H26年1月度セミナー報告「植込み型補助人工心臓の進歩と日本における役割」
2014年 03月 26日H26年1月度(第139回) セミナー講演報告
「植込み型補助人工心臓の進歩と日本における役割」
1.日時 :2014年1月10日(金) 14:00〜16:45
2.場所 :品川区立総合区民会館「きゅりあん」 5F
3.参加者:講演31名
4.題目 :「植込み型補助人工心臓の進歩と日本における役割」
5.講演者: 東京大学重症心不全治療開発講座 特任研究員
東京都健康長寿医療センター 副院長 許 俊鋭 氏
4.講演要旨
末期心不全患者のための補助人工治療心臓治療手術は大きな進歩を遂げ、埋込型補助人工心臓(LVAD)は小型化され耐久性が飛躍的に向上している。日本でも海外では一般化している心臓移植代替治療としての植込型LVAD治療臨床導入の準備を早急に進め、標準的な重症心不全治療となる必要がある。
*内容を理解するのに必要な言葉の説明
(1)LVAD(Left Ventricular Assist Device、左室補助人工心臓);(2)BTT(Bridge-to-Transplantation、心臓移植まで);(3)DT(Destination Therapy、最終治療;心臓移植を目的としない、在宅治療を目的とした長期補助 、心臓移植の代替療法)
○高齢者人口の増加に伴い心不全による死亡者の比率が増加、特に高齢者の 女性で増加。
○戦略市場創生プラン(1)国民の「健康寿命」の延伸の1つとして?未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業”に43億円の予算がついた事は、
人工心臓の開発、普及を目指す者には朗報。予防にお金を使えば治療や介護
より安価である。
○2013年、横浜で人工臓器に関するIFAO/JSAO/ISRBSの合同国際会議が開催
された。医療機器における技術革新、進歩、そして機器に対する信頼性は格段に進歩している。
○日本の人工心臓の発展
・1980年の初めて体外循環型のVADが使用されて以来、現在では植込型の4種類の第二世代(定常流ポンプ)及び第三世代(遠心ポンプ)のLVADが、2011年〜2014年に保険償還されて使用可能である。
・1980―2012年までの国内累計数は1477例。体外設置型VADでは、入院している必要がある。一方、最新型のLVADは小型で、全体が植込可能なので社会生活ができる。
○世界の心臓移植数は1980年代初期の免疫抑制剤が開発され、心臓移植数が
増加するにつれてVADがBTTに使用されるようになった。1990年代には心臓移植は4500人/年までに増加。
BTTにより臨床症状が改善することで、心移植までの長期待機が可能になった。欧米では年齢制限に関しては医療機関の方針で決定され特に制限はない。例 アメリカ前副大統領チェイニー氏(71歳、2年間JVAD→心臓移植)。日本では65歳
未満の症例が適応とされているが医学的根拠は乏しい。
○欧米では10年以上前から、心臓移植適応のない末期心不全患者に対するDTの保険償還が始まっている。BTT症例は2012年には21%まで減少し、DTが増加している。
◎日本の重症心不全治療のマイルストーン:植込み型LVAD臨床導入の軌跡⇒成功への鍵
・欧米に比べて植込型LVADの導入、普及が非常に遅い。
・臨床試験には多大の費用と期間が必要で、これが欧米に比し国内での植込型LVADの開発・導入・普及が遅れる大きな阻害因子になっていた。臨床例数が少なくても薬事承認がされ、また承認後の情報が収集できるよう、医療機器メーカーと協力して整備を推進した。薬事審査当局への働きかけ、陳情活動も行なった。
○導入・普及までの軌跡
・1997年の臓器移植法制定(法制下心臓移植開始)
・2006年植込型LVAD 開発・審査ガイドラインの制定。
・2008年植込型LVAD基準案策定・提言、協議会設立。
・2009年人工心臓管理技術士の認定制度、VAD研修コース。
・2010年、臓器移植法が改訂され、脳死は人の死と定義された。
・2010年JMACSレジストリ(日本の補助人工心臓市販後登録)。
・2011年学会主導の植込型LVAD実施施設(医)を認定。
・なお、JMACSレジストリは植込み型VADの性能把握の性能を把握し、併せて得られた情報を解析することにより、生存期間やQOL等に影響を与える因子の探索(解析)を行い、今後の重症心不全患者の臨床評価や臨床管理などに役立てるものである。
○2010年の臓器移植法の改訂後、心臓移植患者数とLVADの利用者数が増加。心臓移植後の予後は大変良く、10年生存率90%以上、15年生存率は77%である。提供される心臓数は増えていないので、移植までの待機期間は変化していない。
○2011年 国産植込型LVADの承認:◎印の項の努力が実り、テルモの
DuraHeartは国内臨床6例で申請から30ヶ月で、サンメディカルのEVAHEARTはパイロット、ピボタル合わせて18例で承認されBTT適用の保険償還が得られた。植込型LVADの承認により在宅治療が可能になり、社会復帰ができる。
○海外導入品の2機種も少数例の国内治験(各6例)で承認されている。
○2013年、心臓移植適応が65歳まで拡大した。
○生存率比較(5年):体外循環VAD 54.2% vs植込型LVAD 95.3%(圧倒的に良い)。
○医療機器の開発:
1)市販第一号モデルはスタート地点→欠陥あり。
2)術者の腕(技術・知識)なくしては語れない→最初はエキスパートのみが使用
可能。
3)改良なくして医療機器の完成は不可→改良の積み重ねで完成度の高いもの
となる。
○市販後調査の結果:2011年以降植込型VADが急増。国産品の1〜3年後の 生存率は91.6〜93%で高成績。海外の結果に比して10%以上も生存率が高い。その理由には国民皆保険で、調子が悪くなったら、すぐ受診できる日本の医療制度が貢献しているだろう。
○米国LVAD市場は5年で3-4倍に増加。心臓移植でなく、近い将来BTR(Bridge to Recover、心機能回復までの橋渡し)としての使用が増加してくる。BTRは薬物治療、両心室ペーシング、外科療法、再生医療への橋渡しになる。
○LVAD治療における日本の課題として1) DT(最終治療、心臓移植の代替療法)の承認、2)小児VADの開発・臨床導入、3)小型・高性能LVADの開発、4)植込型LVAD在宅治療の普及の4つがあり、取り組んでいる。
○世界では、長期使用型のVADの市場は急速拡大の兆候があり、それは移植の代替えとしての長期使用(DT)である。日本もここを目指している。 以上
(記録者 後藤幸子)