H25年3月度セミナー報告(第129回)「慣性センサの現状技術・耐性、問題点と解決策の提案―多次元への対応」
2013年 04月 17日H25年3月度(第129回) セミナー報告
「慣性センサの現状技術・耐性、問題点と解決策の提案―多次元への対応」
1.日時 :2013年3月20日(木) 14:00〜16:30
2.場所 :品川区立総合区民会館「きゅりあん」 5F 第3講習室
3.参加者:27名
3.題目 :「慣性センサの現状技術・耐性、問題点と解決策の提案―多次元への対応」
4.講演者:
産業技術総合研究所 評価部 シニアスタッフ
産総研ベンチャー・株式会社ベクトル・ダイナミックス CTO
梅田 章 氏
5.記録 :児山 豊
講演要旨
加速度計は多くの分野に使用されているが、その性能評価方法は3次元の空間でのベクトル表示を行い、センサの感度を定義すべきであるが、現状は、主軸感度は一軸、横感度は3次元で定義されている。
現在ISO規格でも、主軸感度は一次元空間で定義され、横感度は3次元空間で定義されており、同一のデバイスに関するパラメータが異なる空間で定義されるのは不自然な状態である。
このため、多軸慣性センサの校正方法は現在存在していない。
この解決策として、出力加速度ベクトル=感度マトリックスx入力加速度ベクトルとしての加速度を数学的に求める方法を考案した。感度はマトリックスである。(行列で表示)
この方法により、新たに開発した多軸振動台での加速度計のベクトル評価を行った。この結果、多軸化になると横感度が無視できなくなり、3軸では5%、6軸では13%もの誤差が生ずることが分かった。
本方法を用いて検定するための組織としてベンチャーを創設し、校正委託やコンサルティングを行うことになった。欧米での特許取得も済んでいること、基本的な考え方はIEC607474−14−4は半導体加速度センサに記述されているので、今後この方式が日本発の実効的国際標準になると考えられる。
主な内容
1.加速度計の性能評価の方法の現状とその問題点
従来の校正方法(ISO16063−11規格)では主軸感度は感度軸方向に運動を印加し、運動の計測御加速度計の出力を比較して求められるし、主軸に直行する平面上の任意の加速度を印加して出力を計り、最大値あるいは最小値として横感度を決めている。
特に、前者は「方向は既知」を意味するので、加速度をベクトル量とは見なしていない。横感度は主軸感度の誤差要因として認識されており、三次元空間で一軸加速度センサの感度が正しく定義されていない。
2.計測標準の考え方
計測標準の国際組織としては、ISO/TC108/SC3/WG6があり、これに対応した国内委員会が各国にある。日本では、経産省が日本機械学会にISO/TC108/活動を委託している。
3.MEMS加速度計と従来からの加速度計
MEMS加速度計の特徴は多方向の加速度の検出を可能にする構造となっている。
従って、従来の多軸評価できないISO規格では、正しい校正は不可能である。現在多くの分野に半導体加速度計が使用されているが、その精度は保証されていない。
4.加速度はそもそもベクトルである。
出力加速度ベクトル=感度マトリックスx入力加速度ベクトルと表示できる。
感度マトリックスのすべての成分をある振動数の関数として出すことが、その振動数における校正である。(詳細数式は省く)
3軸加速度センサの場合、出力加速度ベクトル=感度マトリックスx入力加速度ベクトルとなる。感度はマトリックスとして定義され連立1次方程式から導かれ、感度マトリックスのすべての成分をある振動数の関数として表すことが、その振動数での校正となる。
5.開発の状況
三軸三自由度振動台及び六軸振動台を新たに開発し、加速度計の校正を行った。
6.何故ベンチャーか?
産総研ベンチャーセンタの支援により、(株)ベクトルダイナミックを設立し、多軸加速度計の高度かつ定量的な応用に対応可能とした。
7.多軸自由度振動台の開発の様子(写真)
後日、児山が訪問し、三軸、六軸振動台を見学した。振動はボイスコイルモータ(VCM)で各軸を駆動して与える構造。八戸に移設中であった。
8.応用例の紹介
多軸加速度センサーの応用として下記分野が考えられる。
・自動車(衝突安全、乗り心地改善、カーナビ)
・ゲーム機
・携帯電話
・家電(洗濯機、ストーブの耐震性確保)
・自信探査、物理探査、地震計、各種耐震性確保
・鉄道、鉄道車両、道路、高速道路、送電ケーブル、橋、建築構造物耐震性
・エレベータ
・防犯
・宇宙・航空、潜水艦、ミサイル
・人体振動、車両乗り心地
感想
今後あらゆる分野で使用される多軸加速度センサの校正方法が不正確である事を初めて知った。計測とは、まず実験的に明確に定義された標準が基本となると考えていたが、加速度の計測標準の現状はそうでなく、梅田氏がそれに果敢に挑戦して、世界で初めて正しい校正方法を確立したことに感動した。
今後ベンチャーで校正の委託などを行うことにより、この方法が日本発の国際標準となること期待します。