H24年9月度(第123回)セミナー報告「パワーアシストスーツの開発について」
2012年 11月 02日H24年9月度セミナー(第123回)「パワーアシストスーツの開発について」
H24年9月度セミナー(第123回)報告
「パワーアシストスーツの開発について」
日時:平成24年9月5日(水)14時〜16時50分
場所 品川区立総合区民会館「きゅりあん」5F 第3講習室
講師 神奈川工科大学 副学長 創造工学部ロボット・メカトロニクス学科 教授 山本 圭治郎 氏
講演内容
超高齢化社会を迎えた日本においては介護力の確保が急務となっている。既に、人的パワーの不足は将来も解消が困難であると予想されており、ロボットの導入が真剣に検討され始めている。しかし、 自律型の人型ロボットに介護作業を任せるには安全性、倫理面の課題を解消する必要があり実現性は低いと思われる。
この問題を解決するために、職業病といわれる腰痛を防止するパワーアシストスーツを開発してきた。特徴は安全に柔らかく力を添えることが可能な空気の力を利用したアクチュエータにより各関節をアシストする方式のものである。アクチュエータとしてエアバッグを利用した介護用アシストスーツとベローズを利用したリハビリ用アシストスーツの開発内容を解説した。
(1)パワーアシストスーツの開発例紹介
モータ駆動によるロボットスーツ、筑波大学のHALに代表される。
アメリカでは軍用に油圧駆動によるロボットスーツが開発されている。
空気圧駆動によるアシストスーツはマッキベン型、エアバッグ型、エアリンダ型などがある。
(2)アシストユニットの駆動・制御システム
油圧制御システム
高圧により高出力を得ることができるため小型化が可能であり、精度が高く、スピードが速い等の利点があるが、高圧を制御伝達するためにはシリンダー、ポンプ、バルブ、配管が高圧に耐えられる必要があり、重量が重くなる問題がある。また、油を使用するため、介護の様に通常の室内で使用するには不向きである。
モータ駆動システム
ロボットなどで幅広く使われているが、動作を早く、また自由に動けるようにするためには、出力が大きなモータに減速機、クラッチ等の機構が必要となり、大型で重くなってしまう問題がある。
また、電源が切れた状態で人が自由に動くには、駆動系の抵抗が大きく動きにくいという問題がある。
エア駆動方式
アクチュエータとして、螺旋チューブ、エアマッスル、エアバック、エアシリンダを用いた関節駆動方式がある。
エアアクチュエータは位置精度が低く高出力が得られない等の難点があるが、軽量で柔軟性のあるシステムが作れる利点がある。
(3)エアバッグ式パワーアシストスーツの開発
介護用では、万一の誤動作も許されないため全自動ロボットの使用は難しい、また監視が必要となり、完全無人化はできないなどの問題がある。また、介護される側の安心感として、作業する人と密着でき表情も見えることが必要であり、作業者の前面に障害となる部品がない要がある。介護用としては、被介護者また作業者に危害が及ばないよう、やさしく安全にアシストする必要性があり、エア駆動方式のパワーアシストスーツの開発を進めた。
ベッドから車椅子への移乗介護動作をアシストするための軽量・高出力のアクチュエータとして、小型軽量なエアポンプとエアバッグを組み合わせたロータリアクチュエータを開発し、ウエアラブルなパワーアシストスーツを実現した。また、筋肉が発揮している力を確実に検出できる方法として筋肉の硬さにより検出する筋肉センサを開発し、制御信号を得ている。
エアポンプは小型のダイヤフラムポンプを用い、空気圧出力の制御はポンプのON−OFFで行っている。
関節の角度に応じて必要とす関節トルクを組み込みコンピュータで計算し基準値とし、これに筋肉の硬さに応じた値を加算して持ち上げあるいは下しのために必要なトルクを発生するようアクチュエータに空気圧を供給する方式としている。
パワーアシストスーツを着て、40Kgの鉄板を持ち上げる実験した結果、パワーアシストスーツなしで20Kgの鉄板持ち上げた場合より、筋肉の負担が小さいことが証明され、十分に機能していることが分かった。
(4)リハビリへの展開
エアバッグは膨らむ時にしか力を出すことができない、そこで、収縮する力も利用できる樹脂製のベローズと空気圧との組み合わせによる、軽量で柔らかなアクチュエータを実現できた。給気と吸気を切り替えられるポンプにより、あるいは正圧と負圧のエアタンクを切り替えることにより、容易に正負のトルクを発生させて関節の屈曲伸展運動を柔らかく安全にアシストすることができる。これを応用しリハビリ用のアシストハンド、アシストレッグを開発している。
事故や病気で麻痺した手や足に、アシストハンドやアシストレッグを装着して、患者の意思に従った運動をアシストすることで、個人差はあるが、通常のリハビリに較べて、短時間で効果が表れることが分かった。
(5)今後の課題と方向性
パワーアシストの構造は外骨格であるので肩のような複雑な動きをする関節にはまだ対応できていない、可動範囲が大きくなるほど複雑で重くなり実用性がなくなってしまう。
パワーアシストはできるだけ道具に近い、複雑でないものの方が好ましいと考える。
使う側としては、負荷重量を意識して使う必要がある、アシストに頼りすぎ、慣れ過ぎると、通常の作業に弊害が出る可能性があることを理解して使う必要がある。
質疑応答と感想
海外では、介護用のパワーアシストについて研究はされていない、日本独自の技術と思う。
リハビリ用の方が実用性と効果がありそう。
以上
報告者 木村 茂雄