍を期待します。 以上
記録者 STF副理事長 五十嵐 英夫