H26年3月度セミナー報告「素材から物づくりを変える」−放電プラズマ焼結(SPS)技術の最近の技術動向―
2014年 03月 31日H26年STF3月度(第141回) セミナー講演報告 H26年3月31日発行
1.題目 : セミナー報告「素材から物づくりを変える」−放電プラズマ焼結(SPS)技術の最近の技術動向―
2.講演者: 株式会社エヌジェーエス専務取締役SPSセンター長 鴇田 正雄 氏
3.日時 :2014年3月15日(土) 14:00〜16:45
4.場所 :品川区立総合区民会館「きゅりあん」 5F
5.参加者:講演 33名
<講演要旨>
機械的加圧とパルス通電加熱によって焼結、接合、合成を行う放電プラズマ焼結(SPS)法は、従来の焼結法に比べて、焼結時間が短く、低温領域で高密度焼結を実現でき、さらに省エネであるという大きな特長を持っている。本技術は、1960年代初頭にJAPAX(株)井上博士(社長)により発明された純国産化技術であり、1990年代に住友石炭鉱業が発展させ新しいSPS装置開発とともに難焼結・接合材料の安定迅速な焼結・接合が可能になり、粒界制御・粒成長制御焼結メカニズム解明やナノ材料、さらに特色ある高機能性材料が開発されている。特に高機能新材料としては、熱電発電素子材料、傾斜機能材料、ファインセラミックス、核汚染物質を閉じ込めるガラス代替材料などの開発が行われている。
近年、国内はもとより海外での本装置の導入と研究開発が活発化しており、多くの特許出願、論文投稿をふくめ、国際シンポジウム開催など国際的な広がりを見せている。
産業界で実用化例も多くあるが、先行企業のコア技術として企業社内事情により一般へその情報公開がなされず、本技術普及のPRや技術の進展の大きな阻害となっている。
現在、第5世代の装置の開発が始まっており、実用化の基盤技術の確立が目前に迫っている。
1. SPS装置と研究開発の世界的な広がり
・これまで世界で約700台、国内で450台以上と日本での普及が先行していたが、
近年、中国28台、米国19台、韓国16台、ロシア11台、フランス6台、台湾4台、(いずれも日本製台数)と急激に海外での研究開発が増大してる。
・SPSパルス通電焼結装置メーカーも日本に7社、中国・米国に各々3〜4社、ドイツ・
韓国他など併せて15社以上と海外が増えている。
・最近、世界最大の第5世代大型生産用システム装置納入し稼働開始中(プレス推力
600トン、最大パルス電流出力40,000A、ワーク最大外径450mm角、トンネル型
連続炉)。国プロの技術研究組合の採択テーマであるが納入先は開示不可
・長年SPS研究会や傾斜機能材料(FGMs)研究会や粉体粉末冶金学会・セラミッ
クス・金属学会などで論文発表や交流が行われ、最近は日本SPSコンソーシアム発
足による受託加工・研究開発支援体制も構築されている。
2. 放電プラズマ焼結技術の原理と特長
・焼結型(グラファイト製金型が多い)へ粉末を充填後加圧し、パルス大電流を流すこ
とにより、通電初期に粉末粒子間に放電プラズマが発生し、粒子表面が局所的に活性
化し同時に生じるジュール熱と併せ高温高圧状態となり急速拡散し結合する、と考え
られている。またパルス電流と電磁場により急速加熱と急冷が繰り返し行われるため
微細組織結晶構造が得られやすい、考えられている。
・従って、大幅な焼結温度の低温化と焼結時間の短縮が図れ、かつ結晶粒の粗大化が防
止され微細組織焼結体が得られる。これにより高密度、高品位の焼結体が得られる。
・この状態の発生原理についての裏付けはまだ未解明であり、解明が続けられている。
・ポイントは当該材料と用途・目的に合致した最適な条件を設定することであり、金型
設計、パルス電流条件などの最適化が課題である。
・他の従来焼結方法は、外部加熱方式などにより電力消費も大きく、また、焼結時間が
長く(例えば1昼夜)短時間迅速焼結の制御は困難なため結晶の粗大化が生じやすい。
・放電プラズマ焼結は、焼結温度が大幅に低く、焼結時間(昇温保持)は数分〜1時間以
内程度の自己発熱方式ため、消費電力は1/5〜1/3程度で、他の方法に比べ省エネ技
術となっている。加熱冷却時間が短いため、生産性の向上にも有効である。
・特に、組成が厚み方向で傾斜する傾斜機能材料(FGMs)創製やナノ材料・複合材
料には非常に適している。高分子材料にも応用可能である。
・粉末以外にもバルク材の拡散接合にも有効で異種材料の接合などに応用されている。
3. 応用例
(1)各種スパッターリングターゲット材(実用化)
(2)打ち抜きプレス金型用超微粒超硬合金(太田精器で実用化)
高密度(99−100%)、高硬度、高耐摩耗性
(2)非球面ガラスレンズ金型用WC超硬合金金型(実用化)・・バインダレス超硬
(3)WC/Co系ダイヤモンド精密切断ブレード(実用化)
薄肉でも変形せず焼結可能
(4)長寿命アルミナノズル(サンドブラスト用 実用化)
高密度(98−100%)
(5)高密度SiC焼結体(実用化)
高密度(98−100%)
(6)Si3N4/Al2O3系複合材料ホモジナイザー部品(実用化)
低温で高密度化可能
(7)WC/Ni系溶接可能FGM超硬合金押し出し機用スクリュー部品(実用化)
傾斜焼結体(組成が傾斜)
(8)カーボン/Al, Cu、カーボンナノチューブ(CNT)/Al複合系超放熱材料(実用化途上)
(9)人工関節バイオFGMs材料(Al2O3/Ti/Ti-6Al-4Vチタン合金)、人工歯根(HAP/Ti FGMs)
(10)フェノール樹脂/Cu傾斜機能材料 電気自動車用モータの整流子
(11)WC/Co系硬度傾斜のFGMs超硬合金 打ち抜きプレス金型用(実用化)
(12)ナノ結晶構造Al−Si合金の高速超塑性の実現
(13)高性能熱電変換材料(BiTe, FeSi, SiGe, CoSb, MgSi その他)
4. 質疑応答
(1) 三次元複雑形状は可能か?
・円筒・テーパ形状やダイカスト型のような緩やかな曲面形状は可能であるが現
状ではリブのような複雑形状は困難。将来テーマとして取り組みたい。
(2) パルス電源とパルス電流の最適条件は?
・従来はサイリスタ電源が主流。現在は研究用小型・中型機ではインバータ電源
が主流になりつつある。インバータ40,000A大出力容量で壊れない生産用新
機種を2年間実機で検証中。将来は、制御性、省電力から小型から大型機まで
インバータ化するものと考えている。
・これまでの経験結果から、サイリスタ電源では標準ON-OFFパルス幅比は12:2(約ON/40ms:OFF/7ms)としている。インバータでは1ms単位で任意に設定可能。
(3) セラミックス、高分子などの絶縁材料もプラズマ焼結可能とのことだが、その理由は何か?
・基本的に酸化物セラミックスのような絶縁性固体材料では放電は生じない。
但し、絶縁体でも放電有りの場合は表面に表皮電流が流れる現象である。また、
密閉容器のグラファイト焼結型内壁部で初期放電発生があれば微粒子が飛散
し、逐次的な放電の架橋となる。通常、導電性外型からのジュール加熱で高温
化すると電気抵抗が低くなるので通電焼結可能となると考えられる。パルス通
電では放電無しの場合でもジュール加熱と電磁場効果があり材料移動を促進
する効果がある。未だ詳細なメカニズムや現象解明は議論多く研究中。
(4) リサイクル材料への応用の可能性は?
・スクラップ原料を使用し焼結固化(バルク状にする)することで、ある種の複合
材としてリサイクル化が可能。一方、ターゲット材料では使用済みの残部を溶
解し、再度粉末化してこのリサイクル粉を焼結する方法が極めて有効で現在製
品で実施している。その他、様々な材料のリサイクル化にも応用可能と考えて
いる。
以上 (記録者 児山 豊)