H24年8月度(第122回)セミナー報告「航空機産業の課題と中小企業の取り組みについて」
2012年 08月 23日H24年8月度セミナー(第122回)報告
「航空機産業の課題と中小企業の取り組みについて」
報告者 西野 近
日時:平成24年8月7日(火)14時〜16時50分
場所:品川区立総合区民会館「きゅりあん」5F 第4講習室
講師:JASPA株式会社 取締役企画連携担当 千田 泰弘 氏
参加者:49名
講演内容
序.
・今年は戦後初の国産旅客機YS11が1962年8月30日初飛行して50周年を迎えるため、8月22日東京大学にて特別のフォーラムを開催する(航空イノベーションフォーラム YS11初飛行〜日本の航空技術・産業の今と未来〜)。
・GHQ占領時代航空機の開発は禁止されていたが、その後東京大学木村教授がかっての戦闘機設計者であった三菱重工の堀越氏・東条氏らを集めて航空機の設計を開始、その技術を国が国営企業(日本航空機製造)として引継ぎYS11を設計・制作、1983年合計183機を製造して終了。技術は良かったが、営業で失敗(大赤字)した。
1. 航空機産業の概要
・世界の航空機産業は右肩上がりに成長する産業で、世界年平均4.8%の伸び率と予想されており、経産省も航空機分野はこれからの成長産業と位置付けている。
・日本航空機開発協会(JADC)によると、2011年基点2031年の世界の航空旅客は2.6倍に拡大すると予測され、その内アジア/太平洋が37%を占める。また、小型機(19席以下)から大型機(20席以上)を含むジェット機の合計基数も大幅に伸び、特に120〜169席の新規需要が大幅増加する。これは環境規制が厳しくなっているため。更に、カナダのボンバルディア社やブラジルのエンブラエル社の主力機である100席以下のRegional Jet(地域旅客機)の需要は今後とも大きく伸びると予想される中で、三菱重工では最先端技術(GTFエンジン)を織り込んだ国産機MRJの開発が進められており、来年試験機初飛行を計画している(現時点受注数230機)。
・航空機技術の他産業への波及効果は自動車の3倍、付加価値は10倍以上である。ちなみに部品点数で見ると、自動車は20,000〜30,000であるが、航空機は自動車の100倍になる。
・航空機産業と宇宙産業についてみると、世界の航空機産業規模は60兆円に対し、宇宙産業は1/10の規模である。航空機の平均使用寿命は27年であることから、ビジネスとしては20〜40年の継続性(After follow必要)があるが、宇宙産業は短期である。
・軍用機は航空機としての商品価値はない。現在オスプレイの安全性が問題になっているが、軍用機は法による安全認定は不要であるので受けていないし、受ける必要も無い。
米軍は、現状軍用機として使用されているヘリコプターの欠点(航続距離が短い・燃費が悪い)を解決し、垂直離着陸ができ機動性の高いオスプレイを主力機種にしようとしている。
2. 航空機産業の特殊性
・製造から使用まで厳しい国の規制(型式認定、耐空証明等 世界共通)があるため、新規参入の障壁は高い。巨額の初期投資が必要であり、Maintenance Repair Overhaul (MRO)ビジネスを含め、長期間かけた回収とならざるを得ずリスクの高いビジネス。
・国内企業の航空機ビジネスは事業部の一部門に過ぎないが、海外企業はM&Aを繰り返し規模の拡大を進めている。
・安全性を担保する世界共通の品質基準と、これを経済的に実現する製造体制が求められ、かつ、日本の法制度の特殊性が加わる。
3.航空機関連市場と中小企業の機会
・旅客機市場は下請けの機会、参入に大きな障壁あり、打破には新技術の提案が必要。
・現在小型機(20人以下)は60%がプロペラ機で、残りがJet機であるが、世界的に今後はBusiness Jetの伸びが大きくなる。ホンダのBusiness Jet(6人乗り)、LSA (Light Sports Aviation 2人乗り)等。現在、日本には50数機しかなく、GDPあたりの所有数では米国の1/60。参入には商品開発、新技術の提案が必要。
・スカイスポーツ用航空機 (グライダー、ハングライダー、パラグライダー等) 市場は中小企業の独壇場
・他に、部品市場、MRO市場(今後の日本の成長分野であり、本年7月に政府の規制緩和委員会が規制の緩和を提言)。
4.世界の中小企業の取り組みと支援体制
・欧米の航空機コンソーシアムは全国規模で作られるため、各国2〜3の大きなコンソーシアムが作られている。従って、航空機の制作は加工・処理・組立の一貫体制。
・国内では機体メーカーと単一工程を持つ加工メーカーとの間を何度も行き来しながら、加工・処理・組立を行ってきたが、効率化を図るべく一貫生産のためのネットワーク・コンソーシアムを構築しつつある。
・国内航空機コンソーシアムは地方規模で15あり、特に地方自治体の取組みが顕著である(東京都、新潟市、神奈川県、愛知県、岡山県等)。
5.JASPAの活動の紹介
・「まんてんプロジェクト」は航空宇宙関連部品を開発・製造するための航空宇宙関連部品調達支援コンソーシアムで、航空宇宙関連市場への直接参入が難しい個々の中小企業の弱点を克服すべく2003年9月に設立され、現在の会員数は約100社(15都道府県)。
当プロジェクトは任意団体であるため、ビジネス取引の対象となりにくいことから会員有志が共同出資を行い、契約行為のできる法人としてJASPA?を設立した。
・JASPA?の業務内容は、品質保証、受発注、プロジェクトマネジメント、調査・コンサルティングの受託、海外展開であり、具体的な活動事例として、部品外注の受け皿(サプライチェーンACPC)・自主製品開発(素材や部品の開発、無人機用ジェットエンジンの開発)、海外コンソーシアムとの連携(チェコ航空宇宙コンソーシアム・カナダケベック州CRIAQ)があげられる。
6.今後の課題
航空機産業振興の基本方針(政府)ができていない、関連法規の整備と近代化(現在法規はYS11製造時に製造企業乱立防止のために作られた法規である)、国産小型航空機開発環境の整備及び人材育成を挙げられている。
7.質疑応答
・Q:オスプレイのトラブルについて A:米国国防省には発表の義務なし。操縦が難しいといわれているが、誤操縦のRecovery機能が十分ではなさそう。
・Q:日本の軍用機について A:FX35は自国で作りたいが、アメリカは作らせない。
政府しか買わない商品であるから当然米国政府は取引に口を出せるし、自分の開発したものを売りたいだろう。
・Q:日本で航空機産業が発展しない理由は A:小型機の開発に取り組んでいるが、日本だけのマーケットでなく、全世界を対象に取り組まないと発展はない。YS11については国営企業を民間企業にして継続すればよかったが、事業をいきなりゼロにしたのは惜しいと思う。
以上