H25年6月度セミナー報告「地熱エネルギー利用の現状・課題と今後の展開について」
2013年 06月 13日H25年6月度セミナー(第132回)報告
「地熱エネルギー利用の現状・課題と今後の展開について」
報告者:市吉 修
日時:平成25年6月8日(土)14時〜16時45分
場所:品川区立総合区民会館「きゅりあん」5F 第4講習室
講師:九州大学名誉教授 NPO地熱情報研究所代表 江原 幸雄氏
http://igigeothermal.jp
講演内容の概要
莫大な地球内部の熱
[1] 地球体積の99%以上は1,000℃以上
中心は6,000度にもなるがこれは太陽の表面温度に匹敵する。
[2] 100℃以下は0.1%以下
[3] 地球内部に蓄えられている熱は10^13 EJ ( 1EJ=10^18J)
[4] 地球内部は高温、地表は低温なので常に熱が流出する。
[5] 使い切るには数十億年かかる。
地下の熱システム 地熱貯留層と温泉
地下のマグマ溜まりからの熱に地下水が触れて地熱貯留層や温泉となる。
多様な地熱エネルギー;温度による分類
[1] 超高温地熱( > 400℃) ; 将来型資源
[2] 高温地熱 (200-300℃) ; 地熱発電
[3] 低、中温地熱(数十から百数十度) ; 直接利用
バイナリー発電(アンモニア等の低沸点気体を使用)
[4] 地中熱(10 – 20℃) ; 第四の地熱
浅い地層、地下水の熱を利用。冷暖房。どこにでもある。
上の各項目について詳細な説明が行われた。
要点
地熱発電
- 地下のマグマや高温岩体を熱源として加熱された水を使って熱エネルギーを取り出す。
- 発電に不用な熱水は地下に還元させることによりヒ素などの有害物質を地下に閉じ込められる。発電に伴ってCO2を出さない。
- 日本はUSA、インドネシアに次ぐ世界第3位の地熱資源国。
- CO2の排出が小さく、EPR(Energy Profit Ratio)が高い。
- 地熱発電の賦存量は太陽光、風力発電より大きく(参考資料添付)天候に左右されない。
地熱発電の動向
- 世界は伸び、日本は停滞。
- Iceland ; 2030年に全電力を再生可能エネルギーにより発電予定。
- New Zealand ; 同上、90%の予定。
- Indonesia ; 2025年に同17%
- USA ; 2035年にClean energy 80%
日本の地熱発電の問題
(1) 発電コストが火力発電より高い(40年間程度の長期で見ると同程度)。--- 買取制度による解決。
(2) 国立公園問題
(3) 温泉問題 --- 発電用地熱貯留層(200−400℃)は地下深く(1000m-3000m)、また温泉用温水帯水層(100℃前後)は浅い(数百m)ので、相互に影響は小さい。ただし長期的にモニタリングについて要研究。
我が国最大(112MW)の九州電力八丁原地熱発電所(大分県九重町)の経験
(1) 地下貯留層の圧力変化と観測された重力変動はよく一致。
(2) それにより水の収支が明らかになった。発電に伴って失われる蒸気量は8.3Mtであるが、正味の水喪失は1Mt(1999-2000)で、7.3Mtの補給があることを示している。
(3) 発電に伴って失われる地熱貯留層内の熱水量(発電に使用された蒸気)と地熱貯留層に補給される熱水量をバランスさせることができる(持続可能な発電)。
持続可能な地熱発電を実現することで
(1) 高い経済性を維持
(2) 温泉への影響最小化(地下流体のバランスを維持)
(3) 最小限の補充井掘削
質疑応答
(1) 地震誘発の可能性は? 高温岩体発電やEGS発電など圧力で水を押し込む場合はあり得る。しかし、通常の自然流下による熱水還元ではそのリスクは小さい。
(2) 耐PH素材の必要は? 重要。日本製品が蒸気タービン供給の世界の7割のshareを占めるほど信頼されている。
家屋の冷暖房応用
(1) 都市の温暖化の原因は地球温暖化によるものよりも、Heat island現象によるものの方が大きい。
(2) 地中熱冷暖房は空気中に排熱を出さない。
また夏は地中に蓄熱、冬はそれを使用する利点あり。
(3) 九州大学でモデル住宅にヒートポンプ熱交換システムで実験中。
質疑応答
(1) 地中パイプの深さは? 約60mである。但し螺旋型パイプで地中浅く設置するのもあり。
(2) 材質は? 塩化ビニールのU字管。
火山熱利用
(1) 研究中。
(2) 噴火予知は可能か? 正確ではないが火山活動の傾向は把握可能。観測が行われている火山では、寝耳に水のようなことはないと考えられる。
(3) 実用化のめど 火山から熱を取り出し熱利用をしながら、噴火活動を制御するということが実現するのは数10年のタイムスケールではないか。
Engineered Geothermal System技術では必ずしも発電利用だけでなく直接熱利用も重要。
地熱井から生産されるのは、蒸気1に対し熱水4の量が得られるので、この熱水を有効利用することも大事。
将来(たとえば2050年)のエネルギー構成 特定のエネルギーだけではなく、 Energy Mixが重要。
参加人員は37名、熱心な質疑応答が交わされた。