H25年4月度セミナー報告「大気汚染物の硫酸と世界の樹木の立ち枯れの関係」
2013年 04月 22日2013年4月20日
科学技術者フォーラム STFセミナー 報告
「大気汚染物の硫酸と世界の樹木の立ち枯れの関係」
木炭による立ち枯れ防止
日時:2013年4月5日 14:00〜17:00
場所:品川きゅうりあん 5階
講演者:東邦大学 元理学部教授 大森 禎子
参加者:20名
記録:碇 貴臣
講演要旨
セミナーでは、世界中の樹木は化石燃料の燃焼で発生する硫酸が大気中に放散している影響で立ち枯れしているとの報告がありました。
立ち枯れが起こっているところは、工業地帯が多数ある、北半球だけでなく、南半球の、大気汚染には無縁に考えられるアルゼンチンのフエゴ島、ニュージーランドの南島にも及んでおり、この汚染は世界的なものと考えられています。
立ち枯れが起こっている場所については先生自らが現地調査されたところ、現地からの報告等の写真が紹介されました。
しかし、この立ち枯れは害虫が樹木を食い荒らす結果とされており、立ち枯れの原因が酸性雨からきていることはあまり認識されていないため、害虫の駆除、害虫に対する耐性樹木の開発が対策の中心になっており、そのための弊害も多く見られていると説明されました。
害虫による立ち枯れが起こっているところは風の通過量が多い所で起こり、風の通過量が少ない場所では立ち枯れが起こっていない。また、その土壌を調べると、硫酸イオン濃度が高くなっている。また、この傾向は、針葉常緑樹(シラビソ、コメツガ、マツ)、成長した大木の広葉樹(ナラ、スダジイ、シナノキ)で顕著であることが確認されている。
これは、空中に漂う硫酸は樹木の表面積に比例して付着して、雨で地面に落とし、土壌中の硫酸濃度が高くなると説明された。
土壌は硫酸濃度が高くなると土壌成分を溶解し、このため、土壌から溶出する金属イオン(Al3+、Fe3+)が、樹木に吸収されてリン酸と化合して不溶性の金属リン酸塩になる。この影響で樹木はリン酸不足となり生存の阻害を受けると説明がなされた。
マツはリン酸不足により樹脂の生成量が減少し、ナラ等はタンニンがFe3+イオンと化合することにより無毒化してしまう。これらの影響で、昆虫は食料と住居が容易に獲保でき、樹木の中で大繁殖し、樹木を立ち枯れさせてしまう。
この対策として、木炭を土壌に撒くことで、樹木の立ち枯れを防止することができる。樹木は、成長のためにNa、K、Mg、Ca、Pを土壌から吸収し、樹木を炭化するとそれらの元素は炭酸化合物か酸化物として木炭の中に残る。その中のアルカリ化合物に雨水が加わるとアルカリ溶液になる。*酸性土壌を中和し、土壌が酸性になることを防ぐ。*残ったNa、K、Mg、Ca、P等無機元素は必要な割合で含まれる理想的な栄養補給源となる。*木炭は保水剤や土壌微生物の住み家となって土壌を活性化する。
樹木の立ち枯れの直接の原因は虫害であるが、その根本的な原因は土壌の酸性化である。しかし、現在も立ち枯れの原因は昆虫とされて殺虫剤が撒かれ、目的の害虫ばかりでなく他の昆虫も殺傷している。このため、虫媒花の樹木の子孫が無くなる可能性があり心配であるとの懸念を述べられていた。
大森先生の主張は樹木の立ち枯れが害虫による被害と言うことで対策が練られているが、根本的な原因は化石燃料の燃焼による発生する硫酸の影響であり、これは木炭を使用することで、現在より効率的に立ち枯れ対策をすることが可能ではないかと提案された。
講演当日は悪天候でした。このため、講演参加者が少なかったこと、また、講演終了後の懇親会が中止になったことは、非常に残念でした。
以上