平成24年4月度セミナー(第118回)「農業分野における地球温暖化緩和策の取組」
2012年 05月 05日科学技術者フォーラム平成24年4月度(第118回)セミナー記録
H24年4月21日 記録 松尾
「農業分野における地球温暖化緩和策の取組」
(独)農研機構 農村工学研究所 水田汎用化システム研究チーム併任地球温暖化対策研究チーム
主任研究員 北川 巌 氏
日時:平成24年4月21日(土)14:00〜16:50
講演終了後近くの会場で講師を交え懇親会を開催(19時ころまで)
会場:品川区立総合区民会館「きゅりあん」5F第3講習室
参加者:会員21名+友好会員2名 計23名
講演要旨
地球温暖化は、水資源や生態系、健康のほか、農林水産業・食料問題に深刻な影響を及ぼすと予想、世界的な対応策が実行されている、「農業分野における地球温暖化緩和策の取組」について下記要旨の講演があった。
1. 地球温暖化と世界の農業情勢
温暖化により降雨量は日本・中国等は増加傾向、アメリカ・インド等の乾燥地帯はさらに乾燥が予想される、人口増、途上国の経済発展に伴い食料・資源需要は増加、土地・水など農業に必要な資源は減少、温暖化条件下でも食料自給力の向上対策は必要となる、農業では実質的温暖化緩和策の実施が必要
2.地球温暖化と日本の対応
地球の気温変動予測A1B(世界経済格差縮小)では温暖化は進み100年後2〜3℃上昇を予想、炭素収支は人間活動がなければ自然はバランスしている。大気中の炭素量は7,600億t(人間活動による大気中の炭素増加量は1600億t)、土壌の炭素蓄積量は20,000億t, 2007年温出効果ガス排出量13億7400万t、農林水産分野の排出量は4%,工業分野が圧倒的に多い。日本は京都議定書で森林経営を選択、日本の森林吸収量1,300万t-C(4700万t-CO2)が認められる、農業でも基本的には同様の炭素貯留が可能。
2a.地球温暖化と農業
温暖化の影響・気候:激しい雨、突然の雨、雪の降る所や量が変わる、・自然:昆虫や植物の生息場所が変る、・
衛生:熱帯の病気になり易くなる、・生活:水不足、電気使用量が増化、・農業:農作物に適した場所が変り味
や型が悪くなる、・地球:洪水や水不足が起こる、海面上昇で島が削られる、農業技術は気象条件の克服が主
な動機で、日本では冷害対策が着実に進んできた,すでに高温対策も同様に進んでいる。
3.今後の日本の対応(農業分野)
COP17で日本は京都議定書第二約束期間の不参加を表明,公平かつ実効性ある国際枠組みの構築に、
2013年以降について新たな作業部会の設置を提案、我国は新しいエネルギーベストミックス戦略・計画等により温
暖化対策検討を進める。現在農地管理は日本に合った方法を検討中、作物残渣等の有機物投入等によ
り土壌炭素を管理する取り組みを検討中。炭素貯留技術確立に向けて、土壌炭素貯留モデル事業炭素
貯留関連基盤整備実験事業、地球温暖化防止に貢献する農地基盤整備推進調査の3項目を進めている
4.農業分野の温暖化緩和策研究
農林水産分野における地球温暖化対策研究 (第一分野)農林水産分野に温暖化緩和技術及び適応技術
の開発、(第二分野)低投入・循環型食料生産の実現に向けた技術開発、(第三分野)ゲノム情報を活用
した気候変動適用品種の開発、(第四分野)Dアジア地域熱帯林の森林減少・劣化対策支援システムの開発、
が進められている。(北川主任研究員は第二分野の農地下層における炭素長期貯留技術の開発を担当)
4a.農地土壌の炭素貯留技術とは
植物は太陽光と気中の二酸化炭素CO2を吸収、光合成で有機物が作られる、これらは出来るだけ農
地に混ぜて二酸化炭素を炭素に変えて地中に蓄える。有機的農業の水田では土壌炭素の減少は見ら
れないが、収奪的農業の畑では土壌炭素の減少は著しい。すべての畑で炭素が1.7%減ると年1,600
万t、現在の農林水産業から出る量の約4,000万tの約40%になる。有機物は土に深く埋めた方が
分解は少なく、土に炭素を多く蓄えて置くことができる。
5.農地下層における炭素貯留技術
農地整備を活用した炭素長期貯留技術の開発は、冷帯は道立総研中央農業試験場・温帯は農村工学研究所(中核機関)、亜熱帯は沖縄県農業研究センターで行っている。炭素貯留技術の開発・温出効果ガスの排出量、吸収量の収支・農業技術評価・炭素貯留技術の全国的ポテンシャル評価を行っている。 有機物を埋設する新しい土層改良ではカッティングソイラー工法(特許出願中)を開発した、?堆肥を畑表面に散布、?溝を切断掘削して、同時に表面の堆肥を集めて溝に落とす、?埋め戻して完成、最小限の掘削で心土が露出しない、施工機で復路に踏圧し、深さ50〜80cmのところに埋設できる。モミガガラ・木材チップ等の疎水材を利用した暗渠排水の炭素残存量の経年変化を15年に渡り測定の結果、木材チップ炭素残存量11.4tCO2/ha,炭素残存率49.5%、モミガラ炭素残存量0.6tCO2/ha、炭素残存率5.4%と木材チップが良い。有機物を深く埋める本来の目的は、悪い土を改良することにある、深い場所に埋めた有機物の炭素は10年経っても半分以上は蓄えられている。
有機資材の炭素残存率の推定式 yt =abt+cdt+fgt ytは有機物炭素残存率、tは経過年数投入量と比較した異なる2年分の炭素残存率の実測値とその年数をそれぞれ式に代入して連立方程式を解きa,c,fの係数をきめ、例えば1年と2年の実測値で推定する。複数の年数の実測値による回帰式と実測した2年分の平均値による推定式で15年程度の変化を推定できる。
多様な有機質資材の分解特性及び気候帯別分解特性を北海道2土壌、つくば3土壌、沖縄1土壌
でデーター採取中、つくばではトドマツ、モミガラ、抜根粉砕,ワラ類、木炭、広葉樹等13種調査中。
国連から炭素貯留量の他、実際に整備農地から出る温出効果ガスの排出量も重要との指摘があり整備農地(畑)からの温出効果ガスの排出を農工研(温帯)のライシメーター(5土壌型)で有機資材のモミガラ・バーク堆肥・木材チップの補助暗渠を設置し、温出効果ガス排出量の環境への影響を調査、有材心土破壊区と表層混和からCO2フラックスの推移を調べた、結果有機材の投入量に応じ気温の高い時期に多く出る、表層混和と下層埋設の差は不明が判る、埋設区の投入量の異なる調査を加え実施中。
6.温暖化対策の経済活動との連携
京都メカニズムでは、クリーン開発メカニズム、排出量取引、共同実施の項目を、国外へ技術を提供し共同で
実施、削減されたCO2は日本の実績としてカウントが認められていた、しかし国内での資金循環がないこと
から、国内の自主的削減プロジェクト(京都メカニズム国内試行版)オフセット・クレジット(J-VER環境省)を策定し試
行している。企業・各団体・コンサルタントが削減活動プロジェクトを提案してオフセット・クレジットとして認可を受け希
望する企業・市町村・各団体等より料金を受領し、技術を提供、CO2削減量を相手に渡す取り組みを試
行中(削減量など結果の審査は行われる)、主に森林管理が多くほとんどを占める、プロジェクトの例として
はCO2削減量が300t/年とか27,700t/年など小さなものから大きなものまである。 ヤナギについては放
置されている水田に植えて数年でヤナギを収穫しチップボイラーの燃料に利用出来る技術を確立しJ-VER
に載るようになればヤナギの燃料利用に発展できる。 バイオエネルギー部会で指導(北川主任研究員)を受け
ている上尾ヤナギ畑について開始から3年を経過、優良種に7種のヤナギからタチヤナギを選抜1年で台切、2
年育成のデ―ターが出たところであり、J-VERに認められるには多くのデーターと検証が必要になる、各
地域でデーターが整備されればヤナギの広まる可能性が出てくる。農林水産における炭素注入の施策は農水省
を通じて国連に報告されている、国内的には農林水産における温室効果ガスの排出削減・吸収の取引対
象化ではCH4,N2O排出削減・農地土壌の炭素貯留・省エネ技術の3本柱で取組む。温室効果ガス排
出・吸収の評価は国立環境研究所より報告書が毎年出ている。国際的情報発信の場として日本はモースンアジ
ア農業環境研究コンソーシアム(MARCO)を作り参加している。低炭素社会に向けた農地基盤管理の解説で講
演を終わる。 予定時間まで質疑応答が活発に行われ有意義に講演会を終了した。