H25年9月度セミナー報告「マイクロ波リモートセンシング技術開発とその応用」
2013年 09月 26日H25年9月度(第135回) セミナー報告
1.日時 :2013年9月6日(水) 14:00〜16:40
2.場所 :品川区立総合区民会館「きゅりあん」 5F
3.参加者:講演 23名、懇親会 14名
4.題目 :マイクロ波リモートセンシング技術開発とその応用
5.講演者:千葉大学環境リモートセンシング研究センター
ヨサファット テトォコ スリ スマンティヨ 教授
6.結果記録文責:市吉修
講演要旨
ヨサファット教授はインドネシア政府に勤務(1991-1999)時に金沢大学に留学された。2002年に千葉大学電子光情報基盤技術研究センター講師、2005年に千葉大学環境リモートセンシング研究センターの准教授、2013年に同センター教授に就任。
研究の背景
日本は北アメリカ、ユーラシア、フィリピン海、太平洋プレートの境界に位置し、インドネシアはユーラシアとオーストラリア、オーストラリアと太平洋プレートの境界上にあり、共に地震が多い。日本は西日本の南方を走る南海トラフによる巨大地震が差し迫っている。三年前の東日本大地震では2万人、2004年のスマトラ沖大地震においてはインド洋沿岸を襲った津波によって数十万人の死者を出す大惨事が生じた。正確な地震の予知は困難であるがマグニチュード5以上の地震の予兆を捕らえる事を目的として「融合地球環境診断プログラム」研究を進めている。日本の文部科学省の資金(約3億円/4年間)も得て実行中である。
融合地球環境診断プログラム : 小型衛星群による大陸規模地殻変動の観測
<特長>
•小型衛星による安価なシステム開発、迅速展開によるタイムリーな情報の収集が可能。
•小型衛星に搭載可能な合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar:SAR)による高精度観測。
•複数の小型衛星による地理的広域、時間的高精度観測が可能。
<計画>
•GAIA-1
千葉大学環境リモートセンシング研究センター(CEReS)がGAIA-1小型衛星を開発する。
-広域、低解像度の大気物理情報、地殻観測用GNSS-ROセンサを搭載
•GAIA-2
CEReSがインドネシア宇宙航空局(LAPAN)と共同で開発する。
•期間 平成25 -28年度の4年間
•期待される社会的効果:社会災害軽減環境リモートセンシング技術の進歩
GAIA-1, GAIA-2小型衛星を用いた観測方法
GAIA-1 GNSS-RO (GNSS掩蔽法)
低軌道(LEO)衛星や航空機から見てGNSS(Global Navigation Satellite Systems)衛星が地平線に
没する(掩蔽)際に大気をかすめて伝播して来る電波を受信し、伝播経路の屈折角から大気屈折率の高度変化を求め、さらに気温、水蒸気量などを推定する。これにより電離層、海面、重力異常、大気密度分布、電離層電子密度、大気圏温度などの測定が可能である。大都市の地殻変動 電波発生 電離層に影響 電波の回折に影響、これを測定する事により地殻変動を捉える。実際に2011/3/7-10 東日本大震災時には震災日の前数日間電離層密度に変化が見られた。
GAIA-2には円偏波を用いる合成開口レーダ(CP-SAR)を搭載して観測を行う。電離層通過時のファラデー効果による偏波面の回転による受信の困難を避けられると同時にレーダ受信におけるチルト(傾き)角度の測定で地表の様態、例えば住宅地を判定できる。住宅の壁は垂直だからである。
以下数々のSAR画像の実測図が示された。
•東日本大震災(2011.3.11)関連では地表面の移動図(最大4m)と地震による地殻変動図(地震の前後の日のデータを干渉相関処理(InSAR)した図)が示された。いずれも見事に震源に対して同心円状の変化を示している。
•その他
ナイル砂漠の下には地表からは見えない地下水脈がある。ジャワ島中部地震(2006/5/27)においては最大20mもの地殻移動があった。 東部ジャワ県泥噴出事故(2006/5/29)は深刻な地盤沈下(24cm,地下水のくみ上げに起因)による事が明瞭に表示された。メラビ火山の噴火ではバンドン市の一部で地盤沈下が生じた。その他クアラルンプールの活断層の移動、ジャカルタ市内の地盤沈下、東京都内の地盤沈下をありありと示す実測図が示された。
質疑応答(Q&A)
Q.地震予知はできそうか。 A.正確な予知は困難だが数日前の予兆は検出可能である。
Qその画像技術は医学への応用があるのではないか。A.今後の研究テーマである。
Q チャープパルス発生器はFPGAで実現している事が示されたが受信部はAD変換の後はどういう処理をしているのか。 A. 衛星上にはデータを蓄積しておき、衛星が見えるところで地上局に伝送する。チャープパルスの相関処理またはパルス圧縮処理は地上で演算処理している。
Q このシステムは事業化できるのではないか。 A.あり得る。ちなみに、画像一枚50万円(PS-InSAR用のTerraSAR-Xの場合)の相場である。GAIA-IIの場合、1枚数千円の相場である。
所感
千葉大学はヨサファット研究室に典型的に見られるが非常に国際交流が盛んである。現在の大学のひとつの潮流が感じられた。